こじらせ女子ですが、何か?

心臓外科医との婚約を解消して以後、恋愛に臆病になっていた理穂。そんな彼女の前に今度は耳鼻科医の先生が現れて!?

マージナル。-【3】-

2021年08月25日 | 日記

(※萩尾望都先生の漫画「マージナル」のネタばれ☆がありますので、くれぐれも御注意くださいませm(_ _)m)

 

 さて、ここから最終巻の内容となります♪

 

【1】のところの最後のほうで、キラはグリンジャに対しては「女」として対応したけれど、アシジンに対してはそうでなかった……みたいに書いたんですけど、その後、キラはアシジンの元を逃げだすものの、その時砂漠で乱暴してきた男たちに比べ、彼がずっと優しかったと気づき――次に再会して以降は、少しずつ心を開いています。

 

 ただ、メディカル・センターの検査で「妊娠している」ことがわかるわけですが、その子の父親はグリンジャだろうと思われるわけです(^^;)

 

 色々話は前後しますが、前菜……じゃない。センザイ・マスターはキラを捕獲しようとして、かわりにセンターへはアシジンが来てしまいます。2巻のほうで、図書の家のエメラダが、暗殺された聖母マザの次のマザに仕立て上げられる――というくだりがあるのですが、実はこの聖母マザ、非常に気の毒な宗教的・象徴的存在で、実際のところはメディカル・センターにコントロールされて、祭事のある時は深い暗示をかけられた自動人形、それ以外では延命のため、ただひたすら眠り続けるという、すでに自我も人権もへったくれもない、可哀想すぎる存在なのです

 

 ところがこの美しいエメラダ、新しい聖母マザとしてのお披露目の日――図書の家で飼っていた鳥が自分のほうへやって来たことから、このことをきっかけに暗示が解けてしまい、バルコンから真っ逆様に墜落し、即死してしまいます(おそらく暗示が解けた瞬間、自分がどこにいるかもわからず、鳥のいるほうへ体を傾けてしまったのではないでしょうか)。

 

 聖母マザが死亡し、集まっていた民衆たちは混乱状態に陥りますが、新しい市長となったばかりのミカルが、その場にいたキラのことを咄嗟にマザにしようとして――>>「君は誰の子供を産むんだ?」と、ミカルが言った瞬間、マーゴという男にかけられていた暗示によって、キラのESPが発動します。実はこの聖母マザのいるドームというのは、7つの塔があって、そこが地下の広大なダムや水道システムと繋がっており、マーゴたちはここに7つの爆発物を仕掛け、その時限スイッチを入れるのにキラを利用したのでした(彼らは簡単にいえばテロリストです^^;)。

 

 >>「オマエハダレノコドモヲウムンダ?」なんて、この男ばかりの世界では、冗談でさえ、誰も言うはずがありません。けれど、聖母マザの再びの死が、事態を誰もが予測することの出来ない方向へ押しやってゆくのでした……。

 

 わたしの説明が拙いせいで、たぶん意味わからない気もしますが(汗)、こうして洪水が起き、市民は慌てふためきつつ、急いで逃げようとします。非常用のエレベーターからアシジンを連れて逃げようとするメイヤードですが、そこへキラがやって来るのを見て――メイヤードにキラを捕まえさせたくないアシジンは、メイヤードをエレベーターへ押しやり、ドアはキラがやって来る直前で閉まってしまいます。

 

 アシジンはキラを連れてこないとおまえは毒が回って死ぬ……それには解毒剤が必要だと言われていましたが、それはセンザイ・マスターのかけた暗示であって、実際にはアシジンは毒など飲んでさえいなかったのでした。>>「せっかくのチャンスをふいにしたな!おまえにやる薬なんかないぞ。のたうちまわって死ぬがいい!」と言われ、逆上するアシジン。彼から首を絞められたり殴られたりで、さんざんなメイヤードですが、この時のふたりのキスシーンは、ある意味美味しいです(笑)。

 

 最後にようやく、自分に毒消しが必要だなどというのはウソだと気づくアシジンですが、この時にはエレベーターはすでに停止ボタンを押しても止まらず、ひたすら落下してゆくばかりだったのでした……。

 

 一方、センターの人間が八方手を尽くしても洪水をどうにも出来ない中、キラ、グリンジャ、ゴー博士、ネズ、狂人(笑)といった一行は、ヘリポートへ到着。ですがそこには、センザイ・マスターが超能力によって予知して、先回りしていました。

 

 >>「その少年から離れて」、「この洪水パワーを維持してるんだよ、その子が」と、指摘するセンザイ・マスター。キラ自身に自覚はありませんが、彼はグリンジャやシティまでやって来た聖者たちが見る、世界の終末、世界の終わる夢を――この場合はおそらく無意識のうちにも、ということなのでしょうが――叶えようとしているわけです。イワン博士がアーリンに去られて絶望した時にも、彼らは一緒に死のうとした。ところが、シャトルがやって来るとキラの予知でわかるなり、イワン博士はキラたちを守ろうとし……4人いたキラのうち2人は死亡し、1人は半分焼けた状態で、どういうわけが氷り漬けになっており、今いるキラ1人だけが命からがらどうにか逃れることが出来たわけです。

