こじらせ女子ですが、何か?

心臓外科医との婚約を解消して以後、恋愛に臆病になっていた理穂。そんな彼女の前に今度は耳鼻科医の先生が現れて!?

マリのいた夏。-【17】-

2022年12月31日 | マリのいた夏。

 

 ええと、ちょうど今わたしが『7SEEDS』に嵌まってるところ……ということで、その話が続いていてアレ(ドレ?)なのですが、『7SEEDS』は隕石が落ちたあとの地球が舞台ということで、植物や昆虫や動物などにも突然変異が起きていて。。。

 

 最後のほうとか特に、巨大化した蟻さんや蜘蛛さんの攻撃が物凄かったりするのですが、そのあたりを読んでいてふと、以前読んだクモさんの本を思いだしました

 

 

 

 の、二冊

 

 たぶん、特に『クモのイト』のほうは、本屋さんで表紙見る限り、すぐレジに「レッツゴー♪」みたいにならないかもしれません。でも、内容のほうはめっちゃ面白かったです。

 

 簡単にいうと蜘蛛さんの生態の本かなと思うのですが、本読むのこんだけトロくさいわたしでも、あんまり面白くて「あっ!」という間に読み終わってしまいました。『7SEEDS』の中に出てくる巨大蜘蛛さんたちの糸、人がぶら下がったり、超強力なロープのかわりになってた気がするのですが、ほんと、あのくらい蜘蛛さん自身大きかったら……余裕でロープ以上に強い綱その他として利用できるだろうなと思ったというか(^^;)

 

 いえ、あの蟻さんとか蜘蛛さんの描写っていうのは……基本的に気味悪いものかもしれませんが、きっと昆虫学者さんたちが『7SEEDS』を読んだ場合、まったく別の意味で(源五郎くんのように)興味深い観察対象なんだろうなあと思ったりします。

 

 そんで二冊目。『シャーロットのおくりもの』は、映画化もされていて有名なお話と思うんですけど(あ、わたし映画のほうは見てなかったり)、絵のほうを描いているのが『しろいうさぎとくろいうさぎ』の作者として有名なガース・ウイリアムズさん(あと、『大草原の小さな家』シリーズの挿絵を描かれていることでも有名。というか、言わずもがな☆笑)。

 

 いえ、たぶんいないとは思うんですけど、もし『7SEEDS』の蜘蛛さん描写で軽く「おえっ!」となったりされた方がいた場合――お口直し(?)に最適な、素晴らしい物語です。世の中には、一度読んだら一生忘れない児童書というのがあるものですが、『シャーロットのおくりもの』も、そうした本の一冊と思います

 

『7SEEDS』には、巨大なミミズさんも出演なさってたと思うのですが……漫画の描写としてトラウマ感じるような描写じゃなくて、本当にほっとしました(むしろちょっと可愛いくらいかも?)。なんでって……わたし、唯一和田慎二先生の『スケバン刑事』に出てくるミミズの描写だけは、ほんとダメだったので

 

 今も、あのサキが溺れてる懲罰房のミミズ風呂のページ見るのだけは、かなりのとこ勇気入ります(ガクブル☆

 

 まあ、言い換えるとしたら日本が世界に誇る「マンガ」には、そこまでの力、パワーがある(同じ意味やがな☆)ということでもあると思うんですけどね(^^;)

 

 それではまた~!!

 

 

     マリのいた夏。-【17】-

 

 ロリには、小さな時から映画やドラマを見ていて、とても不思議だったことがある。それが特に恋愛ドラマで、複数人の若い男女が出てくるシーズン3以上続いているシリーズものであったりした場合……大抵、友達と自分の元彼氏なり彼女なりがつきあいだした、そのことを主人公、あるいは主要出演メンバーのひとりは複雑に思っている――といったシーンがあるものだ。

 

(まあ、ドラマだからね)と思うと同時、ロリはいつもこんなふうに考えていた気がする。(でも、わたしだったら絶対こんなこと出来ないな。マリやエリやオリビアや……友達を裏切るくらいだったら、そんな関係、誰も傷つかないうちに絶対諦めたほうがいいもん)といったように。

 

 けれど、ロリにもルーク=レイ・ハミルトンのことだけは無理だった。あれ以来、彼はふたり専用のチャットアプリを通じて、しょっちゅう新しい恋人に連絡してくる。内容のほうは大抵の場合、たわいもない短文だった。『今起きた』とか、『大学の講義退屈』とか、『死ぬほど眠いzzz……』とか、『晩ごはん何食べたい?』、『ずっときのうの夜のこと考えてた』、『こんな気持ち初めて……って、オレ女子?(笑)』とか、他に、夜眠る前には『愛してる』と必ず言ってくれる。

 

 もちろんロリは、テレビの浮気ドキュメンタリーで(ちなみに、この番組をシャーロットもエマもシャロンも愛好しており、しょっちゅう『あのビッチ、絶対許せない!』とか、『あのしょーもない浮気男、死ね!』などと、興奮して意見交換している)、男性が複数人の女性に向け、メールその他によりいかに都合のいい嘘をつくか――そしてついにはその嘘がバレた時、どんな本性をその男性が現すのかを、何十回となく見てきた。

