ええと、今回で最終回なんですけど……ちょっと次に書こうと思ってる話が割と長めなので、暫くあんまり更新とか出来ないかもって思うんですよね(^^;)
わたし、基本的にどのお話も「必要なエピソードだけ入れて、なるべく早く終わらせたい」と思ってる人なんですけど、それでも書きはじめると大抵「思った以上に長くなった」っていうことのほうが多いわけです。
なので、次に書こうと思ってるのSFなんですけど……今の時点で「結構長くなるな~」とわかってるってことは、実際に書きはじめたら今思ってるのよりさらに長くなる――っていうことだろうなと思ってて。。。
まあでも、『UPLOAD』も見終わったし、他にも書きたい映画の感想がないわけでもなかったりとか、あとは萩尾先生と竹宮先生の漫画に関しても、その後「あ、もしかしてこれはそういうことかなあ」っていうことが出てきたりして、このSF小説に関しては間違いなく絶対読む予定でいるとはいえ、今読んでる本がとんでもなく長大だったりして、なかなか本読みのほうが進まないというか
でもわたし、なんでもスローペースなのんびり屋ですからね♪萩尾先生と竹宮先生の問題(?)に関しては、今も調べたいことがあったりしてそのあたりの情熱は気持ち的に落ちてませんし、他にやること色々あって漫画読んだり出来てないっていうだけです(あ、どーでもいいことですけど、この間若い頃の竹宮先生が夢にでてきて、あんまり美人でびっくりした、しかもすごく頭がよくて気品に溢れてる……といった雰囲気がすごくて、「こんな素晴らしい人のことをあれこれ言っちゃいけないなあ」と思うという夢でした・笑)。
↓に関しては、今回とりあえず大して言い訳事ない気がするので(※作中に出てくるコンビニは特にディスってるわけではありません・笑)、実は今まで書いてきた前文の中で、ふたつくらい「ここ補足したい」ということがあったんですけど、両方は文字数的に無理なので――前回、「鳩って頭悪いんじゃね?」、「馬鹿じゃね」っぽい印象の文章書いてしまったので(汗)、前にも引用した『意識はいつ生まれるのか』より、「鳩に心はあるか、意識はあるか」ということについて、少し何か書いてみようかなと思いましたm(_ _)m
いえ、前回書いたあのあたりの文章というのはですね、実はかなり前のことなんですけど、友達と公園でポテトチップスとか食べてたら……鳩さんがまあ寄ってきたわけです。もちろん餌とかやっちゃいけないんですけど、なんとなーくお互い、食べてたものを少しあげちゃったんですよね。そしたらもう、あっという間に鳩が不気味なくらいベンチにたくさん寄って来て(五十羽とか、そのくらい?)、その時の様子というのが、まあ腐肉を求めるゾンビの如き何者かのようにしか見えなかったのです(^^;)
でも、この間【8】のあたりの文章を読み返してて、「そーいえば鳩の中にはピカソとモネの絵を見分けるものがいる」とかって、何かで読んだ気がするなあ……と、ふと思いだしたというか。わたしの中の頼りない記憶としては、『脳のなかの幽霊』か『意識はいつ生まれるのか』のどっちかと思ったところ、ぱらぱら読み返してみて先に記述の見つかったのが『意識はいつ生まれるのか』のほうでした
それで、本の中には(ちなみに、『脳のなかの幽霊』にも、わたしたちの頭の中にはゾンビがいる……といったことに関する文章があります)、あくまでざっくり言うと、小脳(&基底核)の働きなどがそうで、「わたしたちが知らない間に勝手にやってること」っていうのが結構あるわけですよね。簡単にいうと、「普段わたしたちの意識には上ってこないけれども、運動や生命維持のために必要不可欠な動き」というのを、脳を含めた身体はやっていて、それは相当複雑な働きであるにも関わらず、わたしたちの意識レーダーには普段ほとんど引っかからない……このあたりの、なんらかの形で病気になるか障害を負うかしない限り、強く意識しない体内の情報処理的動きというのは、「意識されることなく今この瞬間も勝手に働いている」という意味で、その動きというのは「ゾンビ」なわけです。
