名酒 寒菊物語
飛行機の轟音が聞こえる。空を見上げると飛行機の機影が大きくはっきりと見えた。名酒「松尾自慢」を醸す酒蔵佐瀬商店は千葉県松尾町にある。松尾は成田に近い。総武本線に沿って国道126号線が走る。国道126号線の東側の彼方は一面の松林になっている。成東方面に向かってJR松尾駅手前を左折し、松林に向かって行くとその林の中に佐瀬商店の酒蔵がある。「あの松林を抜けるとすぐ九十九里浜ですよ」。子供を連れて夏、泳ぎに来たことをmさんが話す。耳を澄ますと九十九里の波音が聞こえるような気がした。
蔵の西側に地ビールエ場とビアハウスが建てられ、はめ殺しの透明なガラス越しにビールエ場がビアハウスから見ることができる。できたてのビールを味わにいながら蔵の奥さんから話を伺った。
寒菊さんが酒造りで気をつけてにいることは何ですか。
小さな蔵なものですから。すべて手づくりなんです。大手さんのように機械化しておりません。機械で造られたお酒に比べて手造りのお酒は造った人の心がお客さまに伝わるのではなひかと思ってにいます。素直な性格の杜氏さんが造ったお酒は素直なお酒になるように思います。事務的に忙いで造ると薄っぺらなお酒ができます。きっと心がこもっていないからなのではないかと思います。お酒造りには「待つ」余裕がありませんとお酒にそっぽを向かれてしまいます。酒造りには勤務時間がありません。勤務時間がきても醪をじっと見つめておりませんとお酒は勝手な動きをしてしまにいます。絶えず気を張っておりませんと良いお酒にはなってもらえないようです。ボーツとしていては良いお酒はできません。酒造りに心を込めるということは、絶えず気を張り、酒造りに集中することだと思ひます。のんびりしていては、よいお酒はできません。
ビールとお酒はどんなところが違いますか。
ビールはグラスも大きいでしよう。だから言葉が悪いんですけど、ガブガブ飲む飲み物のように思います。アルコール度もお酒に比べて低く抑えてありますからガブガブ飲める。それに比べて日本酒はガブガヅ飲めませんものねえー。だから猪口も小さなものです。口に含む量も少なく、一滴、一滴、味わって飲むもののように思います。多くの人が集まってガヤガヤ、わひわい楽しんで飲むにはビールが良いように思います。日本酒はそのようなお酒ではないように思います。静かにじっくり会話を楽しみながら飲むお酒のように思います。日本酒はやはり日本文化の粋ではないかと思います。
酒蔵を舞台にした宮尾登美子さんの小説に『蔵』があります。映画にもなったり、テ
しビドラマにもなって評判になりました。NHK、朝の連続テしビ小説にも酒蔵が舞台
になったものが放映されました。酒蔵の奥さんの仕事で気を使うことはなんですか。
私は特に気をつかったとにいうことはありませんでした。夫に協力し酒造りに夢中だったように思います。うちは本当に開放的な家なんです。お酒の需要が徐々に減ってくるころでしたので、これからどうするかということで夢中でした。夫が吟醸のよいお酒にシフトする方針を出しましたので、その成功のためにずっと頑張り、これからも頑張り続けていこうと思っています。