ガース・ウィリアムズさんと言えば、自分的に一番最初に思い浮かぶのが「大草原の小さな家」シリーズの挿絵を描かれていた方ということだったり♪
なんにしても、↓でちょろっと出てくるものでトップ画として貼ってみたっていうだけなんですけど……原題「The Rabbits' Wedding」ですから、「そういうお話なんだな~☆」と思っていただければと思います
まあ、それ以前に絵本として超有名すぎるほど、有名とも思うんですけどね(^^;)
そんなわけで、以下あらすじ&ネタバレ☆ですm(_ _)m
>>しろいうさぎとくろいうさぎは、毎日いっしょに遊んでいました。
でも、くろいうさぎはときおり悲しそうな顔で考えこんでいます。
心配になったしろいうさぎがたずねると「ぼく、ねがいごとをしているんだよ」と、くろいうさぎはこたえます。
くろいうさぎが願っていたのは、しろいうさぎといつまでも一緒にいられることでした。
それを知ったしろいうさぎはどうしたでしょうか?
優しく柔らかな、2ひきのうさぎの物語!!
「ほんとに そうおもう?」 しろいうさぎが ききました。
「ほんとに そうおもう」 くろいうさぎが こたえました。
「じゃ、わたし、これからさき、いつも あなたと いっしょにいるわ」と、しろいうさぎが いいました。
「いつも いつも、いつまでも?」 くろいうさぎが ききました。
「いつも いつも、いつまでも!」 しろいうさぎは こたえました。
しろいうさぎは、やわらかな しろいてを さしのべました。
くろいうさぎは、そのてを そっと にぎりしめました。
(『しろいうさぎとくろいうさぎ」ガース・ウィリアムズさん文&絵、まつおかきょうこさん訳/福音館書店)
しろいうさぎとくろいうさぎの結婚式♪
そして二匹は永遠に幸せに……
ええとですね、こういう紹介の仕方って、野暮も野暮も、野暮中のヤヴォ☆なんですけども、他にちょっと書くネタなかったもので、なんかこんな形に(すみません)
そして、画像のほうはすべて密林さんよりm(_ _)m……といったところなんですけども、検索した時にこの「しろいうさぎとくろいうさぎ」の続編があることを知りました
この本、欲しいな~♪
そんで、もし入手したらば、また御紹介しようと思います
それではまた~!!
聖女マリー・ルイスの肖像-【25】-
イーサンが親友のルーディに「いかに自分が結婚相手として高いスキルを持っているか、日々見せつけられつつ、唯一セックスだけはさせてもらえない」……などと愚痴をこぼしているとも知らず、マリーのほうでは子供の小さなことで気を揉みながらも、やはり幸せだった。
ミミは毎日、「今日は幼稚園、どうだったの?」と聞くと、「今日もまあまあよ、おねえさん!」といつもニコニコ答えていたものだが――十月の初め頃、幼稚園で親同伴のピクニックがあった時のミミの喜びようといったらなかった。ピクニックと天国がまるでひとつになって明日やって来るというくらい、前日から興奮に興奮して、寝かしつけるのにマリーも苦労したものである。
そしてその興奮状態は、朝早く目覚めた時からはじまり、一生懸命マリーの足許にまとわりついては、「ねえ、おねえさん。バスケットには何が入ってるの?」と何度も何度も聞いていたほどだった。マリーのほうでは準備で忙しいため、「ミミちゃんの大好きなものよ」とだけ答え、忙しなく手を動かすのみだったといえる。
四人兄妹の中で、ココは一番手がかからず、彼女はおねえさんが他のふたりの愚かな兄や、幼い妹の世話で忙しいとわかっているため、自分でとっととトーストを焼き、それにグリーンスムージーを飲んで朝食を終わらせる。この間、大体はマリーが「オムレツもあるわよ、ココちゃん」だの言って皿を出してくれるため、そうしたものを食べたりして、あとは前日に用意しておいたカバンを背負い、友達の家へ真っ直ぐに行く。