でも、もちろんわたしたちはゾンビではない……ところが、今何かと話題(?)のそのうち人間を超えるのではないかと言われているAIや、AI搭載型のアンドロイドさんというのは――ある意味、人間を模しただけのゾンビなわけです。彼らは人間が出来ない、あるいは出来るにしても相当時間のかかることを、極めて短時間で出来る能力を持っています。SF映画やSF小説などでは、話の都合上(?)、彼らが意識を持っているか、それに近いものを持っている、とうとう自我に目覚めた……的な設定のものって多いわけですけど、あくまで現実的な今という時点においては、彼らはまだ人間のような意識を持つには至っていないという意味で「ゾンビ」なわけです。
さて、ここで再び鳩さんの登場(くるっぽ!笑)。「意識や心を持っているのはどちらと思いますか?」と、今の時点で質問した場合、「いや、スーパーコンピューターのほうが鳩より頭がいいって意味じゃ超すごいでしょ」と言うことは出来ても、「意識や心を持っている」という意味で上なのは、どんなに優れた情報処理能力を持っていたにしても、鳩さんのほうが「人間の意識や心に近いものを持っている」ということなわけですよね。
『意識はいつ生まれるのか』の中には、「こうやって考えてくると、何に意識があるのか」と定義するのは難しくなってくる……みたいなことが書いてあって面白いですたとえばタコ。タコさんには9つも脳のあることが今日ではよく知られていて、彼らは「本当に無脊椎動物さんなのでしょうか!」というくらい、とても賢い生物です。そしてこのタコさんにしても――「人間に近い意識や心があるのはどっちか問題」においては、スーパーコンピューターよりも上にくるわけですよね(笑)。
他の動物のたとえとしては、サルやゾウやイルカや犬や猫などのほうが、よりわかりやすいとは思います。彼らとスーパーコンピューターを比較した場合、「人間に近い意識や心があるのはどっちか」と言えば、当然彼らのほうがAIよりも上にくる。あと、本の中ではこうした文章はないんですけど、それでもこうやって突き詰めて考えていくと……コンピューターは確かに今のところ無機物で、生命の鼓動は持っていないかもしれない。けれど、じゃあ「ドアや壁、あるいは家に心はないと言えるか」とか、昆虫には間違いなく心はないのか、じゃあ、ナメクジやダンゴ虫、アリなどは心がないわけだから、いくらいじめても良心を痛める必要はないのか――といったように考えると、「意識や心はあるかなしか問題」に若干揺るぎのようなものが生じてくると思います。
人が自然や物に「心がある(擬人化する)」と考えたがる傾向にあるというのは、よく知られた科学的事実であり、どうも脳科学的にはその先に「神がいる」と人間は考えるに至る思考回路を持っている……みたいなことらしいんですけど、「物に心がある=だから、家のドアさんも壁さんも大切にしようね」とか、植物さんも昆虫さんも、みんなみんな生きているんだ、友達なんだ――と人が考えてありとあらゆる地球上の生命に畏敬の念を持つのが何故かといえば、=それが心の豊かさだからってことですよね(まあ、陳腐すぎる回答ですけど・笑)。
そして、「わたしとは何か、人間と何か」ということを考えていくと……植物も昆虫も、その他ありとあらゆる動物も、地球やこの全宇宙も――そのことを意識して考える時、彼らはわたしたちの外にいるのと同時、心の中、意識の中にも同時に存在しているということでもある。『ウエストワールド』でもアンソニー・ホプキンスさんが引用してた気がしますが、「一粒の砂の中に宇宙を見」、「自分の手のひらの中に無限をつかむ」という、例の感覚……こうしたある意味高次の精神世界へ至る心や意識の動きまでを持てるのは、おそらく今のところ唯一人間だけなのだと思います。
もちろん、自分的に「だから人間は他の動物よりも優れている」とか「上なんだ」みたいには思わないんですけど(笑)、今現在、AIが人間を超えた時、人間は自分が生みだしたもののために滅ぶだろう――とも言われていて、自分的になんとなくな予感として、「最終的にそうなるか、そこまでAIが進化する前に戦争や何かで自分の首を絞めて人類は滅ぶことになりそうだなあ」と、今思ったりしてます。
それではまた~!!