 

 それなのに、自分がずっと憧れ続けてきたルーク=レイ・ハミルトンだけは絶対に違うと、何故そう信じられるのだろうか?どんな女性もみな、そう信じていたのが裏切られたからこそ、そのことがわかった時ショックを受け、涙を流し、『このクソ男!』と相手を罵ることになるというのに……。

 

 ロリは夏の終わりにマリの訪問を受けたそのあとも、ルークとの関係を変わらず続けていた。その後、夏休みが終わって大学がはじまったそのせいだろうか。マリは例の「一緒に住もう」云々といったことについて、物件の室内を写した写真をメールで送ってきた以外では、それ以上強く話を推し進めようとはしなかった。もともとマリは猫のように気まぐれで、飽きっぽいところがあるため、今度のこともそうだったのだろうという、ロリ側としてはそのような受けとめだったのである。

 

 けれど、マリの母のエマ・ミドルトンと、ルークの母のシャロン・ハミルトンが自分の母と抱きあって泣いているのを見た時……ロリは名状しがたいある種のショックを受けた。短大での講義が午前中だけで終わり、まっすぐ家まで帰ってきた日のことだった。

 

「いいのよ、いいのよ……シャロンの気持ちもエマの気持ちもとても嬉しいわ。だけど、あなたたちにそこまでのことをしてもらうわけにいかないもの。わたしくらいの年になると、もう学生時代のようには本当の友達なんて出来ないものと思っていたのに……ここへ引っ越してからの十年間、とても幸せだったわ。それもこれもすべて、あなたたちふたりの友情のお陰なのよ」

 

「それも、あなたの人柄が素晴らしかったからよ」とシャロンが言い、エマのほうではエルメスのハンカチで目尻の涙を拭っていた。「子供たちもすっかり大きくなったし、やっぱりいつまでもずっと同じままっていうわけにはいかなくなってくるものなのね」

 

 ロリは三人の女性たちの友情に水を差しては悪いと思い、そのまま階段をそっと上がっていったが、母のシャーロットの姿が自分で、ミドルトン夫人がマリ、ハミルトン夫人がエリのようにだぶって見えてしまい――自分がもしルークと結ばれていなければ、ああした美しい友情の未来がわたしたち三人の間にもあったのだ……突然そんなことに気づいてしまい、カバンを床の上へ投げ出すと、ベッドへ倒れこみ溜息を着いた。

 

 ルークとの恋愛のほうは、怖いくらいに順調ではあったが、ロリはそろそろこの幸福にも落とし穴があるのではないかと、心のどこかで不安でもあった。というのも、ロリはマリから『一緒に暮らさない?』といったように言われたこと含め、すべて彼に話し、『こうした罪悪感の重荷には耐えられそうにない』とも、正直に告白していた。また、その時のルークの反応が歯切れの悪いものだったということもなく、『あれから、マリから全然連絡がないんだ』と彼は言った。『でも、そのうち必ず嫌でも顔を合わせることになるだろ?そしたら、ロリとのことは全部話す。オレがロリに口止めしたのは、君から話すより、オレから真実を聞いたほうが……いくらでも当たれる分だけ、あいつにとっては間違いなくいいだろうと思うからなんだ』

 

 また、その後マリの訪問といったことや、彼女の呼び出しといったこともなかったため――ロリは風の中に秋のはじまりを感じる頃になっても、ルークとの恋愛に溺れたままでいた。ロリは本当は、両親の離婚ということも考えて、図書館のアルバイトが終わったあとは、今度は何か別のアルバイトを探そうと思っていた。けれど、ルークが大学の講義が終わったあとは『ヒマだ~』と言っては、すぐ彼女に会いたがったため、何かずるずると彼に合わせて毎日のように会うという関係を続けていたのだった。もちろんこの件に関し、ロリはルークばかりが悪いとは少しも思っていない。何より、彼女自身もこの最愛の恋人に会いたくて堪らないのだから、彼ひとりが悪いということは決してない。

 

 けれど、ふたりの間でそんなふうにすることがあまりに当たり前すぎるというくらいになった、十月も半ばのこと……その一週間前には、「流石にそろそろ寒くなってきたね」と言って、ふたりは秋物や冬物のコートや手袋、マフラーなどを見にいったくらいだったのに――突然、ユトレイシアは次の一週間、再び二十度を越える暖かさに包まれていたのだった。そして、夏がまるで忘れた麦わら帽子でも取りに来たようなその一週間が終わろうとする頃……マリとロリとルークの間にも、ある関係の決定的な変化が訪れようとしていたのである。

 

 

   *   *   *   *   *   *   *

 

「ロリ、もっと声だして。可愛い……ロリ。オレのロリ……」

 

「んっ……ルーク、大好き。愛してる……あっ、あっ、それ好き。すごくいいっ!!」 

 

 その後もふたりの間では、彼と彼女以外が聞いたとすれば、反吐が出そうなほどとまでは言わないが、とても甘い会話が続いた。

 

