太鼓台文化とは、一体どのような存在なのか?
このほど、ある講座の発表資料を作成していた折に、忘れかけた5年ほど前の話題がふと思い起こされた。それは、「ユネスコ無形文化遺産登録」に関してのものであった。2016年12月に「国指定重要無形民俗文化財〝山・鉾・屋台行事〟」33件が、ユネスコ無形文化遺産に登録されたことが新聞で報じられていた。私はその記事を読んで、登録された各地と、太鼓台文化を伝承してきた各地に対する、主としてその扱いの差について忸怩(じくじ)たる思いを感じた。
私は、太鼓台分布地を表した略地図と比較するため、これら33件の所在地を白地図上に表示してみた(上の最初の図)。その結果、民俗学的には〝山〟にも分類されている〝太鼓台〟が数多く分布・伝承されている〝西日本の瀬戸内海周辺地域には、登録地が皆無〟であったという、思いがけない結果が判明した。勿論、「ユネスコ無形文化遺産」というネームバリューやお墨付きが、今後の33カ所の登録地で、その伝統文化を支えていく上で如何ほどの効用があるのかどうかは、何とも言えない。ただ少なくとも、肩書的には、〝世間からも、世界からも広く認められた日本の伝統文化である〟との評価を受け、各地方でもその評価に沿った運営や文化材的配慮が為され、超高齢化と若年層の減少が際立きつつあるこれからの時代、担い手不足に苦慮している太鼓台文化圏などに比し、少なくとも〝伝統文化の廃絶〟という悪夢からは解き放たれたのではないかと、うらやましくも感じた。
「批判の矛先は、選定の専門家へ」は、正しい判断か
確かに、33の登録指定地のそれぞれの伝統文化は、一つ一つが著名であり、由緒正しく、説得力のある歴史解明や個々それぞれの学術的解明が為されているように思う。しかしながらその当時の私は、〝何かが抜け落ちているのではないか!〟と思わざるを得なかった。そう、〝太鼓台文化が抜けている、無視されている〟とは言わないまでも、それに近い感情を抱いたことは間違いない。「太鼓台文化の体験人口は2,300万人なんだぞ!」(体験人口とは、実際の関係者も含め、太鼓台所在地の近郊に居住し、実際には参加したり体験はしなくても、見たり聞いたりして太鼓台そのものの形態や運行の様子が理解できる人々も含む)と公言して憚らない私は、件の無形文化遺産登録に際しての、太鼓台文化に対する低評価、即ち〝推薦に携わった専門家の方々の、その扱いの偏り加減〟に懸念を投げかけていたのである。
「太鼓台文化は〝なぜ、低評価しか受けないのだろう?〟か」ということを、当時かなり憤慨した気持ちで、なぐり書き的にノートにメモしていた。それが下図・半分の〝分析内容〟である。それを読むと驚いたことに、憤慨の矛先は推薦に携わった専門家の側に向かっていたのではなく、自分たち文化圏側に向かっていたのである。これまでの歴史解明しかり、何ら解明に努力の形跡が認められないことしかり、文化圏としてのまとまりもなく、文化の全体像さえ不明のままではないか。これでは誰しも、推薦など出来るわけがない。改めて読み直すと、太鼓台文化の将来にお寒い危機感さえ覚えていたのである。
太鼓台文化圏側の歴史解明等の努力不足は間違いなく存在する。またこれまで、文化圏各地に散らばる個々の太鼓台を系統立て、或いは関連付けて論じることもそれほどされずに、結果としてこの文化の全体像さえ未解明のままであることも、ほぼ事実である。その反面、「これほど広範囲な単一文化圏が、これまで、なぜ日の目を見ることもなく、文明発展社会の日本において、今日まで放置・捨て置かれてきたのだろうか」との、やるせない疑問もある。
太鼓台文化圏の英知を、一念奮発、発揮できないか
それではと一念発起し、太鼓台文化が中央からも〝未解明・未消化〟に打ち過ごされてきた原因について、自分なりに考えてみた。自分の住む四国・瀬戸内沿岸地方での太鼓台が、ちょうど幕藩体制(近世)から明治新政府(近代)に転換しょうとした時代に、新たに誕生したり、それまでと比べ大型に変化・発展してきた客観事実があったことから、他の先行する伝統文化に比べると、明らかに後発の文化であったことを納得せざるを得なかった。また、文化圏の他地方に伝承されている絵画史料や発展途上の比較的小型の太鼓台の存在を知ると、太鼓台が必ずしも現在の様に巨大・豪華なカタチではなく、比較的小型・簡素なものが多数を占めていたのも客観的な事実であり、由緒ある他の伝統文化のように〝太鼓台が伝統文化である〟との広範な認識に至らなかった。従って、各地に散らばっていた太鼓台は、今日の豪華なものには程遠いまだまだ簡素な太鼓台が主流を占めていたため、中央の話題にも上ることはなく、遠隔地の些細な文化であるとの認識しかされなかったものと思われる。以上のような文化的状況では、今日いくら巨大化し豪華を極めた太鼓台文化も、学術的探求をされることも少なく、研究者も少なかったものと思われる。
いずれにせよ、現状における〝太鼓台文化の立ち位置〟は、以上の如く著名な一握りの伝統文化に比し、かなり低いものであるのは間違いない。少なくとも国家レベルや国際レベルでの後ろ盾は、「現状では期待できない」と認識するべきである。その上で、太鼓台文化圏の私たちは、人口減少や超高齢化と超少子化の厳しい伝統文化の伝承環境に、知恵を出し合い一丸となって立ち向かっていかなければならない。私たちの太鼓台文化に向かい合う本気度が、今後ますます試され、重要となってくるに違いない。
(終)
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