こじらせ女子ですが、何か?

心臓外科医との婚約を解消して以後、恋愛に臆病になっていた理穂。そんな彼女の前に今度は耳鼻科医の先生が現れて!?

マリのいた夏。-【10】-

2022年12月13日 | マリのいた夏。

(ロイヤルハワイアンリゾートワイキキ【公式】より)

 

 う゛~ん。大体のところ最近読んだ漫画について書いてしまったので……他に特に書くことないな~ということで、軽くセクハラに関することでも、と思いました(^^;)

 

 いえ、【7】のところを読み返していた時……ドミが話してたことって、まあ大体友達の話をそのまま書いたようなものだなあ、なんていうことを思いだし(ただし、相当昔の話です

 

 んで、こちらは割と最近(と言っても何か月か前?)、海ドラ見てて思ったんですよね。今はコンプライアンスとか色々あって、「これ以上のことはセクハラに相当します」みたいに指導してる場面みたいのがあって。。。

 

 あれは遥か遡ること、△□年以上もの昔……わたしが社会人になったばかりの頃のことでした。ええと、お話の中でクリスは「知性が低い」といった言い方をしていて、エリはそんな彼に対し「お話にもならないお馬鹿さん」みたいに言ってるわけですけど――あまりにも純粋すぎてセクハラに気づかないとか、本当にありますよね(^^;)

 

 その~、わたしが社会に出て初めてセクハラらしきものに遭遇したのはたぶん、お酒の席でのことだったと思います。あ、ちなみに身体的接触云々の話ではまったくありません。当時はわたし自身、それをセクハラともまったく思わず、「大人の社会っていうのはそういうものなんだから、適度に受け流せないほうが悪いんだ」的思考法だったし、たぶん今の二十代くらいの若い人の中にも同じように考えて、上司のエロ話に苦笑いしつつつきあう……とか、日常あるあるだと思うんですよね。。。

 

 で、酒を飲みつつ鍋をつつき、「セックスする時には、男よりも女のほうが七倍も気持ちいいらしいよ。でもそのかわり、女性はセックスの時気持ちいい分、出産っていう痛みを味わわなきゃいけないんだよな~」とかおっしゃってまして。いえ、べつにそのおじさんはわたしの隣に座っていたわけでもなく、むしろ少し離れたところに座っていて、その場にいた職場のみんなに話している――という感じではありました。

 

 そんで、その後も男の人は酒が一滴でも入ると、酔ってる・酔ってない関係なく、エロ話をしてもいいモードに入るらしい……というのを何度か経験しました。その時は「まあ、世の中そんなもんだよな」くらいな受けとめだったのですが、それから時が流れて#Metoo時代となった今日、そこらへん、一応理屈上は昔より厳しくなったと思うわけです。

 

 何を言いたいかというと、アメリカであったセクハラ問題をきっかけに#Me tooなんて、何かの流行りみたいにツイッターでリツィートしたところで、それがなんだってんだ……という話ではなく、わたし自身は自分が社会に出た時、ああした「酒が一滴入ったら、男はエロ話していい」みたいな空気って、今後もなくなることはないだろうと思ってましたし、「△□さん、今そういうの、もうアウトですよ」みたいな空気感に少しでもなることはないだろうと思ってました。なので、そうした意味で少しは社会も「進歩した」、それはすごいことだと思うって、本当にそう思うんですよね(^^;)

 

 ええと、なんでこんなこと書いてるかというと、世の中には本当にびっくりするくらい、純粋な人というのが存在します。まあ、一応わたし、世代的には「これだからゆとりはよー」、「オレたちの時代はなあ、そんくらいキビシイのが当たり前だったってのによー」といった世代なのですが(年がバレますねえ・笑)、ゆとり世代以降の純粋な世代の人たちは、本当に大切に守っていく必要があるんじゃないかなあ……と、漠然と思ったりするからなんです。

 