別々のクラスになってしまったとはいえ、今も仲のいいモニカ・ブランウェルやカレン・コートニーとココはいつも一緒に登校している。
一方、ランディはまず朝なかなか起きてこないことから、イーサンが大学院へ進んでからは彼が五階の部屋まで起こしにいっていた。すると、軍隊生活を送る一兵卒のように、ランディは慌てて朝の準備をはじめたものである。だらしない兄とは違い、もともと性格が几帳面なロンはこの頃、すでに下の食堂でごはんを食べている。
こうして四人の自分の弟妹を見ていると、同じ父と母のDNAを持つとはとても思えないことから――(やれやれ。おまえらを見てるとほんと、親父が何故一人一人自分の子かどうかと疑い、DNA検査までさせたのかがわかる気がするな)とイーサンは思ってしまうが、実際にそんなことを言ったりはしない。そのかわり、「ほら、ちゃんと今日の用意くらいきのうのうちに済ませておいて、おねえさんに余計な手間をかけさせるんじゃない」と注意するのみである。だが、イーサンはある部分、そのようなランディの態度を好もしいと感じていたかもしれない。
ココは別だが、ランディもロンも、自分という厳しい兄が相手では「甘える」ということがほとんどない。だが、マリーの様子を見ていると「いいかげんにしてちょうだい、ランディ!」と叫ぶでもなく、毎日ギリギリまで寝、それから学校へ行く準備をするこの次男の面倒をよく見てくれていた。そして時間ギリギリまで食べられるだけ色々なものを詰めこみ、ゲップをひとつしてからランディは待たせていた友達と一緒に登校するのである(リアムもケビンもすっかり慣れたもので、ランディがすっかり用意を済ませるまでの間、マリーの手料理をひとつかふたつ食べながら待つというのが、楽しい習慣になっている)。
イーサンはこの時、『最初、俺も思ったんです。マクフィールド家の子たちは、マリーおねえさんの有り難味を本当はわかってないんじゃないか、みたいに。でも本当は違うんですよね。本当の兄弟姉妹みたいに仲がいいから、ずけずけはっきりものを言ったり、甘えたりできるんだなって、一緒に旅行してる間に気づいたんです』……そんなふうにネイサンが言っていたことを思いだし、少しばかり心中が複雑でもなかった。
(俺も「あと一年の我慢だ」なんてつい言っちまったが、子供にとっての<一年>っていうのはある意味大人以上に長いからな。あの子が墓場のような食卓で意気阻喪しつつ、これから一年しっかり勉強して受験するっていうのは……実際とてもきついことだ)
ランディはといえば、ウィンナーソーセージを急いでごっくんと飲みこみ、口許のバターを拭うと、「ごっそーさん!」と言って慌てて席を立っている。それから、「おっと失敬!」などと言って、特大のゲップを友達ふたりに聞かせ、「きったね!」と笑いながら、リアムとケビンは急いでマクフィールド家を出ていく。
そして最後にマリーは「ハンカチは持った?」だの「宿題は大丈夫よね?」、「忘れものはない?」だのとランディを追いかけながら矢継ぎ早に聞き、手のかかる弟のことを見送るのだった。ロンはといえば、いつも大体同じ時刻に起こされなくても起床し、静かに黙って食事したのち、小さな声で「いってきます」と地味に出ていくことが多い。マリーは彼に対しては大抵、「いってらっしゃい!」と言ってキスをし、その日のおやつのメニューを言ったり、夕食は何がいいかと聞いたりすることが多いかもしれない。
最後にミミだが、この日はピクニックだったので違ったにしても、彼女はゆっくり起床し、目をこすりながらのんびり着替え、幼稚園のバスが自分を永遠に待っていてくれるかのように時間をかけて食事する――なので、実はランディ以上にミミのことのほうでマリーは気を揉んだ。顔にはあまり見せないようにしながらも、「ミミちゃん、もうすぐバスが来るのよ」、「バスがもうすぐ来ちゃうのよ、ミミちゃん」と言っては、逐次一生懸命せかさなくてはならない。
