こじらせ女子ですが、何か?

心臓外科医との婚約を解消して以後、恋愛に臆病になっていた理穂。そんな彼女の前に今度は耳鼻科医の先生が現れて!?

レディ・ダイアナ。-【8】-

2022年03月28日 | レディ・ダイアナ。

 

 ええと、今回は最終回の文章までどうにかギリギリ入れられそうだったんですけど……わたし、この小説の連載終わったら、次のお話書くのに結構時間かかると思ってて(^^;)

 

 なので、今回は本文短めなんですけど、次で最終回っていうことにしようかな~と思いました

 

 そんなわけで、今回はちょっと前回の前文の続きですm(_ _)m

 

 時々、街のどこかの通りを久しぶりに歩いていて――突然、ある場所が空き地になってて、前まで何が建ってたのか思い出せない……っていうこと、ありませんか?

 

 前まで、学校へ行くにしても職場へ行くにしても、何度となくその前は通っています。でも、ある日建物が割と込み合って建ってる一軒だけが失くなってて、「前まで某銀行の社宅だったよな、ここ」とはっきり思いだせることがある一方、大きなマンションとマンションの間に挟まれた建物が失くなってるのを見て……そこに何が建ってたのだったか、まるで思い出せないことがありました。

 

 自分でも思うんですよ。そこは某駅からも近くて、しょっちゅうその目の前を通ってるはずなのに――「なんで思い出せないんだろう?」と、自分でも不思議で不思議でしょうがない。そこで、とある友人にふと聞いてみたのです。「某駅の近くにある、マンションとマンションに挟まれた土地、突然更地になっててびっくりしたんだけど、あそこ、前まで何が建ってたっけ?」と。そしたら、その友人も「ええ~っ!?」とびっくりして、「自分も何日か前にそこ通りかかったけど、同じように思いだせなかったんだよね」と、まったく同じことを思ってたのが判明したのでした(^^;)

 

 そのあとも少しの間、「なんだったっけね~」と話していたのですが、結局ふたりとも思いだせず……わたし、いまだにそこに何が建ってたのだったか、まるで思いだせません。。。

 

 もちろん、その記憶がなかったところで、日常生活に支障はまったくない。ただ、「ちょっとだけ気になる」、「わかったとしたらその瞬間、「あ~、そうだあ~!!」みたいになるという、それだけの話」とは一応わかっているのです。

 

 ただ、その後かなりの時が経ち、『ウエストワールド』という作品とか、他の「アンドロイドに偽の記憶が移植されてる」とか、あるいは特殊任務についてる人間の意識を操作するために、同様に偽の記憶が移植されてる……といった系のSF作品を見ていて、ふと思ったわけです。

 

 人間の脳内に何億もある脳細胞のどこになんの記憶があるか、そのマッピング地図みたいなものを作成できれば、「このあたりには幼少時の記憶があるから、これを消してべつの父親や母親の記憶を上書きしよう」とか、一応理論上は――というか、これからもっと科学が進んで、人間の脳の中のことがわかったとすれば不可能ではないのかな、なんて(^^;)

 

 それで、記憶に突然欠損箇所が生じた場合……わたしがマンションとマンションの間の土地に何があったか思いだせなかったみたいに――「そこにはわたしにとってとても大切な建物が建ってたはずなのに、どうして思いだせないんだろう」と思ったり、「それはとても懐かしくて大切な記憶らしいということだけはわかってる」、「そのことを思うと涙がでるのはどうしてだろう」……みたいになったりするのかどうか。。。

 

 まあ、例によって本文とは全然関係ない話ではあるんですけど、ギルバート先生は脳外科医を目指すらしいということで、実際これってすごく怖いことだと思ったというか(^^;)

 

 

 >>脳を切りひらかなくてはならない状況によく直面するが、わたしはこれをするのがいやでたまらない。まぶしく光る脳の表面には、美しく、また複雑に入り組んだ血管が走っている。その赤い血管をバイポーラ 鉗子で挟み、凝固止血する。それから脳の表面に小型のメスで穴をあけ、細い吸引器で脳のほんの一部を吸引する――脳はゼリーのような物質でできているため、吸引器は脳神経外科医がよく使う器具のひとつだ。

 