「酒飲んだら誰でも、エロい話のひとつやふたつするだろうよ」というのではなく、「いや、それはお宅が自分の仲間うちでおやりになればいいことであって、若い女性たちのお耳汚しになるようなこと、言わないでもらえませんか?」という……いえ、わたしの世代は「酒飲んでるのに、エロ話のひとつもしないで一体何が楽しいんだ」ということが、まあフツーに当たり前のこととして受け入れられてました。また、そうしたことがまったくなくなったわけでもなく、今も残っているにせよ、その逆の傾向が出てきて、そちらへ傾きつつあるということ――こうした「傾向」って、本当に大切なことだと思います。

 

 んで、【7】に出てきた偽ブラピみたいな人っていうのは、今も存在します。そんで、二十代くらいの若い娘さんで、こうした人に引っかかってしまう場合があると思うんですよね。わたしの友人の場合は、そのスーパーの上司とホテルまで行きました。もっとも彼女の場合は二十代とはいえ、自分でもそちらの欲望が強い的なことを口にする女性だったので、安っぽい言い方をすれば「お互いオトナの関係」とかいうのだったかもしれなくても……向こうがラブホテルで事が終わったあと、「オレがまだ結婚してなきゃ絶対オマエと結婚してるのに」とか、そういうことを色々言ってくるらしいんですよね。

 

 わたし自身は一応、黙って聞いてるんですけど、内心では「あんたもその男もバカなんじゃないの?」と思っていたというか(^^;)いえ、他人の恋愛のことは、その当事者の人同士にしかわかりませんから、わたしには何を言う権利もありません。でも、世の中にセクハラがなくなることはない理由のひとつとして――ちょっとエロい話をして様子を見て、それで相手の女性の出方を見る男性がいるということと、それと同時にそうしたことに引っかかっちゃう女性も間違いなくいるっていうことがあるんじゃないかな……と、なんとなく思ったりするわけです。

 

 あと、向こうはすでに結婚していて家庭もあって子供までいても――社会に出たばかりの女性の中には、「あの気のある態度、どう思う!?」とか、「わたしに気があるってことだよね?」みたいに真剣に悩んだりとか、それを恋だと思ってしまう場合だってあるわけですよね。それで、そうした上司の方が既婚者でも独身でも、ちょっと格好良かったりすると……「きのう飲みの席でさあ、あいつ、わたしの太腿に触ってきたんだよお」とか、「あいつ、調子に乗って酔った勢いでキスしてきたんだって!しかも舌まで入れてきたから」とか、何故か自慢気に語ることがあり。。。

 

 そんで、彼女たちの言葉の最後には、「マジ、サイッテー!!」という言葉が続いたわけですが、その顔は言葉とは裏腹に嬉しそうなものであり(誇らしげですらあった)……次の瞬間、わたしこう思いましたよ。『ああ、なるほど。セクハラっていうのはある意味人類の文化的な何かで、撲滅されるってことは今後とも絶対ないな』と。

 

 いえ、セクハラというものに対する社会の監視の目が厳しくなってきているのは良いことなんじゃないかなと思うものの――女性の側にも多少……今書いたような場合もあるらしいことから、男性側の意識に問題がある場合のほうが多かったにせよ、女性からの男性に対するセクハラだってあること含め、女性のほうにも意識を変えなきゃならない領域っていうのが、少しくらいは残ってるように思ったというか。。。

 

 あ、いえわたし、「前文に書くこと何もないや。だから暇つぶしにセクハラのことでも書いてみようかな」くらいの気持ちしかなかったので……まあ、そんな程度の人が書いた文章として、軽く読み流していただければと思います(^^;)

 

 それではまた~!!