「なんでオレたち、こんなに体の相性がいいんだろう」、「だってお互い、こんなに愛しあってるもの」、「そうなんだ。誰もオレに対してロリみたいにはしてくれないもんな」、「どういう意味?」、「だって、ロリがオレに対して一番いいものをあげたいって思って、オレもロリに対してまったく同じように思ってるって……あ、そっか。これがほんとの愛なんだって、初めてわかったんだ」、「ルークったら……」

 

 そしてそんな愛しあうふたりが、もう一度、とばかり先ほどとは少し体位を変えようとした時のことだった。ロリはキングサイズのベッドの真横に恐怖の対象を認め、目を見開いた。けれどまだ、ルークのほうでは彼女の存在に気づいていない。

 

「ルー…………っ」

 

 ロリが注意を促すよりも、マリの行動のほうが早かった。彼女はロリの体に今一度溺れようとしたルークの横っ面を思いきり殴り倒していたからである。

 

「………いってえな。なんだオマエ、マリっ!!」

 

 ルークは上にかかっていたシーツごとベッドから転げ落ちていた。ロリはといえば、罪の恥部がすっかり露わにされたかのように、そのせいで素っ裸の姿を親友にさらすことになった。この時、ロリは神の視線でも恐れるように、急いで枕にかかっていたバスタオルを外し、体を覆った。だから、彼女は知らない。そもそもマリは、そうしたロリの姿を見たくないあまり、目を逸らしていたということなどは。

 

 一方、ルークはといえば、二股をかけている男がよく見せるような姿を見せはしなかった。彼もまた全裸の姿をさらしていたはずだが、少しも恥かしいといった様子も見せず、ただ床に散らばったトランクスをだるそうに取り、それをマリの目の前ではいた。むしろ逆に、使用したばかりのペニスを彼女に見せつけようとするかのようですらあった。

 

「オマエこそ何言ってんだ、ルークっ!!まあ、ロリは仕方ないよな。どうせオマエ、『テニスもダメ、大学もつまらない。こんなカワイソウなオレを慰めてくれ。ぐっすん』とでも言って、ロリに言い寄ったんだろ!?だからオレは、ロリのことは許す。もともと好きだった男にしつこく言い寄られれば、そりゃホロリともくるだろうからな。けど、オマエに関しては事情がまったく違うぞっ!!ルーク、オレはおまえのことだけは今後絶対に未来永劫許さないっ!この天地が引っくり返って、太陽が真西から昇り、月と海が赤くなって隕石がこの地球に降り注ごうともだっ!!」

 

(えっと、マ、マリ……?)

 

 その後も、マリがロリのほうへは一瞥もくれようとしなかったため、ロリはバスタオルで体を隠したまま、ルークとマリの言い合いをただ黙って見守る以外なかった。

 

「オマエがオレを許さないのはいいとして……それで、一体どうするんだ?ロリはもうオレのものだし、オマエが横からつけいる隙なんか、もう0.0001ミリたりともないぞっ!!」

 

「サイっテーだな、このクソ野郎っ!!ロリ、よおおっく聞けよっ!こいつはな、オレがおまえのこと好きだって、ずっと知ってたんだ。でも、オレの体は女だから、ロリのほうでは『気持ちは嬉しいけど……でもわたし、男の子が好きなの』程度の話で終わるだなんだ、ぐじぐじナメクジみたいに悩んでたってことも知ってる。その上でロリのことを寝取るだなんて、これが性根の腐った男以外のなんだっていうんだ、ええっ!?」

 

 この時、何故かマリはスーツを着てネクタイまで締めていたせいだろうか。極めて女性的な男性のように見えていた。確かにマリは、今の今まで一度として髪を伸ばしたことはなく、一時期など刈り上げていたこさえあるほどだった。今もウルフカットに近い短さだったが、ロリはずっとそのことをテニスをしているせいだろうくらいにしか思ってこなかったのである。

 

「仕方ないだろうっ!好きになっちまったもんはっ!!言っておくがな、マリ。こんなのは世間じゃ掃いて捨てるほどよくある話だと思うぜ。親友の好きな女を好きになった……そしたら向こうもこっちを好きだったなんてことはな。それに、そんなこと言ったらオマエだって同罪だ。おまえはロリがオレのことを好きだって、本当はかなり相当ずっと昔から知ってたんだ。けど、そのことにオレが気づく前に手を打って、『オレたちつきあってるってことにしようぜ』なんて言ってきたんだろ?オマエこそ耳かっぽじってよく聴けよ、マリっ!!それでもオレはずっとおまえのことが好きだったんだ!『いつかは性転換するから、その前の女の体でいいならルークにやってもいい』だなんて言うから……オレは、おまえがいつか性転換するとも、実際のところ信じちゃいなかった。親父さんやおふくろさんが反対してるからとか、そんな理由じゃない。それで、結局のところそのまま女のままでいて……一番身近なところにいるオレと、諦めて最終的に落ち着いてくれると思ってたんだっ。オマエはな、そういうオレの気持ちを純粋に裏切って踏みにじったっ!!そういうこととか色々、まったくもって全然わかってないっ!!」

 

