1.環境と農業との関係
農業は、自然生態系の中のある土地に、人が働きかける行為である。
自然の中の水や大気の循環、土壌生態系、生物生息等とのバランスをとりながら、農産物の収量の最大維持を図る。自然生態系への配慮が適切な場合の農地は、食糧生産の場であるばかりか、メダカやカエル等の身近な生物の生息空間、保水機能を持つダム、棚田等の美しい景観の構成要素等として、公益的な機能を果たす。
しかし、自然生態系へのバランスが欠ける場合、地力の低下や病害虫による農産物被害等のように、農業自体の持続可能性が損なわれる。
また、過剰施肥による水質汚濁・下流域の富栄養化といった環境影響、また農産物の人体摂取に伴う健康被害(不適切な農薬の被害)等、不適切な農業は環境あるいは人体に悪影響を及ぼす場合がある。
1)施肥の影響
肥料成分の余剰分は、地下に浸透して地下水の水質汚濁原因となる。
例えば、過剰施肥等により、肥料に含まれるアンモニウムは酸化され硝酸性窒素となるが、これは作物に吸収されずに土壌に溶け出し、富栄養化の原因となる。
また、人が硝酸性窒素を多量に摂取した場合、体内で硝酸性窒素が亜硝酸性窒素に還元されて血液中のヘモグロビンと結合し、酸欠状態となる「メトヘモグロビン血症」の原因となることが知られている。
また、肥料は化学肥料と有機質肥料に大別される。
化学肥料は、化学的方法により製造される肥料をいい、一般的に速効性がある(緩効性のものもある)。有機質肥料は、動植物質資材を原料とした肥料をいう。
化学肥料は、1800年代半ばにイギリスで生産が開始された。日本では、19世紀末から20世紀初頭にかけて生産が始められ、有機質肥料を代替してきた。
化学肥料の以前には、身近な里山の下草等の他、「下肥(人糞尿)」、「植物油粕」、「魚肥」等が使われていたが、工業化の進展とともに、安価で大量供給が可能な化学肥料が優先的に使用されてきた。
しかし、化学肥料による地力の低下(保水力や保肥力の減退、土壌が硬くなる、ミネラルのかたより、土壌の酸性化、微生物による動植物死体の分解機能の低下等)が指摘されるようになり、有機質肥料の見直しが進められてきている。
2)農薬の影響
1960年代、レイチェル・カーソンの「サイレントスプリング」が大きな反響を呼んだ。この中で、殺虫剤のDDT等が自然界で分解されにくく、生物濃縮による害を招く可能性を指摘した。
その後、食品残留農薬の調査や農薬取締法が整備され、化学肥料の生産量は全体として減少傾向にある。
3)その他農業による環境影響
農業は、地球温暖化にも寄与している。園芸施設の加温、農業機械の稼動等での燃料使用による二酸化炭素の排出のほか、水田等からのメタン、施肥等に伴う一酸化二窒素といった温室効果ガスが発生している。
農業資材の廃棄物問題も対応が課題となっている。使用済みのビニルハウスの塩化ビニルフィルムや肥料袋等のプラスチック、農業用機械等の廃棄物が発生している。
2.農業における環境への取り組み
1)環境保全型農業
農林水産省では、平成11年7月に「持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律(持続農業法)」を策定した。
この法律に基づき、「持続性の高い農業生産方式の導入に関する計画」を都道府県知事に提出して、当該導入計画が適当である旨の認定を受けた農業者(認定農業者)は、エコファーマーとして認定され、機材調達等による税制優遇等を受けられることとなった。
また、有機農産物の表示が混乱した状況もあったため、「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律」に基づくJAS規格(日本農林規格)において、2000年に有機農産物の規格が策定された。
この規格における有機農産物の規格は、次の通り。
•種まき又は植え付け前2年以上、禁止された農薬や化学肥料を使用していない田畑で栽培する。
•栽培期間中も禁止された農薬、化学肥料は使用しない。
•遺伝子組換え技術を使用しない。
2)バイオマス利用・有機物循環
農林水産省では平成18年3月に「バイオマス・ニッポン総合戦略」を策定し、未利用バイオマスの利用を進めている。
バイオマスの多くが堆肥として農地に利用されている。未利用バイオマスについても、堆肥利用が検討される場合が多いが、食の安全性、地域間のバイオマス移動のコストの問題等がある。
3)農からの地域づくり・社会づくり
農業は、本来、地域における有機物の循環の中にあり、そこに投入されるエネルギーは、太陽エネルギーのみであった。
しかし、肥料の工業製品化や地域外との農産物の移出入の活発化により、地域内での有機物循環が分断されたことに問題があると考える向きもある。
山形県長井市におけるレインボープラン、宮崎県綾町の自然生態系農業のように、地域内の有機物循環(の中での農業)を見直す動きがある。
また、近年では、地域で生産された農産物を地域で消費する「地産地消」が呼びかけられている。
地域の中での生産者と消費者の顔の見える関係、農産物の遠方輸送によるエネルギー消費、他地域からの調達に依存することによる通年型の安定供給による季節感の喪失、単一作物の生産と地域間流通、といった商業化・工業化・近代化された農業への反省が、「地産地消」運動に込められている。
農産物の供給を他地域に依存する程度を示す指標として、フードマイルやエコロジカル・フットプリント等が研究されている。
最後に、NPO法人「農と自然の研究所」の活動を紹介する。
この団体は、食糧の安定供給や経済効率性を重視する中で近代農業が軽視しがちであった農家と消費者の関係、農家と先祖・子孫との関係、農業と生き物との関係の再構築と、“農”を担う人のみが味わえる悦びの再生を訴えている。