 

 

 

     マリのいた夏。-【10】-

 

 この翌日は、リサ・メイソンのほうから招待があって、ローズクォーツ・ホテルのほうへ全員で移動することになった。まずは一階のビュッフェでの昼食、それからウォータースライダー付きプールや温泉、サウナ施設への出入りが自由に出来るということだった。

 

「へー。まあさ、オレらが予定してたのは、他のもっとランク落ちるホテルでプール入ったりしようってことだったんだから……まあ、有難いっちゃ有難い招待なんだろうけど、なんかあの女のお慈悲に縋ってるみたいな構図で、イマイチおもろくないって感じるのはオレだけか?」

 

 男子陣のほうでは、昨夜結構な量ビールを消費したはずなのに、その中で唯一あまり飲まなかったクリス以外、二日酔いになるでもなく、みな超元気だった。

 

「ラース、そんなのみんな同じように思ってることだけどさ、そう難しく考える必要ないんじゃね?あのリサって子の父親は、IT企業の社長だとかで……あ、今はCEOっていうんだっけ?とにかくなんでもいいけど、うなぎが札束握ってるってくらい超のつく金持ちらしいから、オレらにお慈悲を賜っていくら使ったかなんてこと自体、明日には忘れてるくらいなもんだと思っといたほうがいいらしいよ」

 

「ふう~ん。ライアン、よくそんなこと知ってんな。つか、うなぎって札束握れんのか?」

 

「たぶん、ライアンが言いたいのはこういうことなんじゃないかな」と、二日酔いの頭を抱えつつ、クリスが分析を試みる。「株価がうなぎのぼりの企業のCEOがリサ・メイソンの親父だってことさ」

 

「相変わらずヘディングのしすぎで、てめえの頭はポンコツだなあ!」

 

 そう言って、ラースがライアンの尻に軽く蹴りを入れる。「やんのか、コラ!?」、「ふふん。あとでな。プールで泳いで、どっちのタイムが速いかで決着つけようぜ」、「はっはっはっはっ!プラス、飛び込み台からどっちが十回速く落ちれるかでも勝負だ!!」、「いいだろう。受けて立つぜ!」――ルークが中学時代からの変わらぬノリの親友を見て、懐かしい気持ちになっていた時のことだった。

 

「そもそも、あのローズクォーツ・ホテルってとこだって、ルークんとこのハミルトン・ホテルの系列なんだろ?だったらさ、べつにあんな女にヘコヘコする必要ないんじゃねーの?オマエの力でただで遊ばせてくれっていうんじゃなくさ、実はそうも出来るけど、せっかくの招待だからお受けしましょうかねェ、うっしっしっ!程度のもんだと思っときゃいいんだよ」

 

「何言ってんだよ、エイドリアン。そんなの、貧乏人が親のセブンライツ持ってる奴のこと、卑屈に妬んでるようなもんじゃねえか。労働者階級は労働者階級なりに誇りを持てってんだ!」

 

 そう言ったラースの手のひらに、ライアンが何故かゴミをぎゅっと握らせる。

 

「そうだぞ!労働者階級の人間はゴミ以外、手に持つものなんか何もありゃしねえんだからな。しっかり持っとけ、心の中の誇りとともに……」

 

「ライアン、てめえっ!!」

 

 走って逃げるライアンを追いかけて、ラースが全速力で駆けていく。そして、そんなふたりを見て、残されたルークとクリス、それにエイドリアンとベンジャミンは笑った。

 

 もっともこの中で、恋人の親友であるリサ・メイソンや、シンシア・グレイソン、エレノア・ワイアットらと多少なり関わったことのあるルークとしては、(このことの裏には絶対何かあるな)とわかっていた。そして、それがもしラースやライアン、エイドリアンといった彼の大切な友人たちに、遊び心から恥をかかせる――といった趣向のものであったとすれば、ルークとしても絶対許すつもりはない。

 

 けれど、そうしたことではないだろうとわかっていた。何故なら、もしそうしたことであれば、まず真っ先にマリが反対するなり、友人の悪ふざけを止められない場合でも、自分に連絡してくるのは間違いないことだったからである。

 

 では、残りの選択肢としてどういうことが考えられるかといえば――リサ・メイソンの場合、元義弟だというノア・キングのことを気にかけていることから、おそらく彼とロリ・オルジェンにまつわることで、何かくだらぬお節介を焼きたいのだろうと、そのように察せられた。