レディ・ダイアナ。-【9】-
ギルバートが医学生となって三度目のクリスマス休暇となり、彼がディックやシェルドンといった悪友と、医学生同士のパーティへ出席した帰り道のことである。もしかしたら久しぶりに羽目を外して飲みすぎるかもしれない……そう思ったことから、彼は車では出かけていかなかった。
そして、シェルドンとディックはそれぞれ、そのパーティで「なんとなくそんな雰囲気」になった女性と消えてしまい――ギルバートがひとり、マンションまで歩いて帰ろうとした時のことだった。
パーティが開催されたのは、スーパーセレブのレジデントの豪邸だったのだが、そこからギルバートの住むタワーマンションまでは、歩いて十五分程度の距離だったのである。途中、何気なく一軒の日本発祥コンビニチェーン前を通りかかった時――彼はサンタクロース姿のブロンド女性を遠目に視認した。
サンタクロースの格好、などと言っても赤地に白いぼんぼりが前に三つついた上着に、下は同じ赤のミニスカートといった感じの姿で、ハンドベルを鳴らしながら彼女はこう叫んでいた。「メリークリスマ~ス!美味しいケーキはいかがですかあ?」と……(やれやれ。このくそ寒いのに大変だな)ギルバートはそう思い、独り暮らしでケーキをワンホール買っても仕方ないのだが、ひとつくらい買ってあげようかと彼が思った時のことだった。
その後、だんだんにラッキーな数字のコンビニが近づいてくるにつれ……ギルバートは聞き覚えのある声の女性が誰なのか、はっきり気づいたのである。
「わっはっはっ。お嬢ちゃあ~ん?それもしかして生足ィ?おじちゃん、もし何かサービスしてもらえるんだったら、ケーキ一個くらい買ってあげてもいいけどお?イヒッ」
クリスマス・イヴでも仕事だったのかどうか、スーツ姿の中年男が絡んでいる。また、酔っ払っているように見えることから……仕事帰りに一杯引っかけ、これから帰宅するところなのかもしれない。
「え~と、ケーキ買ってくれても、特にサービスとかありませんっ!でも、ケーキはすごく美味しいですよお」
「へえ、そうなんだ~。つまんないなあ。クリスマス・イヴにまで働いてるってことはあれでしょ?彼氏もいないんじゃない?仕事帰りにデートしてくれるなら――おれ、ここのケーキ、五個くらいなら買ってあげてもいいよ。もちろん電子マネーで」
「ええっとお……」
(困ったなあ)と思い、コニーが酔っ払い親父をどう追っ払おうかと考えていた時のことだった。ケーキの売り子がコニーであるとわかるなり、ギルバートはずかずかそちらへ突進していったのである。
「こんなとこで何してんだよ!?今日、もしかして残業?いつまでたっても来ないから心配してやって来てみれば……どうせまた、シフト替わってくれとでも頼まれたんだろ?まったく、君はお人好しなんだから……」
「えっ!?ええっとお……」
(ギルバート、よりにもよってどうしてこんなところに!?)
一番見られたなくところを一番見られたくない人物に見られた――コニーがそう思い、穴があったら入りたいと思っていた時のことだった。三十絡みの酔っ払い男が、彼の姿を見るなり「チッ。男がいたのかよ」と言って、すごすご退散していく。
「何これ?もしかしてクリスマス・パーティの罰ゲームかなんか?」
ギルバートは、スーツの上に着ていたヘリンボーンのコートを脱ぐと、隣のコニーに着せた。それでもまだ、彼女はガタガタ震えている。
「ううん。わたし、ここで少し前からアルバイトしてて……みんな、イヴの日やクリスマスなんかは休みたいものでしょ?だから、くじ引きでシフト決めることになったんだけど――運悪くイヴの日に当たっちゃって。まあ、明日は休みではあるんだけど……」
「そっか。でもだからってそんな格好でケーキ売るとか、ここの店長頭おかしいんじゃないか!?さっき、ここ来るまでの間に温度計見たけど……今の気温マイナス二度だよ?弁護士紹介するから、ここの店主、訴えてやれよ」
ギルバートがいきり立つ間に――「コンビニへ来たらイケメンがいた」と思ったのだろうか。車から降りてきたカップルのうち、パーティドレスを着た女性が、ケーキの箱の山に興味を示していた。
「あら坊や。まさかイヴの日にまでバイト?大変ねえ」
「ええとまあ……」
ギルバートが適当に返事していると、強い香水の香りを漂わせた女性は、フェンディのバッグから同じブランドの財布を取りだし、「おばさん、三個くらいなら買ってあげてもいいわ」と、一番大きな箱を三つほど押した。
