現在最もオスカーに近い男と言われるクリストファー・ノーラン。最先端にしてアナログ、ブロックバステリーでありながら緻密な作風が見事時代の流れにマッチしている映画監督である。
CG大嫌いのノーラン達が大量買い付けしたおかげで、コダック社の映画フィルム製造工場が延命したというのは有名な話だが、映画のドラマツルギーとしての演出や物語性よりも、自らの撮りたい絵にとことんこだわった生粋の映像オタクではないかと思うのである。
そんなオタク魂全開の映画がこの『ダンケルク』と思いきや、これが予想外の大凡作。監督自ら来日し宣伝やインタビューに大わらわだったとか、よほど作品の出来に自信がなかったとお見受けする。
自慢の映像も今回は大空振り。だだっ広い海岸や大海原、大空にパラパラと散らばるエキストラ兵士や小舟、数機のプロペラ機を見せられて脅威の映像と言われてもまるでピンとこない。CGに対する実写の限界をまざまざと見せつけられた感じだ。
黒澤の『羅生門』を何度も見て参考にしたとか語っていたが、共通点は陸海空の3つの視点というダンケで、どこをどう参考にしたというのか皆目検討もつかない。リップサービスもいい加減にせい、とまずは言っておきたい。
多くのレヴュアーが指摘するとおり、台詞なし、ストーリーなし、演出なしの映画をどう評価すればいいのだろう。ダンケルクの海岸から舟に乗って逃げようとする度に、メッサーシュミットに撃沈されて海岸に舞い戻る。たったそれダンケの内容を110分にまで無理やり引き延ばしたような印象さえ受けるのだ。
ハンス・ジマーが担当したというズンドコズンドコ鳴り響く暗めの太鼓のような効果音が耳障りこの上なく、演出らしい演出と言えるのは、さっきスピットファイヤーから見た沈没船、海の上から見るとこんなだったんだ、ただそれダンケである。
ここからは私個人の勝手な妄想だが、当初英国のEU残留を見込んで制作に取りかかったものの、予想外の結果に。あわてて脚本を大幅変更したが、かえって収拾がつかなくなってしまい、本来カットされるべきシーンを無理やりつなげて1本の映画に仕上げたのではなかろうか。
『私はここ(EU)に残って戦う』と語っていたケネス・ブラナーだけ、なぜかとってもイイ役で登場。『新しい世界(neworder?)が古い世界を救うまで』チャーチルのコメントを載せた新聞を読み上げるシーンも、考えようによっては意味深である。ハリウッドからダメ出しくらって後からつけ加えたのかもね。
(ノーラン節)
ヤッパリ ノーラン つまラン
くだラン サッパリ わかラン
(ハイハイ)
おしの兵士に 潮時問えば
私しゃフレンチ トミーに聞けよ
(チョイ)
やっぱナチなしじゃ 客来ないっショ
ダンケルク
監督 クリストファー・ノーラン(2017年)
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