意思による楽観のための読書日記

田舎暮らしの馴染み方 扇田孝之 ****

都会ぐらしから田舎に出て、素朴な地元の人達と触れ合って本当の人間らしい暮らしをしよう、という本はたくさん出ているが、この本は違う。筆者は30年前に信州は大町の北にある山村、簗場に移住、宿泊施設を経営しながら、田舎暮らしの難しさや素晴らしさを同時に発信し続けているという。

田舎の暮らし、そして長く日本の農業従事者だけではなく江戸時代までの人々が過ごしてきた暮らしを「時速4キロの暮らし」と表現し、自動車や列車によってもたらされた近代文明的な暮らしを「時速50キロの暮らし」と表現、いまや日本ではどんな田舎に行ってもこの「時速50キロの暮らし」からは逃れられない状態になっていると。日本では戦後に暮らしがよくなり、経済的な余裕が出てくるに従って、田舎暮らしに戻りたいという都市生活者による欲求が増大、学生村や文化人村などという名前で、特に信州には多くのリゾート地や別荘地、スキー場が開発された。そして1970-90年ころがスキーのピーク、信州の田舎はスキー客であふれた。それまでは家を改築して、民宿で現金収入を得ていた農家は、スキー客によるケタ違いの現金収入を得て、車を買い、海外旅行をした。教習所は30-50歳代の人々で溢れかえったという。

1998年の長野五輪は、影がさしていたスキー客を取り戻すきっかけになったのであろうか。フランスのグルノーブルやアルベールビルでは、五輪以降も、1-2泊のスキー客ではなく、5泊以上の連泊を主なターゲットとして、町の魅力をどのように訴えるか、スキーをしない人にも来てもらえるための街づくりをしているという。また、フランスに来るスキー客は欧州中の8億人がターゲット、上中下の客層がはっきり分かれるという。そのため、宿泊施設の階層分化もはっきりするため、差別化がしやすいと。日本はそうした階級が分かれていないので、1万円以下の宿泊施設に泊まる人は、ある時には1泊3-5万円の高級旅館にも泊まる。そのため、顧客ターゲットを絞ったマーケティング戦略は難しいという。

田舎の人は素朴だ、というが、それは一面的な見方だと筆者は言う。保守的な暮らしをしていると、新しい人達との出会いは少なく、相手に知ってもらおうとする努力や、相手のことを知ろうという姿勢も失われ勝ちになり、都会から来た移住者にはそうした田舎の人達が、ある時には意固地に映ったり、見方によれば素朴に見えたりすると。停滞した社会に堕眠している人達も多いというのである。

筆者から田舎に移住しようとする人たちへのアドバイスが有る。
1. 田舎の暮らしは決して安くはない。ある程度の文化的生活をするには電気ガス水道Webなどの現金は必要であり、野菜の手作りなどをしても自給自足は大変だ。
2. 子供がいる場合には都会よりも交通費や下宿などにより余計に費用がかかる。
3. 収入源は都会に残したまままずは田舎で過ごす時間を増やすことから始めた方がいい。宿泊業は稼働率が低く、おすすめしない。
4. 田舎の暮らしでは、現地の人に受け入れてもらうことは思う以上に難しい。移住者同士のネットワークづくりが有効である。

田舎の暮らしが長続きした理由を筆者は自分の場合は、人とのコミュニケーションが継続的にあったことだと言っている。宿泊業を営んでいたから、そして細くはあっても地元の仕事を通じて現地の人達とも交流があったことだと。夫婦や家族だけで孤立しての暮らしはありえない、至極アタリマエのことだと思えるが、移住したいと想った人は見逃しがちである。田舎暮らしというのは素朴なだけではありえない。


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