サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

気候変動適応策のガイドラインのバージョンアップ

2013年04月07日 | 気候変動適応

 日本国内において、気候変動(地球温暖化)の地域への影響を評価し、地域における「適応策」を検討する研究に参加して、3年がたった。

 

 その間、「適応策」への取り組み実態について、全国の都道府県・政令市等の実態調査を行い、「適応策」をやっているという回答があったので詳細を確認すると、「適応策」と「緩和策」の区別がわからずに、「緩和策」のことを回答していることが多くあった。「緩和策」とは気候変動の原因である温室効果ガスの排出を削減すること、「適応策」とは「緩和策」を最大限にとったとしても、気候変動の影響は回避できないため、影響からの防御や予防等を行うことである。

 

 また、「適応策」の導入について、いくつかの地域でモデルスタディを行った。地球温暖化対策の課が、気候変動の影響に関連する水災害、農業、自然、熱中症等の関連部署を集め、気候変動の地域への影響を共有し、地域で取り組むべき「適応策」の総合計画を策定してもらい、そこで開発した「適応策」の検討方法を共有し、府全国に広げるという仕掛けである。

 

 ところが、このモデルスタディでは、関連部署が「適応策」の必要性を理解したとしても、「具体的に何をやったらいいか」を提示してもらわないとわからないとか、気候変動の影響といっても将来の影響であり、また影響予測に不確実性があるなら、現在の確実な問題で優先的に実施すべきことが他にあるとか、「適応策」を導入したくない様々な声があげられた。

 

 確かに、これまで「適応策」の方向性や具体例の列挙はされてきているが、その具体像を提案する準備ができていなかった。気候変動の影響予測結果を現場に提供し、それへの対策を一緒に考えようというスタンスであったわけだが、俄かに共感が得られなかったわけである。

 

 「適応策」に限らず、新しい施策を導入する場合、その立ち上がり段階ではなかなか広がりを見せないことはよくある ことである。この普及速度の遅さを規定する要因は、適応策そのものの”普及しにくさ”にかかる要因、行政内の資源制約の状況、組織の膠着性等から体系的に説明することもできる。 

 

  一方、モデルスタディを通じて、現場から返された意見に対応するため、昨年度は、現段階で作成可能な成果物のイメージを具体化するとともに、実施すべき適応策の具体化を進めてきた。そうした成果を踏まえて、「地域適応策ガイドラインVER.2」を作成しつつある。昨年度に公開したVER.1においては、モデルスタディの成果を十分に盛り込めないまま、とにかく検討手順を提示し、現場とのコミュニケーションを開始するものであったとすれば、今回のVER.2はそうした現場の声を反映して、改良を行ったものである。

 

 来年度は、適応策に関する国家戦略の作成が予定されている。2020年頃を目標年次とする地域における地球温暖化防止計画も、2015年前後に中間見直しがされるだろう。そのタイミングで「適応策」を取り込む地域も増えることとが予想される。

 

 「適応策」の普及はいずれにせよ進むだろう。その普及速度を速めるために、また現場の苦労を軽減し、検討を円滑にできるように、気候変動の地域への影響という科学の成果と現場をつなぐ研究をさらに進めたいと思う。

 

 そして、「適応策」とは、長期的な予測に基づく現在の政策を考えるリスク政策であり、また社会経済システムの脆弱性の改善する根本治療である。そうした新しい施策である「適応策」の導入を通じて、波及的な革新ができればと思っている。また、この何年かの「適応策」の導入に係る試みは、今後の政策イノベーションの普及、あるいは科学と政策の対話等に貢献できる、社会実験としての意味を持っている。

 

 

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