だがこの日、ピクニックの喜びに溢れたミミは、いつも以上に朝早く目覚め、お着替えも自分で全部し、シャキーンとすっかり目覚めた様子でうさしゃんと一緒に食卓についていた。いつもマリーおねえさんが作ってくれるトースト――うさぎとくまが布団に寝ている絵が、チョコペンシルによって描かれている――の布団の部分にたっぷりジャムを塗り、いつものようにのろのろではなく食事のほうも手早く終えていた。
「今日のふとんの色はぶどう色か」
そうイーサンがそばで食事をしながら聞くと、ミミはブルーベリージャムを塗りたくり、「うさぎさんとくまさんはね、とっても深く愛しあってるの!」と嬉しそうに言った。確かに、布団の縁に小さな手を添えている二匹の間にはハートマークまで描いてあったが、ミミはまず広範囲な布団の部分を食べると、最後にこの愛しあっている二匹の動物に至るまで、すべて食べてしまうのだった。
ここでもイーサンはもちろん、「最終的にうさぎとくまは、ミミの胃の中で胃酸とともに深く結ばれていることだろう」などと意地悪なことを言ったりはしない。ただ、子供たちがひとり、またひとりと学校に出かけていく様を、魔法使いが魔法を使っているかの如く感心して眺めやるというそれだけだ。
こうして最後にミミだけが食卓に残ると、マリーはエプロンを外し、自分の部屋で身支度をして戻ってきた。紺色の小花模様の服を着、最後にもう一度バスケットの中身を確認すると、彼女は少し疲れたような満足の吐息を洩らしている。いつも以上に早く食事を終えたミミはといえば、幼稚園のバスがやって来るのも待ちきれない様子で、「ピクニック!ピクニック!とっても楽しいピクニック!!」と叫んでは居間のソファのまわりを走りまわったり、かと思えば、意味もなく廊下を走りまわったり、階段を上がったり下りたりする間も「なんて素晴らしいピクニック!!」と繰り返し叫んでいるほどだった。
「やれやれ。大変なはしゃぎようだな。たまたま晴れてくれたから良かったようなものの……これで雨が降ったりたら、どんなことになってたか」
「ええ、ほんとに。きのうの夜は寝かしつけるのが大変でしたもの。寝る前に「明日晴れますように」って何度も神さまにお祈りして……しかもそのあと、一度寝たかと思えば、「本当に晴れると思う、おねえさん?」って何度も何度も聞いてくるんですもの。その度に「天気予報ではそう言ってたわ」って言ったりして……」
この日、イーサンは珍しく洗い物の手伝いをしてやった。洗い物などといっても、食器洗浄機に皿やスプーンを突っ込めばいいだけではあるのだが、全部の食器をきちんと収めるためには、それなりにちょっとしたコツがいる。
「そろそろバスが来るだろ?戸締まりのほうは俺が最後にしていくから、心配しなくていい」
「ありがとう、イーサン。なんだか散らかしっぱなしのまま出かけるみたいで心苦しいんですけど……」
「まあ、気にするな。それよりおまえは、シングルファザーの色目に捕まったりしないよう、気をつけろよ」
ここでミミが「いろめってなあに?」と不思議そうに聞いたたため、イーサンは可愛い妹のほっぺたにキスしてやった。
「クマがうさぎに向かって目をハートマークにすることさ。なんにしてもミミ、ピクニック、楽しんでこいよ」
「うん!!ミミ、この日がやって来るのをずっと、心待ちにしてたの。でもね、にいたん。ようちえんの先生、おかしいのよ。きのうね、先生はみんなに言ったの。明日はみんながまちにうまったピクニックですって。ミミね、先生のおっしゃってることがよくわかんなかったの。でも誰も質問したりしないから、ミミも知ってるふりして黙ってたの。ねえ、にいたん。「まちにうまった」って、町が何かで埋まるほど嬉しいとか、そういう意味なの?」
最初、イーサンにもマリーにもミミの言っている言葉の意味がよくわからなかった。そして一瞬ののちに「町に埋まった」ではなく「待ちに待った」ということなのだろうと理解して、マリーとイーサンは顔を見合わせて笑った。