 

「そういえば、きのうアイツ……なんか、姉貴に呼ばれてローズクォーツ・ホテルのほうへすっ飛んでいったんだろ?クリス、おまえなんか詳しい理由とか聞いたか?」

 

 エイドリアンの問いに、クリスは首を振った。

 

「いんや……でも気のせいかあいつ、なんかちょっと顔色変わってたような気がするんだ。みんなは酒飲んでべろべろみたいになってたけど、ぼくはあんまり飲めないからさ。その割に、なんでぼくだけ二日酔いになってんだっていう話ではあるけど」

 

「オレ、二日酔いとかなったことねーんだよなあ。どう、クリス?オレがおまえの耳元で大声で叫んだりしたら、いくら温厚なおまえでも血走った目で、『さ、刺してやる……』とか『殺してやる』って言っちゃうくらい、腹立つ感じ?」

 

「エイドリアン。もしおまえがそんなことをしたら……ぼくはたぶん、おまえの好きなホラー映画かスプラッタ映画の残虐度ナンバーワンってくらいの殺し方で、おまえのことブッ殺しちゃうかもしれないよ?」

 

 クリスの目は珍しく、両方とも据わっていた。

 

「あー、わかったわかった!オレも流石に大鎌で体を真っ二つにされたり、チェーンソーで首をはねられたりはしたくねえからな。気をつけるよ」

 

 その後も、エイドリアンとクリスはお互いにふざけては笑いあっていたが、そんなふたりのあとを歩いていると――ルークの隣でふと、ベンジャミンがこう言った。

 

「今朝方、俺も気になったから、向こうにいるジェイムズの奴に連絡してみたんだ」

 

「さっすがだな!それで、どうだった?」

 

 これは巷間の噂に過ぎない話ではあったが、ふたりの通っていたロイヤルウッド・パブリックスクールでは、ひとりの生徒の両親が、大体平均して寄付金含め、二~三千万は金を使っているのではないかと言われている。授業料その他のお金だけでも、最低1千万はかかるというのは本当のことだが、とどのつまり、そのくらいハイクラスのセレブな子息しか通えないという超エリート校であり、ゆえにルークのみならず、そこにいる生徒らというのは――ベンジャミンにせよ、ジェイムズ・コルビーにせよ、親がその程度の金は軽く支払えるほどの資産を有していることを意味している

 

「ようするにさ、セレブなお嬢さんたちのお節介ごっこといったところらしいよ。なんだっけ……あのおっぱい大きい子。あの子が俺のことを好きでくっつけたいってのと、ノアの奴とあいつがつきあってるロリっていう可愛い子。そのふたりが一線を越える手伝いをしたいだなんだ、リサ・メイソンって子の暇つぶしにつきあわされるっていう、何かそうした趣向らしい」

 

「くっだらないな、ほんと。あ、でもベンジャミンがもし、エレノアとつきあいたいとかなら、それはそれでいいんじゃないか?どうやらあの子、物凄い筋肉フェチらしくて、それでベンジャミンのこと、超気に入ってるって話なんだ。ノアとロリのことは……オレはよくわかんないんだけどさ、マリがとにかくノアの奴のことを嫌ってて。あ、オレもその影響受けてノアが嫌いとか、そういうのは一切ない。とにかく、ロリはあんな軽薄タイプのオオカミなんかじゃなく、少なくとももっとちゃんとしたマトモな男とつきあうべきだとかなんとか……」

 

 実はマリがルークに語った本音というのは少し違うものだったが、大体意味としてはそう言っておいたほうがいいだろうと、ルークはそう判断した。実際には、『あんな奴がロリのヴァージンを奪うだなんて、絶対許せないっ!マジでキモい。サイッテーっ!!』といった類の言葉を、彼女は恋人の前でえんえん並べ立てていたのだったが。

 