「うっぜえな。なんでオマエが泣くんだよ、ルーク。好きな女寝取られて、泣きてえのはこっちのほうだぞ。けどまあ、もういいよ。ロリ、こいつはな、さっきおまえにやってたみたいにオレの体に溺れきってたって男なんだぞ?たぶん、オレとやってたことをほとんどスライドさせるような形でおまえとやってるんだろうよ。ああ、まったくもってほとんど目に浮かぶようだな。が、まあその点はまだいい。けど、オレが何を持ってしても絶対許せないのは、オレはルークを相手にロリとどんなふうに寝たいと思ってるか、何度となく言って聞かせてたんだ。ロリのヴァージンは絶対オレのものだとか、何かそうした話をな」

 

(えっ、えっと………)

 

 ロリはこの時、カーッと頭に血が上ったようになって、マリのほうを見ることが出来なかった。一方、マリはといえば、なんの良心の呵責もない者の眼差しによって、彼女のほうを――男の目で見ていた。ロリにはそのことがわかった。仮に彼女……いや、彼のほうを見なかったとしても。

 

「とにかく、だ」

 

 ルークは滴り落ちる涙をぬぐうと、上にTシャツを着、ついでジーンズもはいた。まるでジャンキーのように、鼻をぐすっとすする。

 

「オレはもう決めたんだ。ロリはおまえも、オレの母親ですらもくれなかったものを与えてくれた。ちゃんと愛した分のことは、それ以上の形で返してくれようとしたり、オレだってロリに対してまったく同じようにそうしたいと思ってる。それはマリ、オレとおまえの間にはそもそもないものだった。だけど、オレはもうそんな関係疲れたんだ。オレばっかりおまえのことを追いかけて、おまえからは本当の愛みたいなものは一切返ってこない。そうだよ。確かにオレは最初の頃は『それでもいい』みたいに思ってた。いつかはおまえがオレの献身的な愛情に気づいてくれればって、ずっとそう思ってたからな。一応言っておくがな、これはそんなおまえに対する復讐なんかじゃないぞ。オレは最高に最低な形でおまえのことを裏切ることになるとは思ったけど……それでも、ロリのことを心から愛していると思えばこそ、今の関係に踏み切ったんだ。ロリは最初はおまえのことを裏切れないって言って躊躇してたけど、この件に関して悪いのは全部オレだ。だから、変な逆恨みして、ロリにおかしなことをするじゃないぞっ。憎んだり恨んだり嫌ったりするんだったら、気が済むまでオレにだけそうしろ」

 

 マリにしては珍しく、彼女は――いや、彼はと言うべきだろうか――一瞬言葉を失ったように立ち尽くしていた。ルークとロリは、つきあいはじめた日にちこそまだ浅かったが、小さな頃からお互いのことを知っていたせいだろう、ふたりの間にある目に見えない愛の絆に、マリは戸惑ってさえいるかのようだった。

 

「あっは……ハッハッハッ!!」

 

 気狂いじみたようにマリが笑いだしたため、ルークもロリも彼女のことが心配になった。けれど、それでもなお彼女は笑い続けている。

 

「こんな話、あるかよっ!!だけどな、オレは策士策に溺れるとまでは思わねえな。確かにそうだ。オレはロリの口から直接、ルーク、おまえのことが実は好きだのなんだの、聞いたことは一度もない。けど、そのことは小さい頃からずっとわかってたことだ。だから、そのことにルークが気づく前に手を打ったって部分も、確かにあると言えばあったんだろうな。その点、ロリは間違いなくおまえに対してよりもオレに対して忠実だった。オレは、自分とおまえのテニスの試合の日程が被った時には、必ず自分のほうの試合へ応援に来いと言った。そしたら、ロリは一度の例外もなくオレの応援に来た。それがどのくらいオレにとって嬉しいことだったか、おまえにわかるか、ルーク!?しかもおまえはだ、オレがこっそり望遠鏡でロリの家のほうを見ながら『ロリとセックスしてえ』だの、『ロリのヴァージンが欲しい』だの言うのを、ずっと横で聞いてきたはずだろうが!オレは、この裏切りだけは絶対許さないっ!!覚えておけよ、ルークっ!!必ず一番手ひどい形で、いつか必ずおまえに復讐してやるからなっ!!」

 

 小さな頃から、すぐ真横で見てきて、マリの激しい気性には慣れていたせいだろうか、ルークはこの時極めて冷静そのものだった。彼にしてみれば、すでに彼女の復讐は成功しているとの思いがあったわけだが、本当に心から愛する人間の後ろ盾を持つ人間は強い……簡単にいえばそうしたことでもあったろう。

 

 けれど、そのルークのまるで動じない姿が、さらにマリの怒りの火に油を注いだ。彼女は「このっ……!!」と叫ぶと、ロリのほうへ手を伸ばそうとしたのである。

 

「やめろっ、マリっ!!ロリにだけは手をだすなっ!!」

 

 ルークはマリとロリのいるベッドの間に立ちはだかると、彼女のことを突き飛ばそうとした。マリとルークはその後も暫くの間揉みあっていたため――ロリはその間に急いで頭からワンピースを被って着た。淡いアイボリーの、地味なワンピースを。

 