と、ここで表のほうにバスの停まる音がし、プップーと普通の車より騒々しくない警笛音がする。
「じゃあ、いってきますね」
「にいたん!次はきっとミミと一緒にピクニック行くって約束してね!!」
イーサンは表に出て、マリーとミミがバスに乗るのを見送り、窓から一生懸命手を振るミミに応えてやった。マリーはおそらく毛ほども気づくことはなかっただろうが、このことは彼にとってある意味があった。若いシングルファーザーなんていうのが一緒にバスに乗っていた場合、自分という<父>のことを見て変な気を起こさないように……ということをアピール出来ればと思ってのことだった。
向日葵色の車体に動物のたくさん描かれたバスが行ってしまうと、イーサンは(やれやれ。これで朝の戦争も終わったか。そんじゃまあ、俺も大学へ行くか)と思い、戸締まりをしてマウンテンバイクに乗った。
彼は極めて上機嫌で、鼻歌を歌いながら自転車を漕ぎ、プラタナスや他の落葉植物が葉を落としつつあるヴィクトリアパークを突っ切り、秋が支配する幸せな香気に満たされつつ、ユトレイシア大学まで意気揚々と自転車を走らせていったのだった。
* * * * *
この日、ミミもまた極めて上機嫌で、大好きなおねえさんとのピクニックを心ゆくまで楽しんだ。
ピクニックの場所はユトレイシア河畔公園で、目の前を壮大なユト川が流れてゆくそばにある公園だった。驚くほど広い面積に花が植えられたその場所は、色彩の丘と呼ばれている。やはり一番の見ごろは夏ではあるのだが、秋となった今もひまわりがまだ咲き残っていたし、他にマリーゴールドやブルーサルヴィア、コスモスやケイトウ、ダリアなど、七色の絨毯を意識して栽培されている花々は、まだ美しく咲き誇っていたといっていい。
他に、すぐそばに恐竜とアンモナイトの博物館と煉瓦工場を見物できる場所があり、花を楽しみながら運動し、そこでランチしたあとは博物館や工場のほうを少し覗いて戻ってくる……というのが、今回のピクニックの大体のあらましである。
だがこの日、マリーは思ってもみない方角から他のママたちの攻撃を受けてしまい、ランチが済んだあとはすっかりしょげかえってしまった。というのも、ミミが特に仲のいい子たちに配りたいと言ったので、ミミの大好きなあざらしパンとラッコパンを少し多めに作ってきたのだが――それを受け取った子のママから文句を言われてしまったのだ。
「こういうの、むしろ困るのよ」
花畑の間をあちこち散歩したあと、ユト川の見える緑の芝生に敷物を敷き、マリーはミミと一緒にそこでバスケットの中のものを広げていた。マリーが腕を揮っただけあって、量はたっぷりあったし、なんとなく雰囲気として「美味しそうなものが並んでいる」のがわかり、自然子供たちはミミの元へと寄ってきた。
そこで、誰かが「ぼくのジャムパンとそっちのラッコを交換してよ」と言うと、ミミは少し得意そうにして「マリーおねえさん、そうしてもいい?」と聞くのだった。そうやってたくさんの子たちが同じようにしていったので、ミミはまるで大繁盛しているお店の女主人のように、「まあ、しょうがないですねえ。おまけしてあげますか!」だの、「いい商売ができて良かったですわ!」だの言っては大喜びしていた。
ところが、である。
「ここの幼稚園に通ってる子のママたちは、あなたみたいに暇な主婦ばかりってわけじゃないの。わたしだって今日はパートの仕事を休んで無理して参加したし、そんなに手のこんだものばかり作ってる余裕なんかないわ。あなた、子供のママたちに知り合いなんて誰もいないんでしょう?だから空気が読めないのよ」
こうマリーに突っかかってきたのは、スーザン・デュプリとヘレン・クラークだった。スーザンの子供はアンナと言い、またヘレンの娘はリリーと言って、ミミとも仲がいい。ゆえに、ふたりには物々交換でなしに、ミミは気前よくアザラシパンとラッコパンを分け与えていたものだった。
「すみません。わたし、そんなつもりじゃなくて……」
