意思による楽観のための読書日記

錨を上げよ(上) 百田尚樹 **

「永遠のゼロ」を書いた人と同じ人が書いた作品とは思えない。

主人公は作田又三、昭和30年、大阪の淀川べりの下町に生まれた。両親は当時としては普通の貧乏人、ざっくばらんな大阪のおばちゃんの代表選手のような祖母が同居、祖母はいつも又三を応援してくれたが、両親は出来のいい二人の弟、竜之助と剣之助の肩を持った。又三は小さい時から喧嘩っぱやく、直感的に行動した。気に入らなければ喧嘩をふっかけ、もっと強い奴には殴られたが、くよくよするようなことはなかった。小学中学を通して出来の悪い不良だったので、進学できる高校は限定されていた。当時は公立高校の中で商業高校は出来が相当悪くても入学できるところがあった、それが南方商業だった。

高校でも小さい時からの行動パターンは変わらず、多くの友人はつくらず、気の合う少数の仲間、しかし決していつも一緒にいるというような仲間ではなくクラスでも学校でも孤立していた。制服廃止運動などを思いつきでひとり突っ走る、ようなこともあったが、2年も留年した。小学生の頃から女の子には弱かった。好きになると思いつめてしまい、周りが何も見えなくなることを繰り返した。高校でも留年して、高校が普通校に変わり、優秀な生徒が入学してきた頃、生徒会はそうした優秀な生徒に牛耳られるようになった。そして女子の生徒会長に恋をした。しかし長続きはせず振られたのだが、又三はなぜ自分が振られるのか、相手にも未練があった。しかし相手からは手ひどく嫌われた。

こうして散々な高校生活にもピリオッド、学校がなんとかアレンジしてくれた地方スーパーに就職したが、職場で孤立、すぐに辞めることになった。両親は怒ったが、又三は平気だった。アルバイトしてその日ぐらしをする中で、大学生が楽に家庭教師をして月謝をいただいていることを知る。楽しいクラブ活動、そしてその先には地方のスーパーのようなチンケな会社ではない理想的な就職も見えているように思えた。中学高校とロクに勉強もしなかった男が大学に入りたいと思いついたことに両親は呆れ、数少ない友人たちは冗談だろう、と笑った。しかし又三は本気になり半年間必死で勉強、東大に入るぞと宣言して、さすがにそうはいかなかったが、親友が言うには「奇跡的」にも同志社大学の法学部に合格した。

又三が大学に入ったからといって、今までの気ままでカっとし易い性格が変わるわけでもなく、インテリになれるわけでもなかった。当時の大学は学生紛争の真っ只中から少し脱出しかかっていた。しかし、そうした運動の余韻はまだ残り、左翼の人間が集まるサークルに属した。そこでも素敵な先輩女性に恋をしたが、これも手痛いしっぺ返しを受けて、下宿していたアパートを仲間に襲撃されるという目にあった。又三は何回も女性には恋をしては振られ、まったく懲りない奴だった。友人たちはそうした又三を「学習しないタコだ」と馬鹿にしたが、又三は親友たちのアドバイスを聞くような素直な男ではなかった。大学2年になり、突然大学を辞めて東京に向かう深夜バスに乗った。

上巻はここまで。まったく共感できない男、又三。上巻だけで591P、下巻も読むか、と悩む
。本屋で下巻も買うかといえば買わないと思うが、既に図書館で借りてきてしまっている。唯一、面白いのは僕と同時代であり、僕も生まれ育った大阪と京都を舞台にしていること。時代の雰囲気はよくわかるし、世相も自分を囲んでいたものと共通するという点。又三は東京でもロクでもないことをするのだろうなと思うが、我慢して読んでみようと思う。



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