「オレは、おまえがオレとも寝て、ロリとも寝たから怒ってんじゃねえぞっ!!おまえが、ずっと何年もすぐ真横で、オレがどのくらいロリを好きかバカみたいにしゃべってんのを長く聞いていながら……よくその上で裏切れたなってことを言いたいんだっ!!」

 

「だから、その点はあやまるよっ!!けど、おまえだって同じくらいオレの心を踏みにじって目茶苦茶にしたんだぞっ!!オレがどんなにおまえに尽くしたって、そんなもん当たり前くらいにしかずっと思ってこなかったろ!?そういうこともいい加減少しくらいは自覚しろってんだ」

 

「マ……マリ、ほんとにごめんね。あやまって許してもらえるとは最初から思ってなかったけど、でも……」

 

 ロリが両手を複雑に組み合わせつつ、躊躇いがちにそう言おうとすると――マリはルークの馬鹿力を振り切って、寝室から出ていこうとした。ふたりの関係について、マリは知っていた。地中海クルージングから帰ってきて、ロリの部屋を訪ねた時にはもうすでに……そして、その時もロリの態度の端々に自分をがっかりさせるものがあればいいとすら思っていた。けれど、不思議なことにマリは、ロリの態度に何かのやましさや不審さ、逃げ腰のビクビクしたようなものを何も感じなかった。むしろ、それまでもずっとそうだったように、磁石のように惹きつけられる力だけがそこには存在していた。そう……マリ自身、ルークと何度となくセックスしているだけに、ロリがどんなふうに彼に抱かれているかを想像するのは容易かった。むしろそのせいで、マリの中でロリと寝たいという気持ちは――彼女がすでにヴァージンでなくなっても――より強く高まっていたのである。

 

「やめろよっ!オレはそんなありきたりの謝罪の言葉なんか、ロリの口からだけは聞きたくない。一体なんのためにオレが今の今まで自分の気持ちを抑えてきたと思ってるっ。『ごめんね、気持ちは嬉しいけど、女の子同士でなんて』だの、わかりきった答えなんかオレは一切欲しくなんかないっ!!」

 

 マリはこのあと、苦しげに呻いてから、ルークの部屋をあとにしようとした。ロリは当然親友の後を追おうとしたが、そんな彼女の手を強く握り、ルークは引き戻したのだった。

 

「やめろ、ロリっ!今はあいつのことはひとりにしておいたほうがいい。それに、君は細かい事情を何も知らないから……マリともう一度話しあうとしたら、そのことを知ったあとのほうが絶対いい」

 

「ルーク……そもそも、どういうことなの?わたし、あんなマリ、初めて見たっていうか……怒ってるところなら、何度も見たことあるけど……でもそれは、テニスの試合でのことだったり、あとはフランチェスカに対してだったり……」

 

 この時、ロリはハッとした。これはまだ小学生の頃の話ではあるが、ロリがフランチェスカの部屋で、本の話をしていた時のことだった。マリは突然姉の部屋に入ってくると、ヒステリックにこう叫んだのだった。『ちょっと、フランチェスカ!わたしからロリのことまで取らないでよ!!』と言って、姉とロリの間に挟まる形で、マリは姉のことを突き飛ばしたのだった。その後、フランチェスカはじわっと涙ぐみ、『あんたはどうしていつもいつもそうなの。わたしがどんなに歩み寄ろうとしても、その反対のことしかしないんですものね。ロリちゃん、その本あげるわ。あなたがその本をわたしに返しにきたりしたら、マリがまた頭おかしくなるから』、するとマリは、フランチェスカがロリに渡そうとした本を奪い、ビリビリに引き裂いたのだった。『こんな本、ロリのほうでもいらないってよ!』……ロリはあまりのことに呆然としてしまい、『あれは流石にお姉さんに対してひどいんじゃない?』とすら、言えなかったものだった。何故なら、マリは自分の部屋でロリとふたりきりになると、百八十度コロリと態度を変え、ニコニコして美味しい紅茶やお菓子を勧めてきたからだ。

 

「なんていうか、マリって昔から、突然怒りだしたかと思えば、次に会った時には何もなかったみたいに普通だったり……そういうこと、わたし、あんまり深く気にしてこなかったの。お姉さんのフランチェスカに対して、度を越したくらい嫌悪してるっていうのも……本当はよく理解できてなくて。ほら、わたし、ひとりっ子でしょ?だから、フランチェスカみたいなお姉さんがいたらいいなって、マリが羨ましいなって思ってたけど……そんなこと言ったら、マリが気が狂ったように怒りだすってわかってたから……そのあとはずっと、フランチェスカとは話したくても、あまり話さないようにしたりして……ああしたことも、もしかして何か理由のあることだったの?」

 

「そうだな。確かにこの世には、因果なくらい気の合わない兄弟姉妹っていうのが存在するものなんだろうなとは思うよ。でも、マリとフランチェスカの場合は……そもそも、最初から話したとすれば、ジェンダーの問題なんだ」

 

(ジェンダーの問題って……)

 

 ロリは訳がわからなかったが、それでも、マリが見せた男っぽい話し方や振るまいや、『性転換して男になったら……』といった言葉から、ある程度のことは一応、察することは出来た。

 