「あ、ありがとうございますっ!!」
ギルバートは咄嗟に店員の振りをして頭を下げた。コニーは水商売系の女性からカードを受け取ると、ケーキのバーコードを剥がし、店内のほうへ一度戻っていく。
この間、彼女の連れの若干ガラの悪い男性が、「こんなでかいケーキ三つも買ってどーすんだ」とぶつぶつ文句を言ったが、結局女性の言うとおり、三つとも彼は車の後部席へ運んでいた。
「いいじゃないの、べつに。明日店に持っていってみんなで食べればいいわ。あんな若いイケてる子がこのクソ寒い中、ケーキなんか売ってるのよ。まったくいじましいじゃないの」
このカップル(夫婦かもしれない)が黒のカイエンに乗って去っていく直前、言うまでもなくギルバートもコニーも彼らに向かい、「ありがとうございます!!」と、ほとんど最敬礼に近い形で頭を下げていた。
そのあともふたりは、「ケーキいかがですかあ?」と、ハンドベルを鳴らしつつ呼びかけたのだが、振り返るどころか、注意を向ける人間すら、もはやほとんどいなかったといえる。
「やれやれ。埒が開かないな。いいよ。このケーキ全部、俺が買うから、バーコード全部剥がして」
「い、いいのよ、ギルバート。これも仕事だもの。気にしないで帰って。こんなんじゃせっかくのイヴの夜が台無しでしょ?」
そう言って、コニーがコートを脱ごうとしたため、ギルバートはコートごと彼女のことをぎゅっと抱きしめた。
「いいから、このままじゃ君が風邪ひいちゃうよ。ケーキのことは俺に任せて、君は店内に入ってるといい。とにかくケーキさえ全部売れればいいんだろ?」
「えっと、でも……」
ギルバートは簡単に剥がせるようになっているバーコードを全部剥がすと、ポケットの中から財布を出し、カードを彼女に渡した。
「それで、全部ケーキ売れたってことにすればいい」
「だっ、ダメよ、ギル!そんなわけにいかないわ」
「いいから!とにかく俺の言うとおりにして」
そう言ってギルバートは、コニーを無理やりコンビニの店内のほうへ押しやった。レジのほうでは、さっきからこうしたやりとりを興味深そうに見ている、銀髪の男性店員がいる。
「よう、コニー!あのイケメン、もしかしてコニーの彼氏かなんか?」
「ち、違うわよっ。ただの友達っていうか……でも、イヴの夜にケーキ売りだなんて可哀想だって言って、それで……」
この近くにある情報処理専門学校へ通っているデヴィッド・ライルは「♪ヒュウ」と口笛を吹いている。
「ふうん。ただの友達ねえ。それでケーキの売れ残り、全部買ったりするもんかねえ。どこのぼんぼんだか知らないけど、あいつ、絶対コニーに気があるんじゃね?」
(ブラックカードなんて初めて見た)と、妙に感心しつつ、デヴィッドはバーコードを順にスキャンしていった。自分ひとりじゃ食べきれないケーキのために七百七十ドルもの出費……彼の常識的な頭としては(あいつ、絶対頭おかしいんじゃね?)としか思えない。
「なに?もしかしてこれからあいつに、お礼としてサービスとかしてやんの?」
「ちっ、違うんだったら!ギルとはそういう関係じゃないっていうか……」
コニーが真っ赤になって同じバイト店員に言い訳する間――外ではギルバートが通行人にケーキを配っているところだった。
「♪あなたに神のお恵みを~……」
ハンドベルをリンリン鳴らしつつ、特に子供連れの大人のそばへギルバートはすり寄っていく。
「あ、あら。ケーキだなんてそんな……」
「いえ、神さまのお恵みのただのケーキです。お代は入りませんし、中に変な毒も入ってませんし、俺は頭のおかしい変人でもありません。今日はクリスマス・イヴです。神さまの奇跡を信じてください」
「ママ、うちにもケーキあるけど、ぼく、明日もケーキがあったら嬉しいな!」
「ほんとにいいんですか?なんか申し訳ありません。ありがとうございます……」
おそらくギルバートがいかにもまともそうな紳士に見えるせいだろう。無論中には「ケーキなぞいらんよ」と、明らかに訝しんで突き返してくる者もいるにはいたが、大抵の通行人が「あらまあ、ほんとにいいんですか?」とか、「あなたにも神さまの祝福とお恵みがありますように」と言って、快くケーキを受け取ってくれた。中には、何かの会社が客の好意を得ようとするキャンペーンを行なっていてラッキーだった……そんなふうに受けとめた者もいたようである。