 わたしは手術用顕微鏡をのぞき込み、白くやわらかい脳組織の深部へと吸引器をそろそろと下ろし、腫瘍をさがしはじめる。いま、この吸引器が思考そのもののなかへと分けいっていると思うと、じつにふしぎな感じがする。感情、理性、記憶、夢、内省といったものがすべて、このゼリー状の物質でなりたっているのだから。目の前に見えるのはたんなる物質にすぎない。だが、うっかり違う場所に迷い込み、脳外科医が「雄弁な領域」と呼ぶ脳機能が集中している部位に傷をつけようものなら、術後、回復室に回診に出向いたとき、自分がしでかしたことの結果を直視せざるをえなくなる。そこには脳に損傷を負い、障害を負った患者さんがいることになる。

 

(『脳外科医マーシュの告白』ヘンリー・マーシュ先生著、栗木さつきさん訳/NHK出版より)

 

 なんていうか、吸引器でほんのちょっとずるずるっと脳の中の細胞を吸い込んでしまっただけで――その部位にもよるにしても、その方の意識が永久に戻ってこなかったり、植物状態になってしまったり、あるいは体のどこかが麻痺して元に戻らなくなったり……マーシュ先生もまた、自分が失敗したりミスした手術のことについて、驚くほど率直に語っておられるのですが……マーシュ先生のこの本を読んでわかるのは、肝臓や膵臓や腎臓といった他のどの臓器にメスを入れることになるよりも――脳の手術を受ける時には、慎重に慎重を期して、「この先生になら」と信頼できる先生を探しだすことが本当に大切ではないか……ということだったりします(いえ、脳下の先生にもヤブっぽい先生っていらっしゃる気がするので^^;)。

 

 それではまた~!!

 

 

 ↓を読み返したら、全体として「鳥は頭が悪い」みたいな印象で、自分でも笑ってしまいましたでも、鳥は体内に方位磁針を持っているからすごく長い距離でも毎年同じ場所へやって来れるんでしょうし、すごく長い飛行距離を長い時間飛ぶので、その間は途中半球半眠したりするって言いますよね。あと、ロリス医師は脳外科医なので、もちろん人間の脳の構造のみならず、大体のところ他の動物の脳の中についても詳しいのでは……と思ったりするのですが(汗)、まあギルバートとの会話っていうのは単なる世間話程度のものと思っていただければ、なんて思います(^^;)

 

 

       レディ・ダイアナ。-【8】-

 

 例の医局主催のパーティがあった約十日後……ギルバートは大学池のほとりに並ぶベンチに、ダイアナ・ロリスの姿を見かけた。ちょうど池のほうに白鳥が飛来していた時期でもあり、周囲にはそちらに向けて写真撮影する市民の姿が多数見られたものである。

 

 また、十月とはいえ、その日は快晴で気温のほうも温かく――ダイアナの座る右のベンチにも左のベンチにも、それぞれカップルが陣取り、ぶっちゅううっとディープキスしていたり、恥かしげもなく体を絡ませあっていたり……ギルバートにしても(人前でよくあそこまで出来るな)と、一種感心してしまうほどだった。

 

 ダイアナ・ロリスの、ギルバートに対する実習中の態度が明らかに変わったのは事実だったが、ある意味それは「それまで外されていたのが普通になった」というくらいなもので――彼らの間に何か上司と部下として、あたたかみのある絆が微かながらも生まれたとか、これはそうした話ではない。実際、ディックもシェルドンもギルバートも、あれから『先週の<ドクターズ>のコント、超面白かったっすよねえ』とも、『フォーシーズンズホテルのメシ、めちゃうまだったっすよね』とも、そんな話は一度すらしていない。ダイアナ自身はといえば、その翌週の月曜日、『先週の土曜には誰にも会わなかった』とでもいうような、終始一貫して硬質な態度だったものである。

 

 ただ、午後からあった脳外の手術で、いつものようにいくつか医学生らに厳しい質問を浴びせ、ギルバートにもまったく同じ態度だったという、その後あった変化といえば……何かそんなところだったに違いない。

 

(こんなところで声をかけたとすれば、将来の直系上司に対して媚を売ってるとか、何かそんなことになるのかな……)

 

 ギルバートはそんなふうに思いながら、医療図書室から借りた本を小脇に挟みつつ、土手の上から暫くダイアナ・ロリスの姿を観察していた。だが、結局のところ何かがおかしくなってきて、そのまま枯れ草の混ざる野を下り、ダイアナの隣へ座ることにしたのである。

 

 彼女はおそらく、まるで周囲に見せつけるようにキスしたり、『わたしたちったら、こんなにわかりあっちゃってる!』とでも言いたげにベタベタしているカップルのことなど――そもそも眼中にないのだろう。というより、ハンバーガーか何かを頬張りながら彼女が考えているのは、池に浮かぶ華麗な白鳥のことでもなんでもなく、現在入院中の患者のことであるとか、きのう手術した患者の予後の状態のことであるとか、何かそんなことばかりだったに違いない。