 

 シティを救うためには、キラを殺すしかないと悟っているのは、センザイ・マスターだけでなく、ゴー博士にもわかっています。けれど、キラ自身は都市を壊滅させたいわけでも、この洪水で人に死んで欲しいわけでもまったくなく、むしろその逆のことを願っているのに――ほとんど無意識下にあるESP能力であるため、キラには意識してコントロールしたり、何かをどうかするということが出来ません。

 

 この時、ヘリポートにもとうとう水が流れこんで来、ネズとゴー博士と狂人(笑)は、ギリギリのところでヘリコプターの中へ入ることが出来ます。洪水に流されるキラですが、彼はESPによって水の中でも息が出来るようですし、同じ力の作用によって、グリンジャ、また途中で出会った水の中のアシジン、メイヤードのことも救います。そして、同じESPの力によって、センザイ・マスターがキラの後ろを追ってくるのでした(怖っ!^^;)

 

 シティは水の中に沈み、洪水の勢いは都市ごと水没しそうなほどの勢いです。キラは何かに引っ張られてでもいるように、そのままぐんぐん水の中を進みゆき――このままでは雑菌だらけの海へでると思ったセンザイ・マスターは、スピードを上げてとうとうキラに追いつきました。そして彼の手を掴んだセンザイ・マスターでしたが、この時逆にキラから力を吸い取られてしまうという結果に

 

 最初の登場時から、このあたりに至るまで「太っちょのいけすかないやつめ!」といった印象のセンザイ・マスターですが、最後にはキラからパワーを吸い取られたことですっかり痩せ細り……そのヒョロヒョロした姿を見て、読者は何故か突然彼のことが大好きになるというこの面白さ(笑)

 

 キラは死んだと、グリンジャやアシジンらに語るセンザイ・マスターですが、つまりこれはどういうことかというと……キラは海へと流れ着くと、病んだ地球の夢を叶えるためにこそ、自分は今ここへ至ったのだと悟ったわけです。そこでキラは、地球の夢見る今の赤い海とは違う、昔の青い、生命力に溢れた幻影を見て、その地球の夢見る力に共鳴し、自分の力のすべてを解き放ち、地球の一部、もし言いすぎでなければ、母なる地球そのものになった――そう言えるのではないでしょうか。

 

 イワン博士の生みだしたキラたちは、何故存在したのか、そして法律に違反してまで、イワン博士とアーリンが行なったことに何か意味はあったのか……もちろん、意味はありました。ただし、彼らが当初意図したであろう目的とは、異なっていたに違いありません(このあたり、子供は決して親の意図したとおりに成長しない――と考えると、キラたちもまた「特別な子」であると同時に「普通の子」でもあったと思うと面白いです^^;)。

 

 そして、キラたちの母親はアーリンかもしれませんが、遺伝子的な父親はメイヤードなわけですよね。自分の知らないところで突然4人の子持ちとなり、そのうちの2人を「カンパニー」に殺害されたとのちに知り、残り2人のうち、1人は大火傷を負って氷漬け……そして残りの1人を捕獲すべくメイヤードは動いていたわけです。

 

 ナースタースに>>「さっさと殺したら?」と言われ、>>「ちゃんと始末するよ」と答えたメイヤードですが、センザイ・マスターが捕獲する時に>>「傷つけないで」と言っていることからも――彼自身は本当は「息子殺し」に対して消極的だったのではないかという気がします(しかも、いくら遺伝子上のこととはいえ、キラがこの時妊娠していたことを思うと、孫まで一緒に始末することになるわけですから^^;)。

 

 ええと、ここからはわたしの、個人的なメイヤード語りです(笑)。というか、わたし登場人物の中でメイヤードが一番好きというか、彼と「カンパニー」の大株主のひとり、ナースタースの関係性が大好きなのです

 

 メイヤードは、助けがやって来るのをアシジンと待つ間に死んでしまいますが、もし彼がいくつもの進行性の遺伝病を抱えておらず、心臓のほうも人造のそれでなかったら、おそらくは助かったでしょう。ここに至るまで、メイヤードが「体を触られるのを嫌がる」というエピソードが出てくることから――「アンドロイドってことはないだろうけど(ありがちすぎ☆)、たぶん何かがあるんだろーなー」とは誰もがわかっています。そしてこの時、彼の濡れた服をアシジンが脱がせてみたところ、彼は体中に医療装置的なものの埋まった人間だったわけです

 

 そして、ナースタースはメイヤードの幼馴染みで、プライドの高い物凄い美人といった感じの女性。登場時はメイヤードに対してツンデレ的態度だった気がするものの、彼が最後に「ナスタス」と言い残して死んだと聞くと、涙を流していました

