犬の最新の癌治療
免疫療法(DC ワクチン療法、LAK 療法)
始めに
獣医学の進歩により伴侶動物の高齢化が進むと同時に病気の種類も変わり、予防可能な基礎的疾患に加え、更に腫瘍の発症が目立ってみられるようになってきました。難治性の悪性腫瘍に罹患した動物は、有効な治療法が確立されないため、不幸な死の転帰を辿らなければなりません。犬では約8歳から急激に発症し、10から11歳では3頭に1頭が悪性腫瘍により命を奪われています。
「伴侶動物と出来る限り元気な状態で永く一緒にすごしたい」という飼主様への要望に応えるのが我々臨床家の役目でありますが、現在の癌治療における外科手術および抗癌剤や放射線療法にも限界が存在することは否めません。
人の癌の治療においては、従来の治療法に加えて細胞免疫療法の研究が進み、実用化されつつあります。犬の癌治療においても、一部の大学でこの療法が始められていましたが、バイオベンチャー企業である株式会社DNAラボにより実用化され、2006年からこの療法を提供しています。当院はこの治療法の治験段階から参加し日本動物高度医療センターhttp://www.jarmec.jp/examination/active02.htmlの提携病院として新しい癌治療法を伴侶犬に紹介しています。
癌ができてしまうのは
「癌」は正常な細胞が何らかの刺激を受けて遺伝子変異を起こし、監視の眼を逃れて生着するものです。
しかし、臨床的に確認されない多くの初期の癌細胞は、健康な体では免疫監視機構から逃れることができずTリンパ球やナチュラルキラー細胞によって死滅させられます。
一方、免疫力の低下した年老いた動物や、癌に侵されている動物の免疫監視機構は癌細胞によって著しく抑制され、これらの細胞の機能も弱っています。また全ての細胞には細胞表面に抗原(細胞の表札)がありますが、癌細胞表面の癌抗原(癌である事の表札)は巧妙に隠されているため生体は癌に侵されていることに気付きにくくなっています。
その免疫監視機構から逃れた癌は徐々に発育増殖を起こし生命を脅かすことになります。
これまでの癌の治療
従来,癌治療分野では手術療法・化学療法・放射線療法,もしくはこれらの併用による治療が主たるものでありました。
しかし,これらの治療を行った場合,癌の退縮,消失および効果の発現が早いという利点があるものの,同時に正常細胞を傷害するため副作用が発現しやすいといった欠点を含み,治療を施した後に動物にかかる負担が大きく,生活の質(Qualityoflife1QOL)といった観点からみるとこれは大きな問題となります。
新しい免疫療法
現在では治療の効果,予後,生存日数を左右する要因の一つとして生体防御機構の役割が注目され,その破綻が腫瘍の増殖,転移へとつながっていることが明らかにされてきました。このことから,ヒトでは生体防御機能を保ちながら,QOLの維持や癌との共生といった考え方が普及し,第4の癌治療法として副作用が少なく,本来個体が持つ免疫機能を高める免疫療法が注目されてきました。
DC(樹状細胞 )ワクチン療法
通常健康な体の中では、血液中や骨髄の未熟な樹状細胞(体のなかで最も強力なガン細胞の表札を表に出させる機能を持っている細胞)が,癌細胞に集まって癌抗原を取り込むと同時に種々のサイトカインという物質の作用を受けて癌抗原提示の強い成熟樹状細胞へと成長していきます。次いで成熟樹状細胞はリンパ節のTリンパ球(癌細胞を殺す細胞)にこの癌細胞が居ることを知らせます。これによりTリンパ球は癌細胞に誘導されてピンポイントで癌細胞を攻撃します。
DCワクチン療法とは、上手く自分を癌細胞であることを隠している癌細胞と未熟樹状細胞とを癌患者さんから取りだして、体の外で特殊な操作を行ってこの二つの細胞を融合させて強力な癌抗原提示細胞を作り出し、サイトカイン:IL-12(T リンパ球を誘導、または出撃させる物資)と同時に患者さんに投与するという方法です。この方法の優れている点は,癌抗原を認識したTリンパ球は、癌細胞だけをアポト-シス(個体をより良い状態に保つために積極的に引き起こされる、管理・調節された癌細胞の自殺)に導くため、副作用がなくしかもピンポイントで癌を攻撃することができるので,化学療法,放射線療法などに比べて重篤な副作用がないことから,従来の外科手術や癌治療法との併用により相乗効果および副作用の軽減が期待できるものです。この療法を用いることにより、癌の再発と転移の予防,免疫力の亢進,QOLの改善といったすぐれた効果が期待されます。
LAK 療法
ナチュラルキラー細胞(ガン細胞を殺す細胞)を体から取り出し、この細胞に抗CD3抗体という物質を与えて刺激します。また同時にサイトカイン:IL-12という物質を与え増殖させます。これにより活性化ナチュラルキラー細胞を1 億個以上作りだし、それを体に戻してガン細胞を攻撃させる方法です。
上記2つのうち、どの治療を選択するかはそれぞれの犬の状況に合わせて選択することとなります。但し、すべての飼主様のご希望にお応えできない場合もありますし、どんな治療も同じことですが、何処まで改善できるかも不明です。特にこの治療法はまだ始まったばかりの治療法です。患者さんと一緒に相談して進めていかなくてはなりません、よって充分説明させていただきながら進めますのでご相談ください。
当院では日本動物高度医療センターhttp://www.jarmec.jp/examination/active02.htmlの提携病院としてこの治療法をご紹介しています。
この治療法について平成19年度日本小動物学会(近畿)において学会奨励賞を頂戴しました。治療法詳細についてはhttp://tamc.blog.ocn.ne.jp/syourei08_01/2006/02/post_d9d6.htmlをご覧下さい。
大正動物医療センター http://www.taisho.animal-clinic.jp/