「まあ、男友達としては悪い奴ではない……というか、むしろいい奴ですらあるし、とりあえず俺は好きだな。でも、その一方でもし妹がノアタイプの奴とつきあってたとしたら、確かに心配ではあるわな。だから、その気持ちはわかる。で、あのエレノアって子に関して言うなら、リアムの奴にも言ったとおり、俺は絶対的にNGなんだ。なんていうか、元の親父が巨乳女と浮気したもんで、豊胸手術をしたおふくろと、あとは整形を繰り返して美を追求してる姉貴と同じ匂いがプンプンするっていう意味で――べつにあの子の何が悪いってわけじゃないんだが、それだけで俺的には完璧NGってことなんだ」

 

 ちなみに、今年リアム・ローリングはキャンプに参加していない。本人曰く、「スケジュールが合わない」ということだったが、実際には去年、中途半端なセクハラ行為をエレノアにしてしまい、吊るし上げを食ったというのがその理由だろうとルークにはわかっている。

 

「そっか。オレもさ、そんなにあの子のこと、深く知ってるわけじゃないのにこんなこと言っちゃいけないんだけど……ベンジャミンの勘はたぶん当たってるよ。でもそれでいて、去年のリアムみたいについあの胸にふらふらしちゃう男ってのが出てきて、どつぼに嵌まっちゃうってことなんじゃないか?」

 

「この場合、リアムの名前は出さないほうがいいんだろうな。とにかく、マリを通してオマエになんか探り入れてきたりしたら、俺のことは自分の筋肉にしかキョーミのないナルシストで、実はゲイなんじゃないかって疑いまであるとでも言っといてくれないか?」

 

「そりゃ無理だよ」ルークは思わず吹きだした。「なんでかっていったら、向こうにはすでに間者としてジェイムズがいるからな。あいつ、シンシアと去年からずっとネットで繋がってて、趣味やら何やら色々あいすぎて怖いくらいだって言ってたろ?でも、オレの見たとこ、ラブラブな恋人同士っていうよりは……あいつ、シンシアの前ではオネェ言葉でしゃべってるらしいんだ。つまり、そこまで素の自分でいられるのは彼女が初めてだってことらしくて、それですっかりその関係性に夢中になってるんだな。マリはそうでもないけど、リサとシンシアとエレノアの三人はファッションのしもべというくらい、その世界に夢中になってて、ジェイの奴はさ、彼女たちとヴォーグを読んだりしながら今年の流行りはどうこうなんて話をしてるわけだ。なんか、シンシアきっかけですっかり目覚めちまったって感じだ」

 

「そっか。でも、あいつの親父さん……」

 

 ベンジャミンは頭痛い、というように額に手をやっている。

 

「そうだよな。オレもジェイムズの家に行って思ったけど……あの厳しい親父さんが、息子が実はゲイだとか、実はそういうファッション業界で働きたいと思ってるとか、絶対受け容れそうにない堅物だもんな。というか、あいつがオネェ言葉でしゃべってるの見たら、まず精神科医に見せて、次に矯正施設送りとか、間違いなくそんなところだろうし……」

 

「まあなあ。でもあいつ、よくがんばったよ。ユトレイシア芸術大学の、デザインコースだっけ?将来はファッションの仕事がしたいなんて親に言えないもんだから、おっかさんが芸術好きなのをいいことに、うまいこと言ってどうにかこうにかおふくろさんに親父さんを説得してもらったらしいからな。幸い、あいつには兄貴がいて、そっちが親父さんの事業を継いでくれそうだから……将来的に、ジェイムズが自分のなりたいものになって、男の恋人と同棲してるとかでも、きっとどうにかなるんじゃねえか?」

 

「それ、なんかわかるよ。オレも、上の兄貴があんまり優秀すぎたから、小さい頃は特にコンプレックス的なものに悩んだりしたけど……一度成長しちゃうと、『面倒なことは全部、あの優秀な兄貴に丸投げしちゃえ』みたいになるからな。実際のとこ、あいつのデザインした服とか凄いよ。あのファッションにうるさい三人娘が、そのことではジェイムズに一目置いてるくらいだし、今からそういう企画を立てて、リサがモデル、シンシアがメイクアップ・アーティストって感じでね、ジェイムズデザインの服をユーチューブで流したりしてるらしい」