このあと、バックヤードにいた店長はコニーがこんなにも早くケーキを売り切ったと知り、すっかり気をよくし――まだシフトが三時間も残っているのに「帰ってもいい」という許可が即座に下りたのである。
「信じられないな。あのコンビニの店長、コニーがケーキ売り切らなかったら、あのまま外にほっぽっておくつもりだったのかよ!」
ロッカーで着替え、コニーが裏口から出てくると、ギルバートは怒り心頭に発してそう言った。
「なんか、去年同じ時期にアルバイトしてた子が、あの格好で売ったらケーキがたくさん売れたんですって。すごくノリがよくてグラマラスな感じの、スタイルのいい子だったみたい」
「そりゃきっと、その子が自分から率先して面白がってそんな格好してたってことだろ?馬鹿ばかしい。あんなことのために従業員が風邪かインフルエンザでぶっ倒れでもしたら、あそこの店長だって責任取れないだろうに……まったく、何考えてんだろうな」
ギルバートと並んで通りを歩いていきながら、コニーは笑った。今はもう一度店の中に入って暖まったし、着替えもしたので、真っ白なコートを着ている今、彼女は少しも寒くはない。もちろん最初にあのサンタガールのコスプレをしてくれと言われた時には――(頭おかしいんじゃないの、この店長!?)とはコニーも思った。だが、今ではコニーは頭の禿げた気の毒な店長に、心から感謝したい気持ちでいっぱいだったのである。
「可哀想な人なのよ。今まで働いて貯金したお金、全部注ぎ込んであの小さなコンビニを開業したんですって。でも経営のほうは結構大変らしくて、毎日従業員の誰かしらが出勤するたびに『日本の企業はまるきりヤクザだ!』なんて叫んでるらしいの。あと、休憩の時にバックヤードにいってみると、『決して誰も幸せにしない日本の経済システム』なんていう本を読んで、しきりとうんうん頷いてたりね……うちのお義父さんもたま~に、『俺もコンビニでも経営してみようかなあ』って言ったりするんだけど、きっとやめたほうがいいんでしょうね。あの店長がリモート会議で、パソコンの画面に向かって妙にぺこぺこしてるの見るたび、そう思うわ」
「でも……君は偉いよ。あんなイヴの夜にさ、コニーだったら友達もたくさんいて、あっちこっちからパーティにも誘われてたんだろうに、よりにもよってアルバイトだなんて……」
「う、ううんっ!そんなこと……それよりもギル、ごめんなさいね。あんなケーキ、全部買わせちゃったりして……」
「いいんだよ。むしろ、結構楽しかったくらい。子供なんか、『サンタさんのプレゼントだ、わあ~い!』なんて言って、無邪気なものだったしね。クリスマスの夜に、あのケーキで少しでも嬉しい思いをしてくれた人がいたら、俺はそれだけで十分だよ」
このあと、ギルバートは通りかかったレストランで空きがないかどうか聞いてみたが、どこも予約やその他の客でいっぱいだった。
「そりゃそうだよな。イヴの夜だし……」
「いいのよ、ギル。あなただってこれから、何か予定があるでしょ?わたしのことは気にしないで」
「ううん。予定なんか何もないよ。さっきまで医学部の先輩のパーティに行ってたけど、友達が適当に相手を見つけていなくなっちゃったんだ。だから、もう帰ろうと思って歩いてたら可愛いサンタガールがハンドベル鳴らしてケーキを売ってたってわけ」
この時、コニーはギルバートと腕を組もうかどうか迷ったが、まるで彼女の気持ちが通じたように、彼はコニーの手を取っていた。
「そうだ。こうしない?そこの信号機を渡った先に、百貨店がある。もうすぐ閉店だけど、それでも地下にあるスーパーはやってるし、今夜食べるのにちょうどいいものくらい、何か売ってるはずだから」
「で、でも……」
「でも、何?そこで何か適当に食べるものでも買って、うちで少しあったまろう。あんな寒い中ずっと立ってたんだし、休んでから帰ったほうが絶対いいよ」
「…………………っ!!」
この時、コニーの心は嬉しさと喜びではちきれんばかりだった。(神さま、イエスさま、マリアさま、本当に本当にありがとうっ!!)と、思わず心の中で叫んでしまったくらい。
閉店前ということもあってか、それともクリスマス・イヴという事情からか、店の棚には空いている箇所が随分目立ったが、それでもまだ残っているクリスマス用のオードブルやフルーツやサラダなどを、ギルバートは片っ端からカートに入れていった。