「つまり、マリは……体と心の性が一致してないんだ。いわゆるLGBTIQのI……インターセックスってやつ。ロリが道を挟んだ隣に引っ越してくる少し前に、マリは性適合手術っていうのを受けてて、マリは『自分は男だから、男になりたい』って言ったんだけど、やっぱり見た目が女っぽくて可愛いし、医者と両親の意見としては、『女の体になったほうがいいのではないか』ということで一致してたわけなんだ。ええと、ごめん、ロリ。オレも当時はそのあたりのこと、本当の意味ではよくわかってなかった。でも、あとから聞いた話だと、マリの体の中には男の性の器官と女の性の器官の両方があって、手術するとしたら、なるべく早いほうがいいだろうっていうことでね。十分成長して、本人に意志決定させるのが一番いいにしても、体が大人になってから手術するより、早く済ませてしまったほうがよりリスクが少ないっていうのかな。それで、マリはずっと医者に対しても自分の両親に対しても、『オレは男だーっ!』て主張し続けてたのに、仮に男の性を選んだ場合、ようするにペニスだって発育不全で小さく、生殖能力も低いだろうから、女性を妊娠させることまでは出来ない可能性のほうが高い……みたいな話でね。色々説得させられて、今まで周囲に認知されてきた通り、女性になることを選ばせられたわけだ」

 

「そんな……」

 

「うん。今考えてみたら、本当にひどい話だとオレも思う。でも、あいつはいつもオレの前では男みたいなもんだったし、あいつが男でも女でも、マリがマリでさえあったらオレはそれでいいと思ってた。それで、そのことはあいつにも言ったことがある。そしたらマリ、ボロッボロ泣きだしてさ。『そんなこと、血のつながった親でさえ言ってくれないのに、赤の他人のおまえがなんでそんなこと言うんだ』って言って泣いたんだ。確かに、その後もあいつはオレにとって女というよりは男の友達って感じだった。それでも、そう言ってあいつがオレに抱きついた時から……その、さ。変な話、オレはその頃から少し、マリのことを女として見はじめてたと思う。とにかく、あいつが情緒不安定なのは、いつでも大体はそのせいだった。たとえば、テニスのスコートとか、やっぱり、男はなんだかんだ時々エロい目で見たりすることがあるだろ?で、『あいつらバカか?オレは男だぞ』みたいな話を……マリがすることが出来るのは、ずっとオレひとりきりだったっていうか」

 

「なんか……急に色々なことがわかって……わたし、実はマリに対して随分ひどいことしてたんじゃないかな。どうしよう……それなのに、ルークともこんな関係になって……」

 

 ロリはルークとベッドの縁に並んで腰かけていたが、落ち込むロリの肩をルークはぎゅっと抱いて引き寄せた。

 

「ロリは何も悪くないよ。第一、ロリは何も知らなかったわけだし、罪があるとすれば、何もかもすべて知ってて言い寄ったオレのほうにある。それに、マリにとっても、ミドルトン家にとっても……君が救いの天使みたいに思われてるって、ロリ、実は全然知らないだろ?」

 

「えっと……」

 

 ロリは、マリの母のエマ・ミドルトンにしても、ルークの母親のシャロン・ハミルトンにしても、実際の性格の本性としては、相当性格のキツイ美魔女タイプの女性だとわかっているつもりだった。本当にたまたま偶然、自分の母シャーロットと気が合ったがゆえに……娘である自分にも彼女たちは良くしてくれるのだろうといった認識だったのである。

 

「そうなんだ。ロリ、君がさ、隣に引っ越してきたその時から……ミドルトン家ではマリが暴れてガラスを割ったりだのなんだの、そうした問題行動を起こす回数が激減したんだよ。もちろん、マリのお母さんはマリが隣に住んでる君に好かれたくて、今までは鬼強のいじめっ子だったのを突然やめ、逆にいじめられてる奴を助けたりとか……行動を百八十度変えることにしたとまではわからなかったみたいだ。でも、君が引っ越してきてマリと友達になったその時から……娘が突然変わったことだけはわかったんだな。こうして、うちの母さんはクソの夫が浮気してるってことで、ロリのお母さんと仲良くなり、マリのママは『そのことでは感謝してもしきれない』っていう気持ちから――強い女の友情によって結ばれることになったんじゃないかっていう、オレの見たところじゃ、大体そんな感じだな」

 

 ロリはこのことでも驚いた。確かに、マリの家に遊びにいくと、マリのママのミドルトン夫人はいつでも、美味しい高級菓子や紅茶を用意してくれたり、「ディナーを食べて帰ったらいいじゃないの」と言っては、これでもかというくらいご馳走を食べさせてくれたものだった。けれど、そのことの裏にそうした事情が実はあったのだとは、ロリは今の今まで知りもしなかったわけである。

 