「べつに、いらないのよ、そういうの」
今度はヘレンに、語気も強くそう言われて、マリーはここでもショックを受けた。
「そうやって被害者面して、わたしたちのこと、悪役にでもしたらいいわ。でも、子供のために働きながらどうにか時間を作ってるワーキングマザーのことも少しは考えてって言ってるの。まあね、子供たちも喜んでるから、わたしたちもこれ以上のことは何も言わないわよ。じゃあ、そういうことで!」
マリーはすっかり胸を刺される思いで意気消沈していたが、ミミが「商売繁盛!大繁盛!!」と言って喜んでいるので、実はぐっさり傷ついた……というところは見せなかった。突然食欲もなくなり、自分で作ったパンをひとつ食べ、ナシのジュースを飲んだあとは、もっぱらミミの話相手をして過ごす。
そして食事が終わると、ミミはアンナやリリーやエマといった仲のいい子たちが誘いにくると、交換するのにキャンディやラムネなどをポケット一杯に詰めこんで、花畑のほうへ出かけていく。
(そうよね。わたしがもっとしっかりしなくちゃ……こんなことが原因でミミちゃんが意味もなく仲間外れにされたりとか、そういうことにだけはならないように気をつけよう)
そう思ってはみても、マリーはやはり朝バスに乗った時ほどのうきうきした気分にはもうなれなかった。天気も快晴で、「こんな日にはきっといいことがありそう!」と思ったそんな時……心ない人の何気ない一言で、そのあとの一日がすっかり台無しになることがあるものだが、この日のマリーがちょうどそうだった。彼女はもうピクニック気分などではまるでなく、なんだか早く家に帰りたいとしか思えなくなっている。
そしてマリーが(あんなにピクニックを楽しみにしてたミミちゃんのためにも、わたしがしっかりしなくちゃ!)と思っていた時のこと……ミミが「まあまあいい先生」と評するジュリア・ヘイフォード先生がやって来て、「少し、よろしいですか?」と言った。
「ええ。もちろん、どうぞ!」
そう言ってバスケットをよけてスペースを作ると、髪をポニーテールにしたジュリア先生は、マリーのすぐ隣に腰かけた。彼女はマリーよりも二つ年上の二十八歳だったが、自身はまだ結婚していない。ゆえに、遠くから見ていてマリーがアンナ・デュプリやリリー・クラークの母親に何を言われたかは……大体のところ察しがついた。
「あんまり、気にしないほうがいいと思いますよ」
ジュリアはブロンドに青い瞳の、快活そうな雰囲気の先生だった。その彼女がにっこりと笑って続ける。
「それより、もっといいことを考えたほうがいいです。ほら、あそこのジョージ・サイラスくん。今日、両親とも都合がつかなくて先生たちと一緒にごはん食べたりしてたんですけど……あなたの作ったラッコパンを食べて、そりゃ嬉しそうにしてましたもの。もうひとつのアザラシパンのほうは、お母さんに持って帰ってあげるんですって。色んなタイプの親がいますからね、だからそんなにあなたがくよくよなさることはないと思いますよ、マクフィールド夫人」
「は、はあ。そうですね。ありがとうございます。なんだか少し、元気が出ました」
このあとジュリアは「それじゃ」と言ってさりげなくいなくなってしまったが、マリーは(まあまあどころでなく、とってもいい先生だわ)と思ったものだった。マリーにしても、自分以上に派手なセレブっぽいママもいるのに――そして彼女はブランドもののバスケットに百貨店のご馳走を詰め込んで参加していた――何故自分だけがあんなふうに言われたのだろうとは思っていたのだ。
これはあくまでマリーの推測だが、このセレブっぽく見えるレオナ・アダムソンの母親には、おそらくママ友がいてそのグループに守られているということなのだろう。その点、マリーはこうしたママ同士のつきあいといったものをどうしたらいいのか、皆目見当がつかないのだった。
(そうよね。考えてもみないことだったけど、こういうことっていうのは、子供たちがみんな学校を卒業するまでずっと続いていく大切なことですもの。わたしが母親としてもっとしっかりしなくちゃ……)