「遠慮しないで、ケーキでもお菓子でもなんでも、好きなの入れていいから。あんなバイトのせいで、すっかりお腹すいたろ?」
「う、うん……っ」
よく考えると、(もしかしてギルはわたしを憐れんでるのかもしれない……)とコニーは思わなくもない。これは偶然ではあるのだが、看護実習中に看護師に叱られているところを見られたこともあるし、今回は今回で、コンビニなどという低賃金の代表のようなバイト先で惨めに働くところを見られてしまい――高級百貨店の、高めの食料品をいくらでも買えてしまえる彼とでは、そもそも身分違いもいいところなのかもしれない、とも思う。
けれど、コニーは結局のところ(それでもいい)と思えた。ギルバートはこの上もなく優しかったし、彼は変にひねこびたところのない、本当の紳士の精神を持っているともわかっていた。だから、こちらでもそんなに深く難しく考えず、ただギルバートの示してくれる優しさに甘えればいいのだと……。
実際、コニーはそんなふうに一瞬思ったこともすぐ忘れてしまった。ギルバートが「これ食べたい?」とか、「お酒は何がいい?」と、色々聞いてくれることで――なんだかまるで本当の恋人同士が買い物しているみたいだと、コニーにはそんなふうに思えることが、あんまり幸せだったから……。
そして、彼らはダニー・ハサウェイの『This Christmas』や、エラ・フィッツジェラルドの『Jingle Bells』が流れる中、うきうきと楽しく買い物し、閉店を知らせる音楽が流れる中、百貨店をあとにしたのだった。
「あっ、ギル。雪が降ってきたわ……」
お互い、ひとつずつ買い物袋を提げたまま、ギルバートのマンションのほうへ向かおうとした時のことだった。ここから歩いて、もうすでに五分ほどのところである。
「天気予報じゃ、『残念ながらホワイト・クリスマスにはならないかもしれません』なんて言ってたのにな。きっと君が一生懸命働いてたから、神さまがご褒美に降らせてくれたんだよ」
「…………………っ!!」
(そんなこと、あるわけないでしょ!)とは、何故かコニーには言えなかった。ギルバートは何故かいつでも、『どうせ他の女の子にも似たようなこと言ってるんでしょ』といったことを越えて――ただ純粋に心からそう思ってるとでもいうように、本当に何気なく相手が喜ぶことをさらっと言えてしまうのだ。
このあと彼らは、ギルバートの部屋でコートを脱ぐと、テーブルの上に売れ残りのオードブルやフルーツやサラダなどを乗せ、それからシャンパンの栓を抜き、まずは食事をした。テレビではクリスマスの特番をやっていたが、ふたりはほとんど見てなかったと言ってよい。
コニーは看護実習の間にあったことを話し、ギルバートはギルバートで自分の実習中にあったことを話しては、お互い笑いあった。コニーの直接の上司は看護師だったかもしれないが、今ではもうどこの病棟の看護師のこともそれなりに覚えていたし、人間関係において被るところがあるため、話題のほうはいくら話しても尽きないほどだった。
「そうそう。あの採血や点滴だけを専門にしてるおばさんたちな、なんか妙に貫禄あるんだよ。看護学生だけじゃなく、医学生も最初の頃はあの人たちについて注射の仕方とか点滴のやり方教わるからさ。うまくやれないと「チッ」って舌打ちされたり、「この下手くそが!」ってボソッと言われたり……なんだろうねえ。毎年毎年、ぼんくらの学生をずっと相手にしてきて、今じゃもうすっかり飽き飽きって感じなのかな、あのトドみたいに何事にも動じないみたいな態度は……」
「わかる、わかるっ!!」
コニーはシャンパン片手に、陽気に笑って言った。
「そうなのよ。わたしたち看護学生の間じゃ、陰でこっそり『おっかない針部隊のおばさんたち』って言われてるのよ。わたしも、うまく患者さんの血管が浮いてこないことがあって、すごく焦ったわ。すぐ真横であのおばさんたちがイライラオーラ全開でじっと見てるもんだから……むしろ患者さんから『学生さんも大変だね』って、同情されちゃったくらい」