「マリがお姉さんのフランチェスカのことを毛嫌いしてるのは、ようするに彼女がいわゆるシスジェンダーって奴で、心と体の性が完全に女性として一致していて、そのことになんの疑いも持ってないってことなんだ。その上、性格も優しくて勉強もよく出来て、親の言うことはなんでも大人しくハイハイ聞いてだなんて……『おえっ。オレじゃなくて頭おかしいとしたら絶対アイツのほうだって』って、マリがしょっちゅう言ってた気持ちもオレにはわかる。成人したあとは、社会人として経験を積み、その後ある程度したら結婚して子供を生んでっていうことに、まったくなんの疑問を持ってないんだな。マリさ、オレに対してよくこう言ってたよ。『そんなクソつまんねー人生送るくらいだったら、死んだほうがなんぼかマシだ』ってね。あと、これはマリの口から直接そう聞いたってわけじゃないけど……今にして思うと、フランチェスカにはさ、マリみたいに自分自身が引き裂かれるような苦悩みたいなものが何もないわけだろ?マリは姉が背負わなかった分の苦悩まで自分が引き受けてるみたいに感じて……そういう部分でも、フランチェスカには反発心しか持てなかったのかなって気がする」

 

「でも、マリだって近ごろは随分変わってきてたじゃない?ルークのお兄さんのマーカスとフランチェスカが婚約するって聞いても……『おえっ。ヘドの出そうな似合いのカップルね』とは言っても、『それでも結婚するって時には、結婚式の時くらいは妹として祝ってあげなきゃいけないわね』なんて、そんなふうに言ってたもの」

 

「うん……だからさ、マリが変わったのは、オレの影響ではまったくないって、はっきり言い切れる。マリが変わったのは、絶対間違いなく100%ロリのせいだよ。これはずっと間近でマリを見てきたオレが言うんだから、絶対間違いない。マリ自身、こう言ってたことがあるからね。あいつ、オレと恋人同士みたいになる前から……しょっちゅう君がああ言っただのこう言っただのいう話ばかりしてたし、マリはロリといることで――急に陰の気が引いた、みたいに言ってた。あいつがあんまり君の話ばかりするからさ、『あの子のどんなところがそんなに好きなんだ?』みたいに聞いたこともある。随分昔の話だけど……『いやあ、それがさっぱりわからないんだよな』なんて、マリはアホ面して言ってたっけ。『ルーク、おまえはまだガキだからわからんだろうが、あの子は性格がいいとか優しいとかいうんで好きとかいうのはクソだ。好きって感情に理由なんかないんだよ。でも強いて言うなら、ロリがいると、ロリがいる、ロリがこの世界に存在しているというだけでオレはハッピーなんだ。ま、おまえはバカだからまだこうした崇高な気持ちのことはわかるまい』なんて言うんだな。つまり、そうしたことも含めてマリは、自分の中で体と心の性が一致してないせいで……ずっと苦しんできたんだよ」

 

 ルークは、遠い昔の、幼い頃のことを思い出しながら言を継いだ。

 

「珍しい症例だから、大学病院のほうじゃ色々デリケートな部分を検査されたりして毎回不愉快極まりないし、言葉じゃうまく説明できないフラストレーションが溜まる一方だったんだと思う。いい子の優等生の姉を嫌い、そんな嫌いな姉のことを可愛がる両親を憎み……でも、マリはロリのことを好きになったことで、そうした意味もなく次から次へと湧いてくる黒い感情から救われたんだよ。何故なのかは、マリにもたぶん説明なんか出来なかったんじゃないかな。その説明の必要もなければ、いちいち意味を解明する必要すらないところ……それがロリの一番すごいところだったんだと思う、マリにとって」

 

「…………………」

 

 ロリは突然泣けてきた。そんなに大切に思ってもらっていただなんて、今の今まで考えてみたこともなかった。むしろ、別々の高校に進学してからは――オリビアではないけれど、マリにとって友達として優先順位が高いのはリサたちであって、自分たちではなくなってしまったのだろうと、ロリはそんなふうにも感じてきた。

 

「その、さ。そこまで色々知ってて……よくそんな自分を裏切って、ロリとつきあうことが出来たなっていうマリの言い種は、まったくそのとおりだとオレも思ってる。もしかしたら、ここまでのことをロリに話してから、それでもオレのことを選んで欲しいって、そう言うべきだったのかもしれない。でもあいつ……男は確かにオレが初めてでも、性的な体験って意味では、オレが初めてってわけじゃなかったんだぜ」

 

「……どういう意味?」

 

 ロリはあふれる涙を、ティッシュでぬぐいながらそう聞いた。

 

「その、オレとそうなる少し前くらいまで、オリビアとつきあってたなんて言うんだ。あいつ、夏に地中海へクルージングに行ってたって言ってたろ?何も浮気してるのは……いや、オレのほうのは間違いなく本気の恋だけど、マリはオレとつきあってる間だって、他の女とも寝てるんだよ。そういうことだって、オレは少しも傷つかなかったってわけじゃない。でもマリ曰く、『一番好きな女とヤレないんだからしょうがないだろ』みたいなことになるらしい。ええと、これは変な意味で言うんじゃなくて……マリはそこらへん、本当に男なんだよ。オレにも時々言ってた。『おまえ、男と寝て楽しいかよ?変態なんじゃねえの』みたいにね。オレとセックスしたすぐあとに、他の女と寝ながらロリのことを考えてるとか、そんな話も平気でするしさ。でもオレは……それこそ本当に好きだったからね。前まではマリのことがずっと……あいつが男とか女とか、そういうことはまるで関係なく」

