ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

幸福な食卓

2009年11月18日 | ネタバレなし批評篇
父の自殺未遂によって崩壊した家族が、それとは別の“死”によって再生の兆しを見せるという、瀬尾まいこ原作の長編小説を映画化している。お父さんが教師をやめて突如医大受験に取り組んだり、お母さんが家を出て行ってしまったり、成績優秀なお兄ちゃんが大学に行かないで農業をやっていたり・・・。北乃きいちゃんが演じる佐和子を取り巻く環境はかなりシビアなのだが、誰かさんみたいに性格が捻じ曲がることもなく真っ直ぐに育っているところに、観客はきっと好感が持てるはず。

お母さんがいない以外、一見普通の家族に思える中原家のみなさんだが、それぞれが心の奥に秘めたトラウマが徐々に明らかになっていく脚本は、なかなかの出来ばえ。何かがズレて修正が効かなくなってしまったお父さんやお兄ちゃんの苦悩の原因が、映画の中ではっきりと描かれてはいないが、無理に出来合いの理由をこじつけるよりもかえってストーリーに不思議なリアリティが生まれている。

北乃きいをはじめ、お兄ちゃん役の平岡祐太、父さん役の羽場裕一、母さん役の石田ゆり子の非常に抑えた演技。それとは対照的に、佐和子を慕う能天気な金持ち転校生・大浦勉学を勝地涼が唯一役者っぽく演じているのも、家族それぞれが与えらた役割を何気に放棄している“いけすかなさ”を演出するにあたっては、おおむね成功しているといえるだろう。

ちょっとしたひずみが取り返しのつかないほどに大きな亀裂となって顕在化してしまった中原家。これが現実なら、整形&逃走を余儀なくされる転落人生まっしぐらということになりがちだが、現実ばなれした勉学との爽やかな“切磋琢磨”のおかげで志望校にも目出度く合格し、悲しい事件も何とか乗り越えることができた佐和子は、<誰かがどこかでそっと見守ってくれていること>に気づいた幸福な少女だったのだ。

幸福な食卓
監督 小松 隆志(2006年)
〔オススメ度 

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« トワイライト~初恋~ | トップ | 3時10分、決断のとき »
最新の画像もっと見る