 

 実は彼女は心の底からメイヤードを愛していたわけですが、過去にすがりついて愛していると言ったのに、拒まれたことから……それでああいう冷たい態度だったんだなと、最後にわかるという

 

 メイヤードはあくまで事務的に事に当たる、冷たく見える人間ですが、基本的にこういう体中病気だらけの人というのは、性格的に優しい人が多いと思います。男だらけの世界、マージナルの管理に、彼自身辟易していたというのも確かでしょう。けれど、ナースタースがそのことを望んだからこそ、彼はこんな「長官(マルグレーヴ)」などという地位に留まり続けていたのでしょうし、彼がアシジンの全裸の姿を見て――何か羨ましいと思ってたらしいのも、最後の病気の告白を聞いているとよく理解できます。

 

 まあ、アシジンの体を回想しているメイヤードは、「このお方もフォモ☆なのかしら」と思わなくもないわけですが(笑)、自分にもアシジンのような男として健康な体があったならと……あれはそうした種類の羨望の眼差しであったのだということがわかります。

 

 もしそうなら――メイヤードはナースタースの愛を受け入れたでしょうし、それ以前に自分から男らしくプロポーズでもしたかもしれません。そして、幸せな結婚をしたあとは、新婚旅行へ行き、ハネムーンベビーは火星で出産することに……なんていう幸福が、ふたりにはあったかもしれないわけですよね

 

 また、キラを始末するようナースタースはメイヤードに冷淡に命じているわけですが、彼女にしてみたらたぶん――あくまで遺伝子上のことであれ、本当なら自分が生みたいメイヤードの子供など、その存在すら目にしたくもなければ、認めたくもなかったのかもしれません。。。

 

 ところで、メイヤードのエゼキェラ因子を原因とするいくつもの進行性の遺伝病のことですが……そうした進行を食い止める手段のひとつとして、彼は女性ホルモンの投与を受けているらしく――地球の連中は男ばかりなのに、その中で自分の体は女に近づいていることを、「馬鹿馬鹿しい」と言って嘲笑っています。そのですね、わたし的に思うに……メイヤードって母性的なお父さんなのかなって思ったんですよね(^^;)

 

 彼がキラたちのお父さんであるというのは、あくまで遺伝子上のことではある。けれど、彼が一体今何歳なのかはわからないけれど、ずっといくつもの病気に苦しめられ続けたことは――彼にとっては愛している女性とも結婚できず、結ばれることも叶わない、人生上の最悪な事態トップオブトップにランクインしている出来事と思います。「必ず治る見込みのある病気」ということであれば、病気にも多少、人生を内省するといった意味で、いいところもあるかもしれない。でも、基本的に慢性的な痛みや消耗、苦しみを与える病気といったものは、「あること自体無意味」としか思えないのみならず、特にメイヤードの場合はそうした状況が死ぬまで続くわけですよね。

 

 でも、彼はそのことを知ることなく逝ってしまったのかもしれませんが、彼の苦しんだ苦しみは意味があったんだろうなあ、とキラが病んだ地球の夢を叶えるシーンを読んでいて思いました。メイヤードがエゼキェラ因子の持ち主だったからこそキラたちは生まれ、それは彼が滅びを望んだ地球を甦らせる礎となることだったのですから……。

 

 子供が生まれてくる時、母親は陣痛で苦しみます。確か、キラは試験管ベビー&人工子宮育ちだったと思いますから、この場合の産みの苦しみに相当するのは、イワン博士とアーリンの研究が成功するまでの苦労とすべきなのかもしれません。けれど、メイヤードが生涯に渡って進行性の病気に心身とも悩まされ続けたことこそ、実はこの陣痛に相当するものでなかったかと思うわけです

 

 まあ、これはあくまで、わたしが登場人物の中でメイヤードが一番好きということに由来する考察ですが、なんにしても、物語のラストです。

 

 あの氷漬けになっていたもうひとりのキラは、センターで解凍され、治療を受けて甦りました。そして、グリンジャとアシジンのいる砂漠の岩屋へと戻ってきます。彼は地球とひとつになった元のキラと記憶を共有していますから、何が起きたかもわかっていることを思えば――クローンといったことでもない、もうひとりの「キラ」といっていい存在なわけですよね。

 

 そしてこれから、彼はこの不毛の地であった地球に、新しい生命を誕生させるでしょう。こうして聖母マザ亡きあとの、新しい地球の創世神話を予感させるところで……『マージナル』は終わります。

 

 いえ、この完璧すぎる物語に、何か付け足して言うことなど、もとより何ひとつとしてありません(いえ、本当は他にも書きたいことたくさんあったんですけど、長くなりすぎたので諦めます)。

 

 ではでは、次回はたぶん、萩尾先生の『百億の昼と千億の夜』、竹宮惠子先生の『アンドロメダ・ストーリーズ』の、どちらかの感想ということになるかと思いますm(_ _)m

 

 それではまた~!!

 

 

 


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