 

(うちの父さんも大体、気になる患者がいる時にはあんな様子をいつもしてるものな……)

 

「あら、あんた。一体どうしたのよ」

 

 ギルバートは自分から「やあ、こんにちは」などと挨拶したりしなかった。ただ、ダイアナの隣に座り、彼女のほうで自分の存在に気づくのを待つことにしたのである。

 

「いえ、べつにどうとも……大学池の前を通りかかったら、見覚えのある大きな体の女性の後ろ姿が見えたから、それで……確かめようと思って見たら、やっぱりロリス医師だったという、それだけの話です」

 

「それだけの話ね。というか、大きな体の女性って、随分控え目な言い方ね。小山のような怪獣がベンチに座ってるけど、ベンチが壊れないのが不思議だと思って見にきた……っていうのでも、あんたの成績表に書くわたしの評価に変化はないからね」

 

 ギルバートは声にださずに笑った。ダイアナはといえば、ターキーバーガーの包みを丸め、今度は紙袋の中にあるチキンナゲットに手を伸ばしている。

 

「あんたも食べる?」

 

「えっ、いいんですか?これからまた病院に戻って仕事なんですよね?なんか先生のカロリーを俺が奪っちゃ悪いなあ」

 

「いいから、嫌いじゃないなら食べなさいよ」

 

 マスタードとケチャップのたっぷりついたナゲットを、ギルバートはふたつほどもらった。彼はこの時、現在入院中の患者のことや、この間手術を見学した患者のことなど、何か質問しようと考えていたのだが――その時、自分たちの周囲にしきりと首を振りながら鳩が何羽もやってくる。

 

「あんた、鳩って好き?」

 

「ええ、まあ。べつに嫌いじゃないですね。ただ、自分で飼いたいかって言われると疑問ですけど……」

 

 ダイアナはここでくすくす笑いだした。

 

「まあね。公園なんかにこうやってちょっとやって来て、寄ってくる分には可愛いわよね。だけどまあ、こいつらの小さな頭にあるのは、毎日のごはんのことだけなんじゃない?鳩だけじゃなく、大抵の動物……ううん。昆虫なんかもそうよね。大まかにいって、毎日食べるごはんのことと、あとあいつらの頭にあるのは生殖のことと、多少の仲間意識ってとこなんじゃない?」

 

「それは、脳科学的にそうだとか、生理学的にそうだとかいう、そうした話ですか?」

 

「ううん。人間と他の動物と何がどう違うかっていえば、そういうことなんじゃないっていう、あくまで大雑把なわたし個人の雑感よ。で、人間ほど脳が進化して発達していれば幸せかというと、そうでもないっていう話」

 

「確かに、そりゃそうですよね。人間は大体約一万二千年くらい前に立案中枢である外側前頭前野が発達し、過去を振り返って未来に自己投影できるのみならず、具体的に将来の計画も立てられるようになったそうですから……ある意味、大抵の不幸はそこからやって来たんじゃないですか?鳩とか、今池に浮かんでる白鳥とか、『三日後、もし食糧がなかったらどうしよう』なんて考える知能はない。彼らの頭にあるのは、今目の前に食べられるごはんがありそうかどうか、ただそれだけでしょうし。ところが人間は、ある程度将来について予測を立てられるがゆえに――このままいったら一週間後に食糧が尽きる、どうしよう……なんてことでパニックになるんでしょうね」

 

「あんた、面白いこというわね」

 

 そう言って、またもうひとつダイアナがチキンナゲットを食べると――食べ物の気配がわかるのだろうか?2~3羽あたりをうろついていた鳩が、5~6羽に増えてきた。のならず、随分遠くからもこちらを目指してやって来るのが見える。

 

「まあ、わたしが言いたかったのはね……こいつらは目の前に食べ物があるかどうかが一番の問題で、呑気でいいなって話よ。それに、見た目が大体のところどいつもこいつも一緒じゃない。だからそういうところで差別を受けるってこともないし……わたし、今も時々思うのよ。ペンギンとかパンダとかコアラとか……人間じゃなく、動物に生まれてたほうがよほど幸せだったんじゃないかってね」

 

「そうですか?確かに俺も、ナマケモノの生活には多少憧れなくもないですが、ロリス先生はロリス先生でいいじゃないですか。医学生たちが先生のことを怪獣と呼んだりするのは、ある意味親しみをこめてのことです。というか、むしろ仇名ひとつつけられない先生なんて、そのこと自体人気のない証拠みたいなものですし……」

