アメリカは久しくソ連を恐れていた。冷戦が終わった後はイスラム社会が標的になり、NYテロ後はイスラムを恐れていた。そして、今は中国を恐れている。
アメリカが中国を恐れるには十分な理由がある。最大の理由は、AI軍拡競争に遅れをとっていること、と通信手段の5G技術にも先をいかれていることである。
AIが戦争概念を一変させた。もうミサイルも空母も戦闘機も軍略的にはそれほどの緊急性はないのである。
AIは人間よりも大量の情報を瞬時に判定できるので、リアルタイムで複雑な戦況で最適解を出す仕事には人間よりはるかに適している。
ミサイルや戦闘機のような兵器がいくら充実していても、それらを統御するコンピュータシステムが撹乱されたら、戦争はできない。だから、本当は戦闘機を作る金があったら、サイバーセキュリティの精度を高める方が優先するのである。
ところがアメリカではそれが中国に遅れをとっている。この点では中国に明らかにアドバンテージがある。中国は独裁国家だから、AI技術の軍事転用に抵抗する勢力は国内にはいない。
顔認証システムやカメラによる国民監視システムでは中国はすでに世界一である。
遠からずアメリカはAI技術における相対優位を失うだろうとアメリカ軍事専門家たちは警告しているほどである。
トランプ大統領が仕掛けた米中貿易摩擦も、チャイナウィルスとコロナ騒動の責任を煽動して押しつけているのも、中国の科学技術への恐怖に駆動されている。
アメリカにとって中国はすでに「嫌いな相手」ではなくて、「怖い相手」になっているのである。だからトランプ大統領は、あの手この手で中国叩きに出ている。
アメリカの恐怖心が日本の政府やメディアに感染して、気がついたら「嫌中言説」がかき消されていた。別に日中関係が好転したわけではない。
ほんとうに怖いと思うのはそのことではなくて、中国モデルを模倣しようしている国が世界中に生まれつつあるということの方である。
中央統制を組み合わせた「チャイナモデル」の劇的成功を羨む人たちは民主国家よりも強権国家の方がアプローチしやすく成功すると信じ始めている。アフリカ諸国や東南アジアに中国は支援、投資して国家的インフルエンサーになっている。
『人間は直近の成功事例を模倣しようとする』
80年代、田中角栄首相が築き上げた「日中友好」はもはや古い歴史上の出来事で忘れ去られている。日本はアメリカに追従する以上、日中関係は常に一定の距離をおく微妙な関係が続くのだろう。
ソーシャルディスタンス以上の距離と配慮がいつも引かれている感じがする。嫌いな相手から怖い相手にならないことを望む。