様態が急変するのが新型コロナウイルス感染症の特徴だ© JBpress 提供 様態が急変するのが新型コロナウイルス感染症の特徴だ

 新型コロナウイルス感染症の「自宅療養」者が10万人を数えるなか、在宅での死亡者が相次いでいるとの報道(https://mainichi.jp/articles/20210826/ddm/001/040/169000c)が相次いでいます。

 

 首都圏の一都三県では、8月に入ってから中旬まで少なく見ても21人が死亡。月末までさらに増加することが懸念されています。

 電話越しに「ぬー、ぬー」という、喉の奥から絞り出すようなうめき声が聞こえ、20分ほどで取返しのつかないことになったといった生々しい現実、言葉を失うしかありません。

 新型コロナウイルス感染症の容態急変が10分単位で患者の生命に関わる事態になるのは、例えば2020年12月、秘書の運転する一般車両で医療施設に移動していた羽田雄一郎参議院議員を襲った容態急変がよく物語っています。

 それまで普通に会話していたところ、「俺、肺炎かな?」の一言ののち、意識不明となり、ほどなく心肺停止の状態となり、直ちに呼ばれた救急車で搬送された東京大学医学部付属病院で死亡が確認されたケースです。

 この「自宅療養」を「必要悪」と記すケースを目にしました。とんでもないことだと言わねばなりません。

「必要悪」とは何か?

「悪」ではあるが社会に「必要」だとされるもの、例えばタバコやアルコール、ギャンブルなどが挙げられます。では例えば「ヤクザ」は「必要悪」なのでしょうか?

 本連載では取り上げるタイミングがありませんが、8月25日、福岡地裁で広域暴力団「工藤会」の「総裁」に死刑の第1審判決がありました。

 私は15年ほど前、宮崎学さんなどのご依頼で「代用監獄」などの問題について東京大学から国会に意見書を出したことがあります。

 ちなみに当時「死刑廃止議連」の事務局長だった衆議院議員の保坂展人さんは、現在は世田谷区長に転じられ、今現在、コロナ対策をご一緒しています。

 15年前、暴力団には「必要悪」の面があった。それは、刑務所から出てきた「前科のある人」を受け入れる社会装置が存在しなかったから。

 いま福岡県警が「工藤会壊滅」に向けて、一番力を入れているのは、組員の離脱後「社会復帰」端的には雇用、仕事の世話と報道されています。

 かつては「民事不介入」で暴力団任せだった警察も大きく変わったものだと思います。こうなると暴力団の「必要性」はほぼ存在しなくなり、ヤクザは「社会に不要な悪」でしかなくなってしまう。

「工藤会」は一般市民向け、接待を伴う夜の店舗に「手榴弾」を投擲するような「テロ組織」です。

 同会「総裁」への死刑判決は、「実行行為が伴わず」「状況証拠」に基づく死刑判決として「麻原彰晃」ことオウム真理教「教祖」松本智津夫への判決と並行するもので、そのような組織の存在を日本社会が認めないという、強い司直の意思を反映するものと考えられます。

 そのような意味で「在宅療養」は「存在すべきものではない」。

 およそ「必要悪」ではなく「ただただ不要」な「入院ウエイティング・リスト」の待機状態であることを、いまのタイミングで厳密に議論しておく必要があります。

「在宅療養」は「本来あってはならない、避けるべき状態」でしかありません。それを「必要」悪だなどと言うのは、臨床現場という「組織」大事の誤った近視眼に基づく、初歩的な誤謬に過ぎません。

「指定感染症」患者を無防備施設に放置

 新型コロナウイルス感染症は令和2(2020)年1月28日、厚生労働省健康局長名で「指定感染症」(https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000589747.pdf)となっている。

 いわば「法定伝染病」で、罹患者は隔離せねばならないのが「大原則」です。

 いま、適切な対策が講じられなかったために、罹患者の数が従来の100倍程度、爆発的に増大し、病院がパンクすることが見えているからといって「指定感染症」が指定でなくなるわけもない。

 2次感染を予防する適切な設備を持たない、一般家庭に留置して、そこで加療することは、それ自体、同居家族などへの2次感染を作り出す一大要因になりかねません。

「可及的速やかに解消すべき状態」と、過不足なく認識する冷静な観点が必要です。

 必要悪なんかであるわけがない。もしそんな世迷いごとを言う例があるなら、病院というシステムが個別の罹患者の命より大事だと錯覚している、関連で生活する人間の誤った遠近感を反映しているだけで、単なる「間違い」でしかない。

 加えて、この病気の特徴である「容態急変」20分で死亡する例が多数報告されている現実を直視する必要があります。

 すでに幾度も解説していますが、新型コロナウイルスは、たった一つのウイルスが、一個の細胞に侵入しても、その中にある「リボゾーム」に取り付いて、莫大な数のウイルスを複製してしまいます。

コロナウイルスは、私たちの細胞内に侵入すると、まず自分自身を複製する「ポリメラーゼ」を作り出し始める

図:@伊東乾+イジンヨン© JBpress 提供 図:@伊東乾+イジンヨン

 新型コロナウイルスは、感染すると、最初に自分の遺伝子であるmRNAを複製する「RNAポリメラーゼ」複製酵素を作り出す、という、巧妙というか悪質な特徴があります。

 このため、1個の細胞内で無数のコロナウイルスRNAが作り出され、それらが次々に細胞外に出て周囲の別の細胞に感染、鼠算的に肺全体の細胞を冒してしまうことで「容態急変、20分で心肺停止」という恐るべき症状を生み出していると考えられます。

たった1個のコロナウイルスが、1つの細胞に感染しただけで、無数のウイルスが複製される

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 一般の肺炎では、肺炎球菌などが、肺の一部(大半は片方の肺に局在)で炎症を起こし、残りの半分は通常に稼働した状態で、十分に生命に関わる大病になります。

一般の肺炎と新型コロナウイルス肺炎の違い

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 ところが「新型コロナウイルス肺炎」は、ごく短期間、20分ほどで爆発的にウイルスが増殖し、両肺の細胞をことごとく冒してしまい、患者の呼吸能力を奪ってしまう。

「喉の奥から絞り出すような「ぬー、ぬー」といううめき声」が容態急変した「在宅患者」から聞かれたというのは、この病気の恐るべき現実を物語ってあまりあります。

 爆発的感染拡大の状況にあって、酸素マスクも装着されなければ、ウイルスの侵入を予防する薬剤も投与されず、抗ウイルス薬も与えられなければ、ワクチン未接種、あるいは抗体が十分体内に準備されていない患者が、直ちに声明に関わる事態に追い込まれてしまう。

たった20分で容態が急変、生命に関わる病状となる背景に考えられるメカニズム

図:@伊東乾+イジンヨン© JBpress 提供 図:@伊東乾+イジンヨン

 先週、お亡くなりになられた俳優の千葉真一さんは、ワクチンを接種せず「自宅療養」で十分に容態が悪くなってから入院、病院での加療11日という病状であったと報じられます。

 いまや、新型コロナウイルス感染症は、早期に適切な治療を施せば、容態の悪化は防止できる病気になっています。

 ところが、数が増えすぎてしまった患者を病院が収容できないという理由によって、このような「法定伝染病患者の自宅放置」が、失われずにも済んだはずの命を救うことができない状況に陥っている。

 拙劣な疾病対策と指摘せねばなりません。

「在宅療養」は「必要」悪などでは、絶対にあり得ない。

 早期に解消すべき、適切なコロナ対策を欠いたことで一時的に発生している「完全に誤った状態」であると看破する、正気を保つ必要があるでしょう。