 

「ふうん。今のところ利害の一致したドリームチームってことなのかな。もしこのままくだらんことで喧嘩して決裂したりしなければ、結構いいセン行ったりするかもな」

 

「そうだな。何分お金持ちの我が儘お嬢さんたちだし、そういう部分でそううまくいくかなっていうのが、一番の懸案事項って気がするのがなんだけど……」

 

 ここで、準備や仕度をするのにやたら時間のかかった女性陣が男子たちに追いついた。キャンプ場のほうが小高い丘の上のほうにあり、ホテル街のほうを見下ろすような形となっているため、移動のほうは楽ちんだった。そこで、女の子たちは遅れを取り戻すため、下り坂を転げ落ちんばかりの勢いで走ってきたわけである。

 

「あっれー?ラースとライアンのお馬鹿コンビはどうしたのよ!?」

 

 オリビアはいつも通り、元気いっぱいな振りで言った。いや、もう振りということもなかったかもしれない。きのう、泣きながらみんなの前で本当の感情について話したら、何かがスッキリと吹っ切れたような気がしたから。

 

「ああ、あのバカふたりは、どっちが先にローズクォーツ・ホテルへ辿り着けるかとばかり、競争して走ってったよ。そんで、そのあとプールで泳いでタイム競ったり、飛び込み台から十回連続落ちれるかどうかだの、そんなことをする予定らしいな」

 

「相変わらずバカねえ」

 

 オリビアとドミニクはほぼ同時にそう言ってしまい、互いに顔を見合わせて笑った。それからその笑いが伝染したように、その場にいた全員がほぼ同時にどっと笑う。

 

「そうだよな~」とエイドリアン。「高校時代のこのお馬鹿なノリともこれでおサラバかと思うと、なかなか感慨深いものがあるわな」

 

「だな」と頷いてクリス。「エイドリアン、おまえさ、ユト芸大の映像研究科に入って、将来は映画監督、もしそれが無理でも映画関係の仕事に就きたいんだろ?もし将来的にさ、自分の青春時代を大幅に脚色して映画を撮るんだとしたら……ま、一言相談してくれよな。おまえのポンコツな頭じゃ思いだせないことも、ここのみんなの記憶全部繋ぎ合わせたら、なかなかいい映画が一本撮れるかもしれないぜ」

 

「そうねえ。もしそんなことになったらエイドリアン、あんた、わたしたち全員にそれぞれ、映画で儲かったお金をバックマージンすんのよ!」

 

「なんだよ、エリ。相変わらず牧師の娘とも思えねえ守銭奴だなあ」

 

「うるさいわね!こちとらしがない奨学生なのよ。あーあ。この楽しいキャンプが終わったら、またバイト三昧の日々が待ってるようになるんだわ。エリちゃん、ぴえーん」

 

 この種のエリの愚痴はみな聞き飽きているのだろう。それぞれ隣の友と雑談するような形でみな、キャンプ場からホテル街へと続く砂利道をそのまま歩いていく。

 

「ちょっと、あんたたちっ!ちったあ勤労学生の嘆きに同情してくれたってよさそうなもんじゃない!?」

 

「さあーて。そういえばライアンがさっき言ってたぜ。労働者階級の人間は手にゴミでも握って、心の中に誇りを持てとかなんとか」

 

 エイドリアンがトドメとばかりそう言い放つと、その経緯を知っている男子たちは大笑いし、オリビアとドミニクとエミリーは、事情はよくわからないにせよ、釣られるように一緒に笑っていた。

 

「まあまあ、エリ。だったらなおのこと、今回の旅行を楽しもうよ。さっきまでみんな、リサたちのこと『あの女きらーいっ!』とかなんとか色々言ってたけど……ただで美味しいもの食べてプールで遊んだりできるんだし、超ラッキーくらいに思っとこうよ」