 

 ロリの隣で、ルークもまた泣いていた。そして、今のロリにはその涙の意味と重みが、痛いほどよくわかる。それに、マリも今ごろ……同じように泣いているはずだとわかっていた。自分にはルークが、そしてルークにも自分がいるからいい。けれど、マリは今どこでどうしているだろうかと思うと――胸が締めつけられるように苦しかった。

 

「わたしたち、これからどうすればいいの……?」

 

 暫くの沈黙ののち、互いに互いを支えあうように寄り添いながら――ロリは独り言のようにそう呟いた。

 

「ありきたりだけど……時間がたつのを待つしかないんだろうな。オレはロリとこうなったこと、後悔してない。マリが君のことを好きとわかってても、奪うことにしたのは……あいつじゃロリを幸せにできないってわかってたからでもあるんだ。なんでって……マリは自分の体が女だから、女性のこともわかってるにしても、精神的には男で、ひとりの女では満足できないっていうのかな。オレはレズビアンの愛がどんなものかとか、よくは知らないよ。でも、マリのことはわかる。ロリと結ばれて、結婚式を挙げたところくらいまでは良くても……きっとそのうち浮気の虫が疼きだして、君に隠れて他の女性とも関係を持ち出すだろう。ロリに対しては、妻としての忠実さだけをひたすら求め続け、他の男としゃべってたってだけで嫉妬してぶんむくれるにも関わらずね。もちろん絶対そうなるとまで、オレだって確信を持ってるわけじゃない。でも、ロリにもともとそうした性向があって、マリの愛に応えることが出来たとしても……それで君が幸せになれるとはオレには思えないってことなんだ。もちろん、マリはそんなふうに考えてないし、むしろオレに対してこそ、『あいつは結局自分の親父の血がそのうち目覚めだして、ロリのことを不幸にするだろう』くらいにしか思ってないんじゃないかな」

 

「…………………」

 

 ロリは混乱しながらも、今のルークの言葉で、あるひとつのことがわかっていた。それは物事のタイミング次第によっては――自分がマリの告白を受けた可能性もあったかもしれないということだった。

 

「ルーク……あのね、わたしたち、少しの間距離を置かない……?」

 

(そんなのイヤだ!)と、ルークは反射的に思ったが、実際にはただ溜息を着くことしか出来なかった。自分がマリをどれほど傷つけたかを思ってみただけでも――そうするのが当然なのだといったようにも。

 

「少しって、どのくらい?」

 

「う、うん。ほんの暫くの間くらい。あのね、わたし……よく考えたらマリのこと、本当はよく知らないんだなって思ったの。たぶん、マリがもううちに気安くやって来ることもなければ、わたしのほうからマリのおうちへ遊びに行くってことも、これからはなくなるかもしれない。でもわたし……結局引っ越しちゃうしね。今そういうことに決まったのも、そういう運命だったのかなって少しだけ思わなくもないっていうか。ただわたし……マリに言われたの。わたしが引っ越すって聞いて、今まで行こうと思えばすぐ行ける距離のところにわたしがいるのが当たり前だと思いすぎてたって。それで、わたしが引っ越すって聞いてすごくショックだったって。あと、前にも言ったけど、その時一緒に暮らさないかみたいにも言われたの。でもそれだって、そんなに熱心な感じじゃなかった。そのあと一回だけ、いくつか物件の資料を添付したメールを送ってきたっていうくらい」

 

 ルークはルークで、ロリのこの言葉によって、すぐにピンと来た。マリはその時すでに、自分とロリの関係に気づいていたのだろうと……。

 

「それで、ロリはどうしたい?これからオレと暮らすか、マリと暮らすか、絶対どっちかを選ばなきゃならないとしたら……どっちを選ぶ?」

 

「ルーク、その質問は意味ないよ。だってわたし、お母さんとふたりで暮らして、少なくとも暫くの間はお母さんのこと支えなきゃって思ってるし……あとは司書の資格取って、美術コースの論文書いたり、卒業試験に受かるための勉強したり、就職活動もしなくちゃいけなかったり。すごく忙しいもの。だけど、ルークにも会いたいからついこうして会いにきちゃうし……」

 

「う、うん。ごめん。それで言ったらオレも……ここのところ、ロリとの恋愛に浮かれすぎてた。本当はもっと一年のうちに単位取っておこうって思ってたのに、結構なとこ手抜き気味でさ。進級試験にはとりあえず受かって二年には上がれたけど、これから何人かで組んでマーケティングリサーチだなんだ、色々やらなきゃならないこともあるから、大学の友達とのつきあいも疎かに出来ないし……」

 

 このあと、ロリはルークと話しあって、『暫くの間は学生の本分として大学生活及び学業に励む』ということに落ち着いた。もっとも、一応そんなふうに約束はしたものの――ルークはしょっちゅう『会いたい』、『寂しいな』、『オレって一人ぼっち☆くすん』といったようなメッセージを送って来、きゅんとしたロリはやはり彼に会いに来るということの繰り返しになるのではあったが。

 

 

 >>続く。


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