 

「ふうん。ところであんた、よくわたしのこと許したわね」

 

 チキンナゲットを食べ終わり、親指についたマスタードやケチャップをなめると、ダイアナはリュックからポップコーンの袋を取りだした。そして彼女が餌を撒きはじめると、遠くにいた鳩たちがこっちへやって来る速度が速まったようだった。すでにベンチのまわりには十数羽ほどにもなっているが――その数は瞬時にして増える一方だったといえる。

 

「許すも何も……俺如きがロリス先生を許さねばならない、そんな事情自体、何かありましたっけ?」

 

「そう?わたしがあんただったら……他の医学生たちと結託して、仕返しに何かやってやっただろうけどね。たとえば、この間のパーティの時の写真をこっそり撮ってみんなで閲覧して笑い者にするとか。まあ、何分そんなことにはこちとら馴れ切ってるもんでね、蚊が刺したほどにも何も感じやしなかったにしても……あんまりないパターンだから、あんたちょっと変わってんだろうなと思って」

 

「そうですか?でも、もし俺が変わってるとしたら、それは先生の名前がダイアナだからでしょうね。うち、両親ともに揃ってるんですけど、父親は仕事で忙しくて家にいないし、母親は母親で社交的すぎて家にいないってタイプだったので……家にダイアナっていう家政婦がいて、彼女が母親代わりに育ててくれたようなものだったんです。だから、ダイアナっていう名前の女性に嫌な人間はいないっていう変な刷り込みみたいなものがあって……」

 

「そりゃなんか裏切っちゃったみたいで悪かったわね。というか、あんたのその理論、犬好きに悪い人間はいないとか、猫好きは善人ばかりみたいな感じもするけど……まあ、いいわ。元を正せばわたしが悪かったんだしね」

 

 この件に関し、あらたまった謝罪のようなものをギルバート自身期待していたわけではない。だが、ダイアナ・ロリスがそう言ってくれたことで、ギルバートの中ではもう完全にどうでもいいことになった。

 

「俺も、餌まきしていいですか?」

 

「もちろんいいわよ」

 

 ダイアナとギルバートの座るベンチは、五分としないうちに灰色っぽい土鳩が二十羽、三十羽……と、増加する一方だった。最初の十数羽くらいの時には純粋に(可愛い)と思えた鳩たちだったが、こうも増えてくると若干気味が悪かったと言えなくもない。しかも、ポップコーンを一撒きしても、全鳩に行き渡るわけではないので――ギルバートの気のせいかもしれなかったが、餌にありつけなかった鳩がこっちを一様にじっと見つめるあの目つき……「餌、エサ、えさ……餌おくれ!」、「一口食べたけど、もっとくれ!」、「いいや、もっともっともっともっともっとくれよぉォッ!!」――それはもう、脳内に餌を食べることしかない、腐肉を求めるゾンビの如き目つきにしか見えなかった。

 

「ほらっ!もう全部なくなっちゃったもんね~」

 

 想像力旺盛なギルバートとは違い、ダイアナの鳩に対する態度は極めてあっさりしたものだった。ポップコーンの袋を逆さに振り、「ほら、もうないわよ!」と一言いい、なおも地面の餌を必死に探す鳩の間をどすどす通り、その場をあとにしようとする。

 

「ほんとですね。あいつらの必死に餌を欲しがるあの目つき……あの小さい頭の中には、餌のことが第一で、他に考えることなんてほとんどなさそうだもんなあ」

 

「そうよ。交尾の時だって右のメスの鳩より左のメス鳩のほうがグッとくるだの、そんな面倒なことは大してなさそうですもんね。ある意味、まったくもって幸せな連中よ」

 

 このあと、大学病院へ戻るまでの間、ギルバートは自分が担当になった脳外科病棟の患者のことや、他にER患者に関して疑問に感じたことなど……そんな質問をダイアナにいくつかした。この時、ギルバートはまだ医学生であったが、以降指導医のダイアナ・ロリスとは概ね良好な関係を築いていくということになる。その後、医局開催のパーティがあった時にはいつでも彼女と同じ席に座ったし、脳外科の専門医になって以降も、他の同僚らがダイアナに対しあれこれ言っていても――彼はそこに参加することはなかった。特に上司に対するゴマすり行為ということもなく、単にギルバートはひとりの医師として、あるいは人間として、ダイアナ・ロリスという女性のことが本質的に好きだったのである。

 

 

 >>続く。

 

 

 

 

 


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