 

「ロリ、あんたよくそんな呑気に構えてられるわね。あの女の目当てはあたしたちじゃなくて、ロリ、絶対あんたなのよ。あるとしたらきっと今晩くらいなんじゃない?『ノアとふたりきりの部屋に泊まっちゃいなさいよーう。そんでもってあたしったらもしかして恋人たちのキューピッド?』ってなくらいにしか思ってないんでしょうからね。第一、ノアのことだけ先に呼び出したってあたり、超あやしいじゃないのよ。でも絶対ダメなんだからね、ロリ。『そこまでお膳立てしてもらっちゃったんじゃ、わたし今夜ロスト・ヴァージンするっきゃないわ』とか、そんなのはねっ!!」

 

「あー、ないない。大丈夫だよ、エリ。わたしだってそこまで馬鹿じゃないもんっ!」

 

「そーお?エリお母さんは可愛いロリちゃんのことが心配よー。っていうか、ノアのほうですっかりその気だったりしたらどーすんのって話でもあるんじゃない?ロリ、もしなんかあったらわたしか……まあ、オリビアとかドミとか、他の誰でもいいけど……あっ、エミリーはキックボクシングやってるんだっけ。とにかく貞操の危機とやらを感じたら、あたしたちの誰かにすぐ電話すんのよ。あと、マリでもいいと思うけどっ」

 

「う、うん……あ、そーいえばマリと久しぶりにプールとかで一緒に遊べるかなあ」

 

「ロリ、あんた何寝ぼけたこと言ってんのよ。あたしたち、マリんちにあるどでかいプールで、毎年夏は一緒に泳いだりなんだりしてるじゃないの」

 

「まあ、そうなんだけど……でも、こういう高級ホテルにあるウォータースライダー付きのプールと、個人宅のプールはまた少し赴きが違うじゃない。そういう意味だよ」

 

「あ、言われてみればそれもそっか」

 

 ――このあと、ロリとエリはいつも通りの他愛もない話をしながら砂利道を歩いていき、緑に囲まれた緩やかなカーブの道を下りきったところで、突如として道路が灰色のコンクリートになる。

 

 そこにはちょうど、<タヴラス温泉街>という、ステンドグラス調の看板が立っており、その下で時計が10時49分を指したそのまた下に、『現在の気温27.8度』と、デジタル表示がされていた。

 

 ローズクォーツホテルは、この温泉街にいくつもあるホテルの中でも一番目立つタイプの宿泊施設であったため、辿り着くのに迷うことはなかったとはいえ……ロリは一度だけ携帯をチェックし、>>『おはよーう。今日もいい天気で良かったね!』と、メッセージを入れたのに、ノアからなんの返信もないのに首を傾げた。それに、ローズクォーツホテルまではそう迷うことなくキャンプ場から到着できたにせよ、それは昼間であればの話だった。というのも、ここまで砂利道を下ってきて思うに、夜はこのあたりは鬱蒼とした周囲の森の樹木に囲まれ、相当暗いはずだった。照明のほうもロリが気づいた限り、ほんのポツリポツリといった程度しか見当たらないくらいだったから。

 

(あんな真夜中にノア、こんなところをひとりぼっちで歩いてきたのかな……自分でも、幽霊話がキライで、ホラー映画見ると夜にトイレに行けなくなるタイプとか言ってたのに。それとも、キャンプ場の入口までリムジンで運転手さんが迎えに来てくれたとか?)

 

 けれど、ロリはそれ以上あまり深く考えなかった。あのピンクのパラソルに囲まれた薔薇色のホテルまで行けば、そこにはいつも通りのノアがいて、残り二日ほどの間、いつも通りの調子できっと楽しく過ごすことが出来るだろう……ロリはそう信じて疑いもしなかったからである、この時には。

 

 

 >>続く。

 

 

 

 

 


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