SDGsについて、講演を聞いた。講演者は、SDGsの良き特徴として、次の点をあげていた。
①新しいグローバルガバナンスの手法である。これまでのグローバルガバナンスは規制やルールづくりであったが、SDGsは各主体が目標を設定し、それに対するバックキャスティングにより、行動を起こしていく。
②包括的な目標である。ただし、すべてを目標とする必要はなく、入口がたくさんあることで、各主体が参加できる。また、目標どうしを有機的に結び付けながらつかうことで、統合的な解決に踏み出すことができる。
③新しいものさしとなる。SDGsにより未来基準で測ることができる。ただし、定量的に測れるものは限られる。誰一人取り残さないといいつつ、取り残された人はデータにのってこない。
④世界の国が合意した目標であり、共通言語である。これにより、企業等の取組の正当性を国際的に訴求することができる。
⑤中長期的な経営や計画の戦略に使うことができる。イノベーションやコレボレーションの宝箱である。
筆者は、こうした特徴を持つSDGsを国際的な企業や国レベルの政策に使うことは有効であると考える。また、SDGsの視点を既存の計画の見直しや将来目標の検討に補助的に使うこともできると考える。
一方、SDGsを地域で使おうという呼びかけがあるが、地域で使ったことがあるのだろうかと疑問に思うことも多い。私の周りでも、SDGsを地域で使うことについてどう思うかをたずねると、地域では使いにくい点があるという声をよく聞く。
なぜだろうか。SDGsを地域で使ううえでの問題点を列挙しておく。
①国際レベルと地域レベルの課題のずれ
SDGsは、その背景及び検討経緯において、国際レベル・国レベルの持続可能性に係る目標を設定したものであり、地域レベル(都道府県、市町村、集落等)の単位での課題を分析し、目標を設定したものではない。国際レベルでの課題に地域レベルでどう貢献すべきかを検討することにSDGsを使うことは主旨にみあうが、地域自体が持つ課題解決の目標を検討する際に用いるには無理がある(そもそも、そのような目的で作られていない)。このことは169のテーマに書かれている具体的な内容をみれば、明らかである。
②包括的というが足りない
SDGsは、包括的というが、日本の地域レベルの課題に対応する具体的な設定はなく、地域レベルの持続可能性の目標としては漏れがある。また、地域再生・地域活性化において重視される、住民主導による自己統御感、人の成長、精神的な豊かさや関係性によって支えられる幸福感等の視点がSDGsには欠けている。
③国際的な共通言語というが、地域で使うのは現地語である
SDGsは世界的な共通言語であり、世界とコミュニケーションをとるうえで有効かもしれないが、日本の地域は国際語ではなく、現地語である。特に、地域で活動を行う地域住民(新たな視点をもった新住民も含む)は、国際語を使っては活動をしないのではないか(①と関連する)。
さらに、筆者は、持続可能な社会を築くうえで、持続可能な地域づくりによる先取りとその波及・連鎖、ボトムアップによる社会転換という道筋をつくっておく必要があると考えている。そうした立場から、SDGsの課題を次のように指摘することができる。
①受容性を高めると転換は起こしにくい
SDGsのゴールを主体が選択して、将来目標とする際、各主体は慣性の取組みの延長上で実行可能なものを選択するのではないか。受容可能性を高めるうえで差異化や選択は必要であるが、それは大きな枠組みの変革を生成しないのではないか。つまり、SDGsはバックキャスティングによるイノベーションといいつつ、実際には慣性システムの維持や延命に使われてしまう恐れすらあり、漸進的なイノベーションを進めるとしても、社会転換、パラダイムシフト、構造転換の類は生み出さないのではないか。
②環境・経済・社会といったこれまでの枠組みと対応づける
持続可能な社会や持続可能な地域づくりについては、これまで様々な知見が積み重ねられてきた。端的には、環境・経済・社会の統合的発展等として、方向性を示されてきたが、環境、経済、社会というこれまでの枠組みとSDGsのゴールとの対応を明確にした方がいいのではないか。
③持続可能な社会とは何かという議論を避けていないか
そもそも、持続可能な社会、持続可能な地域づくりとは何かという議論を整理し、その目標像を共有する必要がある。持続可能な社会といっても、経済効率や技術革新を重視する立場と地方分散や自立共生を重視する立場で異なる社会となるだろう。そうした社会の姿について、議論と共有を避けてはならない。そうした議論をするにたる知見や情報は十分にある。
最後に。筆者は、SDGsのよいところは、誰も取り残さない、ゴール間の連関を重視するといった点にあるととともに、社会面での目標を多く具体化していることにあると考えている。とかく、環境、経済、社会の統合的発展が必要だといいつつ、社会面の発展の具体的内容があいまいで具体性に欠けることが、これまでの持続可能性にかかる検討の欠点ではなかったか。
SDGsのよい点を材料として、持続可能な社会や持続可能な地域づくりのこれまでの議論を、再構築していくことが望ましい。