アリ毒によるアレルギー反応、アナフィラキシーショックについてタイ・マヒドン大学によるレビュー。
いま日本で騒動になっているヒアリ(火蟻)はSolenopsis invicta。この蟻毒成分と交叉反応を示す成分は他のSolenopsis属にもあり、さらにはまったく別のPachycondyla属でも議論になっています。ヒアリのアナフィラキシーについては「2回目以降に刺されたときから」とは言わない方が良いみたいです。
- 今話題のSolenipsis invictaと同じSolenopsis属では、他にS.richteri,S.Geminata,S.Saevissima,S.xyloni,S.aureaがアレルギー反応を引き起こす。重要なことは、Solenopsis属の蟻毒成分のあいだで交叉反応を引き起こすことだ(たとえばS.xyloniとS.aurea)。
- S.geminata(ネッタイヒアリ)はタイ全土に分布する固有種で、やはりアレルギー反応を起こす。タイでアレルギー反応起こすのは他にTetraponera rufonigra, Odontoponera denticulataがある(ソースのFig1に画像あり)。これらはいずれも痛み激しく、刺してくる。Tetraponera rufonigraによるアナフィラキシー第一例はタイで報告され、17カ月女児で蕁麻疹・血管浮腫・呼吸困難・意識消失のエピソード2回。タイではこれらに刺されたらバンコクの三次医療機関に搬送され免疫療法を受けることになっており、アリはマヒドン大学に送られる。
- S.geminataの特徴は2つの葉紋と頭部のくぼみ(管理人注:ソースにイラストがありますが、全長2ミリかそこらのもので、そんなの瞬時に見分けるなんで無理!)
- 蟻毒成分は、酸とピペリヂン由来アルカロイドから成る。腹部の毒腺でつくられ、女王アリか働きアリかによって異なる成分。女王アリの毒成分は2-alkyl-6-methylpiperidine alkaroide、δlactode, α-pyroneから成る。
- S.invictaは1回刺すと0.04-0.11μLの毒物、10-100ngのタンパクを注入する。アルカロイド部分は膿瘍形成、細胞毒性、血液融解作用を有する。タンパク部分はSol i 1,Sol i 2, Sol i 3, Sol i 4の4種の主要アレルゲンを有する。S.geminataではSol gem 1, Sol gem 2,Sol gem 3, Sol gem4の4種のアレルゲンを有する。このうちSol gem 2 は Sol i 2と一定の同一性を有する。
- Solenopsis属のあいだで交叉反応(活性)
S.invicta以外にアナフィラキシー起こすS.richteri(通称:黒ヒアリblack inported fire ant), S.Geminata(通称:熱帯ヒアリ tropica fire ant), S.xyloni(通称:南ヒアリ southern fire ant), S.aurea(通称:砂漠ヒアリ desert fire ant)。
このうち、S.richteri(黒ヒアリ)のアレルゲンであるSol r 1とSol r 3は、赤ヒアリのSol i 1とSol i 3と構造類似する一方で、黒ヒアリと赤ヒアリは類似していない。S.xylori(南ヒアリ)に刺されてアレルギー反応起こした人の血清では、Sol i 1とSol i 3には反応したがSol i 2にはごく辺縁的な反応が見られただけだった。S.geminata(熱帯ヒアリ)のタンパクはS.invictaのSol i 1~4と構造類似していた。S.geminata(熱帯ヒアリ)のSol g 2はS.invicta(赤ヒアリ)のSol i 2とアレルゲン要素が類似している。Sol i 2は、Sol gem2とアミノ酸配列が72.3%同じで、Sol r 2とは78.2%一緒。
Sol2とSol4についてはSolenopsis属の間でも異なるが、IgE抗体活性は高度に交叉反応性である。実際のところ、あるヒアリに刺されたら別のヒアリへの感作になるといえる。 - Solenopsisi属と他属との交叉反応
pachocondyla属との交叉反応は、無いという報告(韓国)と有るという報告(中東)議論になっている。 - スズメバチ毒との交叉反応
S.invictaのSol i 1の抗原はハチ毒アミノ酸と33-38%同じ。Sol i 1とハチ毒phopholipaseとは臨床的にも類似している。 - 臨床症状。
即時反応は刺されて1~4時間以内に出現。①局所反応(疼痛・腫脹・紅斑・熱感・膿瘍) ②大型局所反応(直径10㎝以上で24時間以上継続 ③全身性表皮反応(掻痒・蕁麻疹) ④全身反応(アナフィラキシー)がある。 - n=20755例のスタディでは、413例(2%!)にアナフィラキシーが起こった。また、29300例中83例がアナフィラキシーを理由として死亡した報告も。幼児と高齢者は屋内で犠牲となるリスクも。現地新聞の報告で、屋内で刺されて受診した10例と未受診10例の合計20例中の6例が、アナフィラキシー起こってから1週間後までに亡くなっている。
- 診断。
問診すべきこと。刺された状況、場所・その時何をしていたか・アリの巣の状態。アリの判定は専門家へ。理学的診療も。
刺されて24時間以内の偽膿瘍形成はヒアリ診断の有力な所見である。
ヒアリのWBEを用いた皮内反応も使われる。血清特異的IgEも使用される。血清の特異性は皮内に劣る。 - 治療。
即時の治療と予防治療にわかれる。
即時の治療はエピネフリン 0.01mg/kg。最大で子供0.3mg、大人0.3-0.5㎎。
重症アレルギー反応の既往歴のある者はエピペン処方されるべし。
他の薬品、抗ヒスタミン薬や気管支拡張薬は対症療法として投与。
後発アナフィラキシーはステロイド投与で予防する。
生命維持療法はアナフィラキシーのガイドラインに基づき酸素投与、蘇生術など。局所ドレッシング、二次感染予防の抗生剤。 - アナフィラキシー予防療法として免疫療法と再び刺されないよう注意。免疫療法はWBEで。
要は、今話題のヒアリ以外の同属とも、他属のアリとも、ハチとも、交叉反応が考え得るということです。つまり、これまでヒアリに咬まれたことなど無いですと申告する人についても、ヒアリが棲息する地として繰り返し報道されている中国・米国・台湾・豪以外の国で、違うアリに刺されたことのある人、ハチに刺された人、ヒアリが初めての遭遇だったとしても、十分に想定しなければならないことです。
刺された人が50人いれば1人はアナフィラキシーを起こす!(2%)という数字はもっと強力に発信すべき数字でしょう。
そして、渡航医学界隈としては、海外赴任者に対しても(たとえばこのペーパーの舞台となっているタイには在留邦人が5万人いる)情報提供してゆくべきでしょう。
臨床症状も多彩、使うべき薬も色々。
現在は〇〇港で確認された報道が中心のヒアリ案件ですが、いずれ、港ではない場所、より生活圏に近い場所(倉庫・工場・流通センター・公園・住宅地 etc)で確認される事態も、このグローバリゼーションの世の中で十分にあり得ましょう。医学界の人間は、この、マヒドン大学がまとめてくれたレビューの知識を頭にたたきこんで備えるべきでしょう。
ソースは全文フリーアクセスです。
http://apjai-journal.org/wp-content/uploads/2016/10/2AntallergensAPJAIVol33No4December2015P267.pdf
Ant allergens and hypersensitivity reactions in response
to ant stings
Rutcharin Potiwat1 and Raweerat Sitcharungsi2