ばかやろう
小いさな窓からみえる彼にはそれしか言えなかった。
彼に初めて会ったのは数十年前、大学の友人のボロアパートで麻雀をしていた時
「ウルセ―」って怒鳴りこんできたのがあいつ
隣に住んでいた小柄でよくしゃべる負けん気の強い男
青森を飛び出して一人暮らしの理容師が彼だった。
そのうち毎度の麻雀仲間に加わり、冬は毎週のようにスキーに行ったり
夏は海釣りに行ったりしたよな。
初めての投げ釣りでフッコ(スズキ)や舌ヒラメが釣れて大騒ぎしたよな
彼が何処からか買ってきたぼろぼろのフロンテクーペを全塗装してくれ・
というので スプレー缶15本でまっ黄色に塗ってやったっけ。
リヤエンジンでヒーターの効きの悪いその小さな車でスキーに行き
駐車場で寒さに震えて朝を待った事もほんのちょっと前のこと。
誰よりも長い付き合い。 社会人になってからも 月に一回は必ず会っていたからね
前の週に頭を刈ってもらったときには変わりなく冗談を飛ばしていたのに
なぜ?
あれから一週間、ずっと考えてるよ。
「早く定年にならんかな」と言うと、サラリーマンはいいよななどと言ってた彼、
「ヨイヨイになったらおしまいだ」なんて言ってたこともあったけど
早すぎるだろ
世の中には せめてあと一日、一時間でもいいから長く生きたい
という人がたくさんいるのに、 自分から幕を引くなんて
ばかやろうが
合掌 ・ いままで ありがとう
一番長かった友人へ