ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

ロブスター

2020年01月15日 | ネタバレなし批評篇



2010年代に撮られた映画のベスト10にあげる人がけっこう多いこの風変わりなSFコメディは、全くの新ジャンル作品といっても過言ではないだろう。テーマはずばり“価値観が逆転した世界”。遥か昔シチリアの某浜辺で一人体を焼いていた私を見て金持ちそうな老夫婦にサイコ扱いされたことを覚えているが、この映画今となっては当たり前の“おひとりさま”が罪人扱いされる社会が前提になっている。映画前半は、そんなおひとりさまがパートナーを期間中に見つけないと希望の動物に転生させられてしまうホテル。180度価値観が転換する後半は、危ないホテルから脱走したシングルたちが自由を謳歌しつつけっして愛し合ってはいけないルールに縛られる森が舞台になっている。

金髪サラサラ巨乳ちゃんとくれば引く手あまたの現実社会とは真逆に、この映画の登場人物たち、健常者に対する肉体的または精神的なコンプレックスがどうもカップル誕生のための必須条件になっているようなのだ。鼻血ブーッや虐待趣味、あるいは近視といった共通のコンプレックスをお互い見つけ出しては愛を育んでいく奇妙なカップルたち。カップルになるため同じコンプレックスがあるかのようなフリをしていたことがバレたとたん平手打ち、一瞬のうちに愛がさめてしまう様子がメチャクチャ面白く描かれている。

血も涙もない虐待女から森に逃げ出した主人公デヴィッドをコリン・ファレルが好演している。腹回りにでっぷりと肉がついた気の弱そうな中年独身男役は、キャリアの中でも最高の出来映えを見せている。森の中で知り合った女(レイチェル・ワイズ)と禁断の近視相姦?に目覚めてしまうデヴィッド。それを邪魔する独身者リーダー役レア・セドゥのサドッぷりがまたイカすのである。定期的にカップル養成ホテルに夜討ちをかけては、カップルたちの仲を引き裂く頭脳プレイに、独男・独女の皆さんだったらきっと拍手喝采を送りたくなることだろう。

「ズボンを下ろしてベットに仰向けに。股を開いて…」のグリグリプレイ❤が個人的には特に気に入っており、できれば脂ののりきった二大女優ワイズ&セドゥ・バージョンも是非見たかった気がするのだが、映画が違う方向に行ってしまうのを怖れたのか二人のエロいシーンはほぼ0(ゼロ)なのであしからず。森の中では、独身者たちがテクノサウンドをヘッドホーンで聞きながら無音の中個人個人が自分勝手なダンスを踊るシーンも爆笑もんで、この若きギリシャ人監督の笑いのツボ結構日本人に相通じるものがある気がするのだがどうだろう。

「なぜロブスターを選んだの?」
「100歳まで生きて、死ぬ直前まで生殖能力がある生物だから」
ホテル支配人からの質問に、眉を八の字に寄せて人生の不幸を全て背負い込んだような顔をするデヴィッド。念願のロブスター(または映画冒頭射殺される馬)に転生するのか、それとも○○○○して人として生涯の伴侶をえるのか?今や完全に市民権を得た感のある“おひとりさま”で溢れかえった日本でも、いつなんどきこんな奇妙なホテルが誕生したとしても不思議ではないのである。自分だったらとりあえず、サイレントダンスよりもグリグリプレイを選ぶかなぁ(なんつって)。

ロブスター
監督 ヨルゴス・ランティモス(2015年)
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