「白い巨塔」に始まり「華麗なる一族」「不毛地帯」そしてこの「沈まぬ太陽」と、最近は山崎豊子原作の小説がやつぎばやにTVドラマ化・&映画化されている。実在のモデルが存在することで社会派作品と位置づけられる氏の本を脚色するにあたっては、原作者からかなり厳しいチェックが入るらしく、本作品の脚本にも相当回数手直しが行われたという。
本作品に登場する国民航空が巨象・日本航空をモデルとしていることは一目瞭然で、社内ではタブー扱いされている“御巣鷹山墜落事故”を正面からとらえたこの映画に対し、実際日本航空側からも申し入れがあったらしい。長年にわたる紆余曲折を経て、ようやっと日の目をみることになった本作品、制作に携わった方々の労をまずはねぎらいたくなる作品なのだ。
清く正しいサラリーマン恩地(渡辺謙)と社内外でうまく立ち回り出世街道を突き進む行天(三浦友和)。映画はこの2人の対照的な生き方を軸にすえながら、日航いや国民航空内の腐敗が未曾有の墜落事故を引き起こした原因であるとの大胆な仮説?を導きだしている。
飛行機事故で遺族の世話係となった恩地と、労組組合運動のリーダーとして会社側に断固要求をつきつける若き日の恩地を交互に映し出す演出は、途中でインターミッション(休憩)が入る長尺ものの導入部としては上出来で、観客の興味も自然とひきつけられる抜群の滑り出しをみせている。
しかし、“赤”と決め付けられた恩地がカラチ→テヘラン→ナイロビと僻地を転々とさせられる左遷シークエンスが少々ダルい。基本的には恩地が単身赴任のため、家族の反発描写もいまいち中途半端で、(ハマちゃんのように)恩地自身ケニヤで象ハンティングを楽しんだりしているものだから、渡辺謙演じる恩地から“左遷され続ける男の苦悩”があまり伝わってこないのだ。
そして、日航いや国民航空の膿を一掃すべく抜擢された新会長(石坂浩二)の補佐役を一度は断っておきながら、そのポストにいつのまにかおさまっている恩地の心変りが説明不足なのも腑に落ちない。正義感の固まりのような熱血サラリーマンから修行僧なみの悟りを開いていく恩地の心理変化描写が粗雑なために、観客の主人公に対する感情移入もそこそこといった感じなのだ。
昭和を代表とする大物俳優がこぞって大量出演しているこの映画、角川が社運をかけた力の入れ具合は十二分に伝わってくるのだが、「金がかかってんだからみんな感動しろよ」的な制作側の上から目線が少々気になるところ。勧善懲悪の昭和ドラマに慣れた上の世代には抵抗がないのかもしれないが、(JALの現状を見て)「あんなおっつぶれ会社よりも俺らの方を救済しろよ」的見方をする若い世代の目には、この映画どう映るのだろう。
沈まぬ太陽
監督 若松 節朗(2009年)
〔オススメ度 〕
本作品に登場する国民航空が巨象・日本航空をモデルとしていることは一目瞭然で、社内ではタブー扱いされている“御巣鷹山墜落事故”を正面からとらえたこの映画に対し、実際日本航空側からも申し入れがあったらしい。長年にわたる紆余曲折を経て、ようやっと日の目をみることになった本作品、制作に携わった方々の労をまずはねぎらいたくなる作品なのだ。
清く正しいサラリーマン恩地(渡辺謙)と社内外でうまく立ち回り出世街道を突き進む行天(三浦友和)。映画はこの2人の対照的な生き方を軸にすえながら、日航いや国民航空内の腐敗が未曾有の墜落事故を引き起こした原因であるとの大胆な仮説?を導きだしている。
飛行機事故で遺族の世話係となった恩地と、労組組合運動のリーダーとして会社側に断固要求をつきつける若き日の恩地を交互に映し出す演出は、途中でインターミッション(休憩)が入る長尺ものの導入部としては上出来で、観客の興味も自然とひきつけられる抜群の滑り出しをみせている。
しかし、“赤”と決め付けられた恩地がカラチ→テヘラン→ナイロビと僻地を転々とさせられる左遷シークエンスが少々ダルい。基本的には恩地が単身赴任のため、家族の反発描写もいまいち中途半端で、(ハマちゃんのように)恩地自身ケニヤで象ハンティングを楽しんだりしているものだから、渡辺謙演じる恩地から“左遷され続ける男の苦悩”があまり伝わってこないのだ。
そして、日航いや国民航空の膿を一掃すべく抜擢された新会長(石坂浩二)の補佐役を一度は断っておきながら、そのポストにいつのまにかおさまっている恩地の心変りが説明不足なのも腑に落ちない。正義感の固まりのような熱血サラリーマンから修行僧なみの悟りを開いていく恩地の心理変化描写が粗雑なために、観客の主人公に対する感情移入もそこそこといった感じなのだ。
昭和を代表とする大物俳優がこぞって大量出演しているこの映画、角川が社運をかけた力の入れ具合は十二分に伝わってくるのだが、「金がかかってんだからみんな感動しろよ」的な制作側の上から目線が少々気になるところ。勧善懲悪の昭和ドラマに慣れた上の世代には抵抗がないのかもしれないが、(JALの現状を見て)「あんなおっつぶれ会社よりも俺らの方を救済しろよ」的見方をする若い世代の目には、この映画どう映るのだろう。
沈まぬ太陽
監督 若松 節朗(2009年)
〔オススメ度 〕