山本夏彦シリーズは、全六回の予定で投稿を始めたが、残りのハードカバーの単行本三冊をまとめて、今回の四回目で取りあえず終わりにすることにした。理由は特にないが、強いて挙げれば、気分転換ということになろうか。出版年の古い順から、右から左へ、任意のコラムを選んで筆を運ぶ。
右の『ダメの人』は、月刊雑誌『諸君!』(文藝春秋)の巻末に連載された「笑わぬでもなし」からの抜粋集である。既に雑誌で読んだコラムの選集を、わざわざ単行本で読む必要はなかろう、と思う向きもあろうが、そこはそれ、出れば欲しくなるファンのファンたる所以である。
まずは<鑑札>について。夏彦は、戦前に淡谷のり子がもらった「遊芸稼人」という鑑札が、芸娼妓の鑑札と同じものかどうか、さらに、芸娼妓の場合、「二枚鑑札」がどういう意味を持つのか知りたくて百科事典を引いたが、「鑑札」という項目が存在しなかった、と記している。項目がないことに拘らず、編集方針の偏りには苦情を呈している。夏彦のいう<鑑札>が百科事典や国語辞典から消えたのは、戦後の、いわゆる進歩的文化人が編集に携わった結果だろう。差別用語はあいならん、ということ。
中の『やぶから棒』は、『週刊新潮』(新潮社)に連載された「夏彦の写真コラム」からの選集である。毒舌でなる奇人、夏彦の面目躍如たるコラムから、奇人にふさわしくないコラムを一つ、<「賞」はくせもの>。
自分がもらい損ねた賞について、「けれども私に与えないで、よくもまあなん十人も与える人があるなあと、私はその賞をバカにするにいたったが、それなら改めてさしあげたいと言われたら断るかというと、それが分からないのである。断ればかどがたつから貰うかもしれないし貰えば嬉しいかもしれない」と、書いている。夏彦も人の子。
左の『一寸さきはヤミがいい』(新潮社)は、「夏彦の写真コラム」からの最後の選集となった。最後とは、執筆者が逝ったからである。よいも悪いもない。もともとこの世は「一寸さきはヤミ」だから、人はだれでも皆、無意識に予定調和を期待して生きざるをえないのである。
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