除斥期間
時効に良く似たものに除斥期間と言う概念があります。一定の時間の経過によって、その権利が消滅すると言うものです。しかし、除斥期間には、中断を認めず援用も権利の放棄もありません。「その期間のうちに裁判所に訴えを起こしてその権利の裁判上の行使を着手しなければならない」のです。いわば、その期間内に訴訟しなければ、以後は権利の主張が出来無くなると言うものです。
除斥期間と消滅時効とは似て非なるもので、除斥期間は形成権の行使出来る期間であり、消滅時効は請求権を行使出来る期間であるとも捉えられる。
☆請求権とは?「 特定の人に対して一定の行為を請求することができる権利を言い、主として債権から生ずる」とされる。
☆形成権とは?「権利者の一方的意思表示によって、一定の法律関係を変動することができる私権のことで、取消権・追認権・解除権・認知権などや変動権、可能権なども含む 」とされる。
除斥期間と思われる規定は、民法の条文として散在している。前述した通り、除斥期間と消滅時効とは一見似たものではあるが、個別の条文を見てどちらか判断していくことが必要となる。
(占有の訴えの提起期間)
民法第201条 占有保持の訴えは、妨害の存する間又はその消滅した後一年以内に提起しなければならない。ただし、工事により占有物に損害を生じた場合において、その工事に着手した時から一年を経過し、又はその工事が完成したときは、これを提起することができない。
2 占有保全の訴えは、妨害の危険の存する間は、提起することができる。この場合において、工事により占有物に損害を生ずるおそれがあるときは、前項ただし書の規定を準用する。
3 占有回収の訴えは、占有を奪われた時から一年以内に提起しなければならない。
この規定は除斥期間を明示したものであるとすぐ分かります。一方、
(取消権の期間の制限)
民法第126条 取消権は、追認をすることができる時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。
時効と言う制度には、中断事由が生じれば時効が中断されるのですが、民法第126条には「取消権」が一定の期間の時効によって消滅すると書かれているが、「取消権」を行使すれば権利そのものが消えてしまうことになるで、この条項での「取消権」は形成権であり、請求権とは認められませ。よって、ここで「時効」と書かれているものは、実は除斥期間であるということになります。
権利執行の原則
時効に良く似た制度であるが、援用や利益の放棄とか中断などと言うことはありません。「信義則公平の原則」から導かれる概念で、何らかの契約関係にある当事者間に相手方の権利侵害などがあっても、権利者側から権利侵害による「解除権の行使」も無く、長い間その儘にしておいたので、相手方が最早「解除権の行使」も為されな無いだろうと思うのが当然なほど時の経過があった後に、突然、「解除権の行使」があったとしても、それは「信義則」に反すると言うものであり、「解除権の行使」は認められ無いとする(最判昭和30年1月3日民集9巻1,782頁参照)。
時効、除斥期間、権利失効の原則
権利失効の原則について言えば、請求権にも馴染ま無いものではないのか?
時効に掛かるのは請求権だけであり、形成権は除斥期間と考える。ただし、除斥期間として認められるものは一定の期間が定められているものに限るのだ。しかし、請求権でも、「時効によって」と言う言葉をを使ってい無いものは、除斥期間として扱うべきである。
(地上権等がある場合等における売主の担保責任)
民法第566条 売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することが出来無いときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることが出来無いときは、損害賠償の請求のみをすることができる。
2 前項の規定は、売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存し無かった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。
3 前二項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から一年以内にしなければならない。
上の条文の3項の「契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から一年以内にしなければならない」と言う文面には「時効によって」という言葉は出て来無い。よって、ここでの契約の解除と損害賠償の請求とに適用される消滅事由は、時効によるものとは 言え無いのだ。
(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)
民法第724条 不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。
上の条文のように請求権であっても有効期間を長短期の時効期間として分けているような場合にあっては、長期の方は除斥期間として考えるべきである。
ところで、形成権として認められるものであっても、その消滅については何の期間も定めて無い場合には、「権利失効の原則」にかかるものだと考えるべきである。
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