醸楽庵だより

芭蕉の紀行文・俳句、その他文学、社会問題についての評論

醸楽庵だより  510号  白井一道

2017-09-09 14:32:33 | 日記

 福井の酒「一の谷」山廃特別純米酒斗瓶囲の酒を楽しむ


侘輔 今日のお酒は福井県のお酒なんだ。前にも一度楽しんだことがある。
呑助 「一の谷」でしたね。
侘助 そうそう「一の谷」だった。その「一の谷」の山廃、斗瓶囲という造りのお酒を楽しもう。
呑助 前ゝ回楽しんだお酒は「別誂 山廃仕込特別純米生原酒」だったように思いますが、今回の造りはどんな造りなんですか。
侘助 山廃造り、精米歩合が五〇%の純米酒。
呑助 吟醸の酒ですね。
侘助 そういうことかな。埼玉の純米酒と言えば何といっても有名な酒は何でしたっけ。
呑助 そりゃ、「神亀」でしょう。
侘助 そう、酒造界では有名な蔵元だった。社長の小川原良征(おがわはらよしまさ)さんが今月の二十三日に癌で亡くなられたという話を聞いた。「神亀」の蔵の裏に売店があった。この売店で神亀以外の酒が一点だけ売られていた。そのお酒が福井県宇野酒造の銘柄「一の谷」のお酒だった。
呑助 「神亀」の蔵元が認めていたお酒が「一の谷」の純米酒だったんですか。
侘助 そのような話を坂長さんから聞いた。特に山廃仕込みの造りが実に上手だと小河原氏は言っていたという。
呑助 山廃造りというのはそんなに難しい造りなんですか。
侘助 お酒の酛(もと)、又の名を酒母(しゅぼ)と言われているものを造るのが難しいようだ。なぜなら麹と水から乳酸菌を造り出す過程が難しい。
呑助 その難しさとは、何なんですか。
侘助 蒸米と麹と水をいれたタンクの中に乳酸菌を生成させることが難しい。
呑助 蒸米が溶けなければお酒にはならないですよね。ほっておいても蒸米は溶けるんですか。
侘助 そう、だから半切り桶に蒸米と麹、水を張り櫂で押しつぶす作業を山卸と言ったんだ。この作業を昔は夜を徹して行った厳しい厳しい作業だった。蔵人は皆で声を合わせて行う作業だった。この中から酒造りの歌が生まれてきたんだ。
呑助 この山卸の作業を廃止して造られた酒母、酛が山廃酛なんですね。
侘助 そうなんだ。だから山卸の心得を「櫂でつぶすな麹で溶かせ」なんていう言葉がある。
呑助 蒸米が麹によって溶けるには時間がかかるんでしようね。
侘助 速醸酛と比べて倍以上かかると言われている。だから値段も高くなる。
呑助 速醸酛とはなんですか。
侘助 化学製品としての乳酸菌を酛にいれて造られた酛を速醸酛と言うんだ。
呑助 なぜ乳酸菌が酒造りには必要なんですか。
侘助 私たちの身の回りには雑菌が満ちている。この雑菌が酛の中に入ると酒が生成しないんだ。酛の中に雑菌が入ってきても乳酸菌が酛の中に満ちていれば雑菌は殺されてしまう。だから乳酸菌のある食べ物を食べると我々の腸の中の雑菌を殺してくれるので腸の健康を保ってくれるようだ。
呑助 山廃造りの酒は速醸酛の酒と比べてどのような違いがあるんでしゅうかね。
侘助 山廃酛の酒は時間をかけてじっくり蒸米が溶け、酒になっていくわけだから、酒の旨みや酸味、味わいが深く、豊かになっているということかな。