「わかるよ。一応俺たちも医学生のネームタグはつけてるにしても――医師の監督下において、腰椎穿刺とか気管挿管とか、色々やらされるだろ?そしたらさ、『大丈夫なんでしょうか、先生』なんて目でじっと見つめられたり、あるいは逆に、医学生って名称が目に入ってこないのかどうか、『この立派な先生に任せときゃ大丈夫じゃ』とか、家族に話してるのが聞こえたり……インターンやレジデントの先輩に聞くと、おまえの微妙な立場はわかる。俺たちだってほんのちょっと前までそうだったんだから。だが、一応表面上は<オレは出来る医者だ>って振りをして患者とは接するのが一番だっていうことなんだよな。『まだ医学生なもんでわかりません』とか、そういう曖昧な態度は患者を不安にさせるだけで、俺たちにじゃなくて患者さんたちにいいことなんかひとつもないってことらしい」
「なるほどねえ。わたしも毎日ひいひい言ってるけど、ギルバートなんてお医者さんなんだから、きっともっと大変よね」
「どうかなあ。俺なんか本当に無事卒業して、その後ちゃんと医者になれるんだろうかなんて、今から心配してるくらいだよ。コニーはさ、明るくて人当たりもいいから、誰からも好かれるし、きっと患者受けもいいだろ?君は間違いなく看護師に向いてるよ。でも、俺はもっと色々頑張らないとなあ……」
コニーは、疲れきったような溜息を着くギルバートに近づくと、彼にそっとキスした。看護師課程と医師課程ではもちろんそれぞれ違いがあるとはいえ――大学病院という場所で半人前として実習を受ける者同士、彼女にはギルバートの抱える大変さといったものが、具体的に想像できていた。また、彼以外の医学生たちがレジデントらに鋭い質問を浴びせられたり、厳しい叱責や注意を受ける場面というのも、何度も見たことがある。
「そういえば俺……君にクリスマスプレゼント用意してなかったね。さっき百貨店へ行った時、何か買ってたら良かったのに……」
「ううん。プレゼントならもうもらったわ……」
コニーがギルバートに積極的にキスし、彼のワイシャツのボタンに手をかけた時のことだった。
「ほんとにいいの?」
「どうして?いいに決まってるじゃない!」
(そういう目的でケーキを買ったわけじゃないんだ……)というのは本当だったが、コニーがここへやって来た時点でほぼそうなることを期待していたのは事実だった。といっても今のところ、彼らは恋人同士というわけではない。この間、彼女がこの部屋へ来たのは八月の、夏休み中のことだったから――今日まで、病院内で少し話したという以外では、ふたりは電話ですら連絡を取りあっていなかった。
ギルバートは、自分がなんらかの専門医として認定されるまでは、特定の恋人というのを持つつもりがない。勉強と実習で忙しいということもあって、相手の女性が恋人に望むことを十分叶えられるとは思えないからだ。もっとも、ディックやシェルドンらに言わせると「そんなこと言ってたら、オレたちいつまでたっても恋人なんか持てないぜ」ということになるのだろうが……単に同じ女性でないというだけで、ギルバートの部屋にはその時々で色々な女性がやって来てはいるわけである。
彼にとってコニーは、そうした<遊び相手>とは、明らかに立場の違う女性だった。だから、あえて距離を置いた。親友のロイの恋人にも、「あの子は本当に純粋で一途なの。遊びだったら絶対にやめて」と、一度釘を刺されてもいる。
このあと、ふたりがベッドルームのほうへキスしながら移動した時のことだった。「ギル、ちょっと待ってて!」と言うと、コニーは少しの間バスルームのほうへ消えた。
シャワーを浴びにいったのかもしれないと思ったギルは、そのまま寝室で待っていたわけだが――次に姿を現した時、何故かコニーはサンタガールの格好をしていた。
「じゃじゃ~ん!たまには、こういうコスプレも悪くないでしょ?」
「…………………」
暫しの間沈黙が落ちて、コニーは恥かしくなった。(うわっ。もしかしてギル、どん引きしてる?……)そう思ったものの、もうあとには引けない。
「イヴの夜にサンタガールのプレゼントなんてどうかと思ったんだけど……なんかちょっと馬鹿みたいよね、こんなの」
「ううん、そんなことないよ。最高だよ!」
ギルバートはミニスカートの裾を引っ張って俯くコニーの元までいくと、すぐ先ほど以上に情熱的なキスをした。
「今まで俺がクリスマスでもらった中で、一番のプレゼントだよ。だって……」
コニーのことをベッドに押し倒すと、ギルバートは彼女の首筋にキスしつつ、耳許にこう囁いた。「今夜一晩、なんでも俺の好きなようにしていいっていう、これはそういうことだよね?」と……。
(えっ、え~と……前にも結構色々したりされたりした気はするけど……あれ以上にもっとすごい何かがあるってこと?)