農業は、自然生態系の中のある土地に、人が働きかける行為である。
自然の中の水や大気の循環、土壌生態系、生物生息等とのバランスをとりながら、農産物の収量の最大維持を図る。自然生態系への配慮が適切な場合の農地は、食糧生産の場であるばかりか、メダカやカエル等の身近な生物の生息空間、保水機能を持つダム、棚田等の美しい景観の構成要素等として、公益的な機能を果たす。
しかし、自然生態系へのバランスが欠ける場合、地力の低下や病害虫による農産物被害等のように、農業自体の持続可能性が損なわれる。
また、過剰施肥による水質汚濁・下流域の富栄養化といった環境影響、また農産物の人体摂取に伴う健康被害(不適切な農薬の被害)等、不適切な農業は環境あるいは人体に悪影響を及ぼす場合がある。
1)施肥の影響
肥料成分の余剰分は、地下に浸透して地下水の水質汚濁原因となる。
例えば、過剰施肥等により、肥料に含まれるアンモニウムは酸化され硝酸性窒素となるが、これは作物に吸収されずに土壌に溶け出し、富栄養化の原因となる。
また、人が硝酸性窒素を多量に摂取した場合、体内で硝酸性窒素が亜硝酸性窒素に還元されて血液中のヘモグロビンと結合し、酸欠状態となる「メトヘモグロビン血症」の原因となることが知られている。
また、肥料は化学肥料と有機質肥料に大別される。
化学肥料は、化学的方法により製造される肥料をいい、一般的に速効性がある(緩効性のものもある)。有機質肥料は、動植物質資材を原料とした肥料をいう。
化学肥料は、1800年代半ばにイギリスで生産が開始された。日本では、19世紀末から20世紀初頭にかけて生産が始められ、有機質肥料を代替してきた。
化学肥料の以前には、身近な里山の下草等の他、「下肥(人糞尿)」、「植物油粕」、「魚肥」等が使われていたが、工業化の進展とともに、安価で大量供給が可能な化学肥料が優先的に使用されてきた。
しかし、化学肥料による地力の低下(保水力や保肥力の減退、土壌が硬くなる、ミネラルのかたより、土壌の酸性化、微生物による動植物死体の分解機能の低下等)が指摘されるようになり、有機質肥料の見直しが進められてきている。
2)農薬の影響
1960年代、レイチェル・カーソンの「サイレントスプリング」が大きな反響を呼んだ。この中で、殺虫剤のDDT等が自然界で分解されにくく、生物濃縮による害を招く可能性を指摘した。
その後、食品残留農薬の調査や農薬取締法が整備され、化学肥料の生産量は全体として減少傾向にある。
3)その他農業による環境影響
農業は、地球温暖化にも寄与している。園芸施設の加温、農業機械の稼動等での燃料使用による二酸化炭素の排出のほか、水田等からのメタン、施肥等に伴う一酸化二窒素といった温室効果ガスが発生している。
農業資材の廃棄物問題も対応が課題となっている。使用済みのビニルハウスの塩化ビニルフィルムや肥料袋等のプラスチック、農業用機械等の廃棄物が発生している。
2.農業における環境への取り組み
1)環境保全型農業
農林水産省では、平成11年7月に「持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律(持続農業法)」を策定した。
この法律に基づき、「持続性の高い農業生産方式の導入に関する計画」を都道府県知事に提出して、当該導入計画が適当である旨の認定を受けた農業者(認定農業者)は、エコファーマーとして認定され、機材調達等による税制優遇等を受けられることとなった。
また、有機農産物の表示が混乱した状況もあったため、「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律」に基づくJAS規格(日本農林規格)において、2000年に有機農産物の規格が策定された。
この規格における有機農産物の規格は、次の通り。
•種まき又は植え付け前2年以上、禁止された農薬や化学肥料を使用していない田畑で栽培する。
•栽培期間中も禁止された農薬、化学肥料は使用しない。
•遺伝子組換え技術を使用しない。
2)バイオマス利用・有機物循環
農林水産省では平成18年3月に「バイオマス・ニッポン総合戦略」を策定し、未利用バイオマスの利用を進めている。
バイオマスの多くが堆肥として農地に利用されている。未利用バイオマスについても、堆肥利用が検討される場合が多いが、食の安全性、地域間のバイオマス移動のコストの問題等がある。
3)農からの地域づくり・社会づくり
農業は、本来、地域における有機物の循環の中にあり、そこに投入されるエネルギーは、太陽エネルギーのみであった。
しかし、肥料の工業製品化や地域外との農産物の移出入の活発化により、地域内での有機物循環が分断されたことに問題があると考える向きもある。
山形県長井市におけるレインボープラン、宮崎県綾町の自然生態系農業のように、地域内の有機物循環(の中での農業)を見直す動きがある。
また、近年では、地域で生産された農産物を地域で消費する「地産地消」が呼びかけられている。
地域の中での生産者と消費者の顔の見える関係、農産物の遠方輸送によるエネルギー消費、他地域からの調達に依存することによる通年型の安定供給による季節感の喪失、単一作物の生産と地域間流通、といった商業化・工業化・近代化された農業への反省が、「地産地消」運動に込められている。
農産物の供給を他地域に依存する程度を示す指標として、フードマイルやエコロジカル・フットプリント等が研究されている。
最後に、NPO法人「農と自然の研究所」の活動を紹介する。
この団体は、食糧の安定供給や経済効率性を重視する中で近代農業が軽視しがちであった農家と消費者の関係、農家と先祖・子孫との関係、農業と生き物との関係の再構築と、“農”を担う人のみが味わえる悦びの再生を訴えている。