午後からは恐竜とアンモナイトの博物館、それに煉瓦の工場を見学して、マリーはミミと一緒にバスで帰ってきた。ミミは朝から帰りのこの時まで終始一貫して元気そのものであり、他の友達と「バイバーイ」したあとは、マリーと手を繋ぎ、スキップして家のほうまで戻ってきた。
ミミは友達と物々交換したものがまだたくさんバスケットに残っていたため、それをテーブルの上に広げると、ひとつひとつ大事そうに数えあげていたものである。
「これはダンがくれたものでしょー、こっちはアンジーがくれたチョコレートパン!あと、このいちごのタルトはおねえさんのオレンジのタルトと交換したの。おねえさん、ピクニック楽しかったね!これからも毎日がピクニックだったら、ミミうれしいのにな」
そして『何故そうじゃないのかしら?』というように首をひねりつつ、ミミはマリーの入れたココアを飲んでいた。この時、ロンが家に帰ってきて、ダイニングテーブルに広げられているものを見、驚いた振りをする。それもいかにも白々しく、「ワーオ!」などと。
「やあ、随分種類が豊富なんだね。ミミお嬢さん、これをどれかひとついただけたりしませんか?」
「ちゃんと手を洗ってきたらいいですよ!」
ミミがマリーの口真似をするようにそう言ったので、ロンは笑いながらカバンを置きに自分の部屋へ上がっていった。
「そうだわ。ココちゃんたちのおやつがないんだったわ。随分色々作ったものだから、少しくらい何か残ると思ってたのよね」
独り言を言うようにマリーはそう言い、冷蔵庫の中を覗き込んだ。棚のところにはきのう焼いたクッキーやマドレーヌなどが残っているが、それだけではランディもココもがっかりすることだろう。
「ねえ、ロン。今日のおやつはかわりにピザを頼むっていうんじゃ駄目かしら?」
「うん、いいよ」
ミミからジンジャークッキーをひとつ譲ってもらい、それを口に放りこみながらロンは言った。
「おねえさんもさ、幼稚園のピクニックにつきあわされて疲れただろ?だから、夕食のほうも今晩は手抜きで全然いいよ。ランディもココもそう言えば何も文句言わないんじゃないかな」
「ごめんなさいね。わたしもあちこち歩きまわって、疲れたものだから……」
というより、ヘレンとスーザンに釘を刺されてから、突然他の親のことなどが気になりだし――マリーは妙に気疲れしてしまったのだった。もしそんなことでもなければ、今何か工夫しておやつを作ることも、そんなに面倒だとは思わなかったかもしれない。
このあと、ココが次に帰宅し、ランディも帰ってきたわけだが、おやつはピザでも全然構わないし気にしないということだった。ミミはココが帰ってくると「お姉ちゃんにはあげないもん!」と言って、テーブルの上に広げていたものをバスケットに片付け、そのまま自分の秘密基地へいった。そしてそこで、お友達のうさしゃんに「これはね、エディがくれたクッキーなの。パウンドケーキのひとつと交換したのよ!」だのと、順番に説明してあげたのだった。
イーサンはこの日、マリーとふたりきりになれる時間はないとわかっていたため、講義の終わったあとはルーディとラリーの寮のほうへ行き、遊んでから帰ってきた。それでも、自分の分のピザが残っていたことで、おやつはピザだったらしいこと、それに晩ごはんがカレーだったことで……(まあ、マリーもミミのお守りで疲れたんだろうな)とすぐに察していた。
夕食後、イーサンはミミが「兄たん、こっち来て!」と言うので、彼女の秘密基地までついていった。そしてそこでイーサンは、ミミがうさしゃんに夕食前にしたのとまったく同じ説明――「このジェリービーンズはアップルパイのひとつと交換したのよ!」だのいう――を長々話すのを、最後まで辛抱強く聞いたのだった。
そして最後、ミミはテリアの形をしたクッキーをイーサンにくれたのである。
