前回【失業とインフレーションの解析①】に続いて「コストプッシュ・インフレーション」について解説する。
現在のインフレ状態が、如何なる原因で起こったものかを知るのは極めて困難である。其処で、インフレが超過需要に依るものか独占力に依って生じたものなのか知る手段が模索された。其の手段として、
一、失業率を知らべてインレーションを判別する方法
一、賃金と物価の孰れが先に上昇したかで判別する方法
の二つが試みられて居る。
失業業率を知って判別する方法では、失業率が比較的低い場合には超過需要に依るインフレーンとし、大きい場合はコストプッシュ・インフレーションと判別するものである。以前、此の教科書では、「失業率を基準として使うことが出来無い」と論じて居る。経済的に急激な変化が起こると同時に需要が超過して居るならば、インフレと相対的に高い失業率が同時に発生することが多いが、其の失業率の量を判別することは困難である。
「賃金と物価の何方が先に上昇したか」という判別法の場合、賃金プッシュは其れが発生するときの新しい原因と認めることを否定出来無いとする。「総需要の超過が賃金の上昇以前に物価を上昇させる」と予測することもあるが、此のことは更に物価上昇の原因がもっぱら価格を引き揚げて居る企業に在るならば、譬え需要と価格の現状が物価の上昇に結び付く原因だと考えられ無い場合にもインフレは起こって終うのである。
賃金の上昇が物価の上昇以前に在ったとしても、此れ即ちコストプッシュ・インフレーションと判別出来るものでは無い。経済が完全雇用の水準に在り、此の時総需要の増加が起きた場合を考えて見る(答えを先に言えば、此れは普通のインフレーションの場合の条件をきっちり揃えて居る)。企業は直ちに価格を引き上げ様とはし無い。最初生産の拡張を試みるかもしれない。然し、完全雇用下では人手は手一杯で在り、生産の拡張は不可能である。在る企業が労働者の数を増した場合には他の企業が其の分労働力を失うことに成る。此れでは社会全体として生産力を拡張で来たことには成ら無い。より多くの生産量を得ようとすれば、限られた労働力の質を上げる為、企業は労働契約を改変して賃金の上昇で労働者の労働意欲を高め様とするかもしれない。賃金の上昇は当然価格の上昇を齎させ、逆に価格の上昇を前提に企業は賃金の上昇を図ることも当然ある。こうして起こったインフレは完全雇用下での需要の上昇が原因で起きたことに違いは無く、企業に依って為された価格の上昇の原因で在っても、コストプッシュ・インフレーションと判別すべきものでは無い。
コストプッシュ・インフレーションを検証出来ても、耐えられ無程の失業を発生させずに其れを抑制出来るかは明らかで無い⇒此のインフレは経済を統御する当局にとって大きなジレンマを齎す。インフレと非自発的失業の同時的発生⇒失業は金融・財政の緩和政策で解消させるべきだが、インフレの解消は逆に其れ等の引締めが要求される。引締め策は失業の増加を助長し、緩和策は失業は減少するが、インフレはより最悪と成る。当局の実務はインフレの助長する可能性を持つのである。失業の程度が大きければ大きい程、組合が賃金を引上げることは困難であり、企業も生産能力の過剰が大きければ大きい程価格を引き上げることは困難である。失業者からの競争と企業団の競争は、失業と生産能力の過剰が増加するにつれて増大する可能性が在る⇒貨幣当局は失業と生産能力の過剰を十分大きくすることに依って賃金と価格の引上げの過大な要求を阻止することが出来るであろう⇒インフレーションは超過需要を除去することでは無く、総需要を完全雇用を維持するに足る以下に抑えることに依って阻止される☜ 何とも御些末な結末ではある。
其処で、或る人達は👆とは別の考え方を模索する。彼等は物価の遅い上昇率を齎すクリーピング・インフレーションを極めて大きな悪で無く、少なくとも失業と同じ様な悪では無いとして、其のインフレは持続的であるから予測出来るし、不公平な再配分効果も小さいで在ろうとして容認する様な立場に立つ。
然し、此の立場には一つ難点がある。もしこのインフレ減少が賃金上昇の過大な要求に起因して起ったものならば、加えて所得も賃金受領者に再配分出来無いものであるならば、此のインフレはギャロッピング・インフレーションに変貌する可能性が在るのである。
組合が賃上げを要求し賃上げが実現すると、暫く間を置くと企業は価格を上げることに成る。すると、組合は価格上昇分だけ賃上げした分の利得を失うことに成る。そして、組合は最初よりも賃金の上げ幅を、「最初の賃上げ幅+価格の上昇分+今後に見込まれる価格の上げ幅」として賃上げ要求をするが、結果、企業は予測通り?の上げ幅で価格を上げる。此のことは鼬ごっこで永遠?に続くかの様相を示す。更に一般人も以上のことを予測するので、利子率と物価は明日のインフレを予測して今日上昇することに成る。賃金上昇と物価上昇の追い駆けっこがクリーピング・インフレーションをギャロッピング・インフレーションへと変質する可能性を持つ。困ったものである。
つづく
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