白珠だより

札幌にて美人画と武者絵を扱っております白珠画廊のブログです。

花の命は短くて

2011-02-01 | 画廊の様子
椿の花は冬枯れの風景の中でその気高く
清らかなつぼみをひそやかに膨らませながら
春の訪れを待っています。

この樹は暖かな気候に育ちここ北国にはないけれど
本州では初冬から遅い春まで日本人の誰もが知っている
美しく愛らしい花を次々に咲かせます。。
白玉椿から淡いピンクの侘助椿に、黒椿へと移り咲き、
山を一面紅にそめる山椿が咲く頃にはもう春爛漫です。

椿はその姿が美しいばかりではなく、
幹は堅くて丈夫なので大昔には、斧の柄などが作られたとか。
また縄文の貝塚からは紅い漆で塗られた椿の縦櫛が
出土したそうです。
縄文の人々は知恵と美の感性が豊かに備わっていたのでしょう。

平安時代の衣の重ね着の配色では、冬の色目の中に
「椿」があります。表が蘇芳、裏が赤のとてもシックな
寒椿の花の写しです。どのような貴人が纏っていたので
しょうか。庭に降りた白雪に映えてさぞ美しかった
ことでしょう。

源氏物語の「若菜」の巻の中で宴の席の若者達が
椿の二枚の葉っぱに挟んだ蒸し菓子の椿餅(つばいもちひ)を
手に取ってわいわい楽しむ場面はなんとも微笑ましく
美味しそうです。

椿は平安時代から聖木として大切に扱われ、美しく可憐な花は
色や模様、形が多彩で厚みのあるよく磨かれた緑の葉と共に
椿文と呼ばれて多種に文様化され、様々な日用品や布に
用いられてきました。

夢二も彼の愛する女性達の髪や着物を様々な椿の花模様で
飾りその美しさを永遠に留めるために花時の恋人達を花時の
椿の花で描きました。‥‥‥花の命は短いと惜しみながら。

今日の一枚  「落椿」  竹久 夢二  絵葉書 

ふんわりと綿雪をかぶった紅い椿の花びらと小さな椿餅は
私の手のひらに新潟の祖母の優しい想い出を残して
くれました。                 
                        
                     s・y