「いいよ、ミミ。これはおまえが食べろ。せっかく友達がくれたものなんだろ?」
「うん。でもいいの!ミミ、兄たんのこと大好きだから、この中でも一番気に入ってるのをあげたかったの!」
こうとまで言われては、イーサンにしても受け取らないわけにいかない。そこで有り難くテリアのクッキーを頂戴することにして、「兄たんは勉強があるんだ」と言って、秘密基地をあとにした。実際には、レポートの締め切りまではまだ数日あるため、そう急いでいることもなかったのだが、まあそろそろといったところである。
だがこの時、イーサンはミミの子供部屋を出て、マリーの部屋の前を通りかかった時に――彼女の部屋のドアは大抵、数センチ開いている――マリーが泣いているのを見て驚いた。一瞬立ち止まって後退さりし、声をかけるべきか否かと思案して、やはり声をかけるということにする。
「おい、マリー。どうかしたのか?」
今更ながらではあるが、(うちの豚児どもの面倒を見るのが心底嫌になったとか、これはそういう……)と思い、イーサンとしては心配だった。彼女のことだから、もう本当に我慢できないという限界に至るまでは、おそらく顔や態度に見せることはないだろう。だが、マリーのようなタイプはむしろそうなってからでは遅いのである。
「いえ、なんでも……」
マリーは泣いていたのを恥じるように、向日葵のエプロンの裾のほうで、急いで涙を拭った。
「ほら、言えよ。あんたみたいなタイプはなんでも自分の内側に溜め込むっていう、そんな感じだろ。なんだ?ガキどものピクニックに行って、自分が一番若かったからとかいう理由で、いじめにでもあったか?」
実際のところは少し違ったが、それでも大枠ではあっていると思い、マリーはまた少しだけ泣いてしまう。
「どうしてわかるんですか?正確にはいじめとかっていう大袈裟なことじゃなくて……ほんの少しだけキツイことを言われたっていうだけなんですけど。でも、なんだかそんな小さなことをずっと気にしてる自分が情けなくって……」
このあとマリーは、イーサンに促されるがまま、今日一日、ピクニックで何があったかのあらましを話して聞かせた。
「なるほどな。そりゃ確かにジュリア先生の言うとおり、あんまり気にする必要のないことだ。それに、ミミは来年は小学生だからな。そこでもまたアンナやリリーたちと同じクラスになったらまた考える必要があるだろうが――まあ、この一年限りのことだと思って、深く考えないほうがいい。それに、ガキどもの行事のうち、あれもこれもあんたに任せるってのは俺も不平等だと思ってた。だからまあ、次にピクニックみたいなことがあったら、俺が代わりにいってもいいし……そうだな、俺とあんたのふたりで参加するってのもいいだろう。だから、あんまりひとりであれこれ背負いこもうとするな」
イーサンはこの時、(この流れとしては当然だろう)と思い、マリーのことを抱き寄せた。彼女のほうでも特に抵抗を示すでもなく、彼としては(女ってのは意外にこの手が効くのか?)などと思ったほどである。
「ありがとうございます。あの、わたし……単にミミちゃんのことだけじゃなくて――ココちゃんやランディやロンのことでも、いっぺんに全部考えたらなんだか胸が苦しくなってしまって。毎日、ごはんを作って学校に送りだしてって、わたしが最初子育てっていうことで考えたのは、そんなことでした。でもそうじゃないんですね。他にも先生とのおつきあいとか、親御さんとのおつきあいとか……人との繋がりっていうのが大切で、そういうことを色々考えてたら、いっぺんに自信がなくなってしまって……」
「そんなに心配するな。まあ、あんたは人づきあいがうまそうなタイプじゃないもんな。これからも、何かあった時には俺にまず相談しろ。で、俺が何か保護者会だのなんだのにあんたの代わりに参加したっていいし……俺も今はアメフトをやめたからな、時間のほうにも余裕ができたし、これからは色々あんたに協力するよ」
「本当、ですか?」
