ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

勇者たちの戦場

2009年01月09日 | ネタバレなし批評篇
映画冒頭20分間の戦闘シーンはこの映画のオマケのようなもので、イラク戦争の輸送作業中に銃撃戦にまきこまれた3人の主要登場人物が本国アメリカに戻ってから本題が始まる。前線基地で無力感に苛まれた軍医(サミュエル・L・ジャクソン)、運転中地雷で片腕を失ったシングル・マザー(ジェシカ・ピール)、市街戦で友人を救えなかったことに悩む兵士(トミー・イェーツ)。この3人が帰国後たまたま同じ近隣に住んでいたという設定には多少無理があるかもしれないが、綿密な取材に基づきイラク帰還兵のトラウマを描いたストーリーは実にリアルだ。

一人の人物に絞らずに複数登場人物にフォーカスを分散させたことによって、元兵士たちが抱える苦悩に普遍性をもたせた演出も自分好み。比較的静かに進行する各エピソードの中に、戦争を体験した人間とそうでない人間の間に厳然と横たわる<心の溝>がくっきり浮かび上がってくる。その深刻な苦悩の前では、イデオロギーがどうだとか、石油利権目的の侵略戦争だとか、ブッシュが悪いとかいう批判は、もはや意味をなしていない。

戦争に限らず過去に辛い経験をして“何か”を失った人間が、それを経験していない人間たちの中に混ざって生活することは困難きわまりなく、カウンセリングなどの小手先の心理療法で到底治療されるべくもない。ある者は酒におぼれ、ある者は警察沙汰をおこし、ある者は再び戦場へと舞い戻る。無理やりわざとらしい再生物語にしないで、希望の光をかすかに感じさせてくれる控えめなラストにも好感が持てる1本だ。

勇者たちの戦場
監督 マーウィン・ウィンクラー(2006年)
〔オススメ度 

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