このクリスマス・イヴの夜、コニーはあらためて思い知っていた。彼が自分以外にも女性がいて、これまでの間に何人もと経験のあることはわかっているつもりだった。けれど、自分に対してはあれでもまだ<比較的紳士的>に振るまっていたほうであって――手を縛られたり目隠しされたりといった経験は、今までの彼女の経験でも一度もなかっただけに……(もうまともなセックスプレイに戻れなかったらどうしよう)と、彼が手の拘束を解いてくれた時、彼女は少し怖くなるくらいだった。
「ギ、ギル、今日はもう……っ」
「ああ、うん……こういうのは嫌い?もし本当に嫌だったら、二度としないよ」
ぎゅっと後ろから抱きしめられて、コニーは再び胸がドキドキしてきた。あんなに何度もしたのに、彼に触れられただけで、またおかしくなりそうになる。
「家のほうには送っていくから……心配しないでゆっくり眠って。俺も少し寝るし……それで、起きてからふたりで、きのう買った食べ物の残りを朝食にしよう」
実際、そう言ったあと、ギルバートはすぐ眠ってしまった。コニーも彼の胸に抱かれたまま、大体同じタイミングで寝入ってしまう。
ふたりの関係というのは、この時以後も前とあまり変わらないもので――前以上には電話で連絡しあったり、コニーが彼の部屋へやって来たり、ふたりで出かけるといった回数も増えた。けれど、コニーはギルバートのことを心から愛しつつも、彼のことを恋人として人に紹介するようなことはなく、曖昧な状態というのがその後何年も続いたのである。けれど、確かにコニー・レイノルズという女性はギルバートにとって、以後もただの<遊び相手>ということだけはなかったのである。コニーの『ギルバートを理解するためにも看護師になりたい』計画というのは、最終的に成功し、実を結ぶということになったのだから。何故なら、他の女性であれば話してもいまひとつ理解できないことでも、コニーは院内で起きる人間関係の微妙さといったものも含め、医療スタッフとしてこの上もなくよく理解していたからである。そうした意味でもコニーはギルバートにとって、「他の女性には相談できないことも話せる相手」であり、決して出すぎることのない控え目さによっても、彼の気を惹くことが出来たのである。
こうして、コニー・レイノルズはギルバートが脳外科の専門医となった年に婚約し、その翌年には結婚式を挙げるということになった。そして、ギルバートが彼のまわりに数いた女性の中から何故彼女を選んだかといえば……他に、こうした理由もあったに違いない。
♪おお、ぼくの可愛いダイアナ。愛しておくれ
ぼくが誘うと、いつもすげない態度のきみ
他の男に流し目をくれ、いつでもぼくのことは無視
おお、麗しのダイアナ。ぼくと恋に落ちて欲しい
ぼくの胸はいつでもきみのことでいっぱい
おお、いとしのダイアナ
ぼくの美しい、素晴らしい人……
ギルバートが自分で食べもしないクリスマスケーキを山ほど買った翌日のこと――彼がフェラーリの助手席にコニ―を乗せ、彼女を送っていく途中、タイム・ロケッツの『レディ・ダイアナ』がかかったのである。
そしてその後も、コニーとどこかへ出かけると、この曲がよくラジオから流れてきた。1966年のヒット曲で、今ではそう頻繁にラジオでかかるような歌でもない。けれど、このことのうちにもギルバートがある種の啓示のようなものを感じ……それが最終的な確認となって結婚を決めたことなどは、今はまだコニーの与り知らぬことだったに違いない。
終わり