イーサンの言うことなどいいかげんで信頼できない――などとマリーはもちろん思っていたわけではない。ただ、もしそうしてもらえるなら、マリーとしても心に支えが出来、精神的な意味で楽になると、そう思ったのだ。
「本当だとも。というか、あいつらは俺と半分血の繋がった弟であり、妹だからな。ある意味当然すぎるほど当然でもある。俺もかなりあんたに甘えっぱなしだったから、そのくらいのことは喜んでするさ」
このあと、マリーはイーサンに体を支えられたまま、暫くの間そのままでいた。イーサンとしてはベッドの上で隣あってのこの状況というのは、少しばかりつらくもある。以前あったように「魔が差す」といったことがあってはいけないため、必要以上に近づかないよう、彼としても気を遣っていることがなくもないのだ。
「あの、ごめんなさい。わたし、ほんとに……」
「ああ。いや、べつに……」
マリーが自分から体を離してきたため、イーサンとしてもそろそろ退室時期だった。そしてハッと気づいてみると、数センチ開いたドアのところから、ミミがじっとこちらを見つめる視線と出会う。
「にいたんたち、何してるですか?」
「べつに、何もさ」
おいで、というようにイーサンが手を開くと、ミミがうさしゃんを片手に抱いたまま、イーサンの胸に飛びこんでくる。そして彼はそのまま、マリーと自分の間にミミのことをのせた。
「おまえたちの子育ての方針のことでな、これからもっと協力しあおうって話してたっていうそれだけさ」
「でもにいたん、おねえさんと抱きあってたです。こういうの、ミミ、前にも見たことが……」
んーっと、んーっととミミは一生懸命思い出している様子だったが、前にあったといえば、(タランチュラ事件の時のことだろう)とイーサンにはすぐ思い当たる。
「ほら、ミミ。そろそろ寝る時間だぞ。今日はおねえさんがピクニックに一緒に行ってくれて良かったな」
「うん!きょうりゅうさんとね、あんもないととね、あと、お花畑が七色のじゅうたんみたいでとーっても綺麗だったの!!」
イーサンはミミを抱きあげると、そのまま隣の妹の部屋までいって、ミミのことを寝かしつけた。実はミミはすでにパジャマにも着替え、歯磨きもしたことを報告するために、マリーの部屋の前まで行ったのだった。
「にいたん、マリーおねえさんのこと、すっきー?」
絵本の「しろいうさぎとくろいうさぎ」を読まされたあと、そう聞かれたため、(この子は一体どこまでわかってるんだろうな)と、イーサンにしてもつい苦笑してしまう。
「もちろん好きさ。ミミだってそうだろ?それに、ココやロンやランディも……」
「んっとね、ミミが言ってるのは少しちがうの。くろいうさぎさんがしろいうさぎさんを好きみたいに好きなのー?っていう、そういうお話」
好きなのー?のところで、ミミが可愛らしく首を曲げたため、イーサンは妹の頭を撫でた。
「そうだな。ミミ、おまえ、秘密を守れるか?」
ミミはもちろん、こっくりと大きく首を頷かせた。そこでイーサンは、妹の耳に自分の秘密を打ち明ける。そして言う。
「いいか、ミミ。約束だぞ。おねえさんにもお姉ちゃんにもお兄ちゃんのどっちにも言うなよ。でも兄たんは、そのくらいマリーおねえさんのことが好きなんだ」
「そうなのね!にいたんもミミと同じ気持ちなのね。よかったあ。ほんとに、よかったあ……」
ここでミミは、嬉しそうに一度にっこりしたあとで、あとはすかーっと寝入ってしまった。イーサンはといえば(ようやく寝たか)と思い、妹の小さなベッドから腰を上げる。
隣のマリーの部屋を、ちらと通りすがりに覗きこむと、お風呂に入ったあと、彼女はパジャマに着替え、今は濡れた髪の毛を梳かしているところだった。イーサンはあえて、『ミミ、ようやく寝たよ』などと声をかけるでもなく、そのまま自分の部屋のほうへと向かう。
正直なところを言って――この誘惑に自分がいつまで勝ち続けることが出来るのか、イーサンにはまったくもって心許なかったといえる。
>>続く。