マイケル・キートンという人、大根の割には作品との巡り合わせに不思議な運のある役者さんだ。大した事件も起こらないのに、観ているうちに時間があっという間に過ぎていく“呼吸する映画”に久々に出会えた気がする。
カトリック神父による幼児虐待事件を扱った作品ではあるが、スキャンダル性を煽るおどろおどろしいぺドシーンや、教会上層部の陰湿な隠蔽工作などは映画の中に登場しない。
むしろ、そういう事件が起きていることを知りながら見過ごしてきたボストン・グローブ紙記者以下市民の葛藤に重きを置いた社会ドラマと言った方が当たっているのではないか。横山秀夫の『クラマーズ・ハイ』のような映画といえばピンとくる方も多いだろう。
アイルランド系住民のほどんどがカトリック信者というボストンの街で、神父のペドフィリアという社会的タブーに蓋をしようとする動きもないわけではない。
チーム・リーダー=ロビー(マイケル・キートン)は大学同窓生から「こんな時(事件調査中に9.11が発生する)だからこそ信仰が必要なんだ」と諭され、暴露記事を読んだチームの紅一点(レイチェル・マクアダムス)のお祖母ちゃんも、悲しそうな目で孫をじっと見つめ返すのだ。
一方、機密保持義務を盾にはじめはけんもほろろだった事件に関わった弁護士たちが、ボストン・グローブ記者たちの熱意にほだされ、心変わりしていく様子が丁寧に描かれている。
スクープを掲載した新聞が配達される日曜日、殺到するだろうクレームに対応すべく出社したチームのメンバーたちを待っていたものは・・・もしかしたら、こんな風に世界は変えられるのかもしれませんよ。
スポットライト 世紀のスクープ
監督 トーマス・マッカーシー(2015年)
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