Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

上戸のデーモンジ 前編

2018-01-14 23:12:06 | 民俗学

 小正月である。先日から「小正月の消滅」について触れているが、とはいえ今年は14日が日曜日ということもあって、今日行事が行われるところも多いだろう。

 午前5時を目処に家を出た。午前3時起きである。目指すは会社の同僚の住む集落、伊那市上戸(あがっと)である。「デエモンジ」でも触れた上戸のデーモンジが、今朝建てられた。午前5時前に集落に入ると、家の入口で火を焚く姿が見えた。デーモンジの朝、それぞれの家で戸口でヌカとコショウなどを燃やすのである。こうした習俗は、県内ではこと八日に行われる。意図は同様で、魔除けなのである。コショウ入れて燃やすのは、異臭をさせるため。とは言うものの、明るくなってから確認しみると、ヌカのみを燃やしている家もあれば、藁だけを燃やしている家もある。コショウを燃やしている家は少なかった。この魔除けの習わしも、すべての家で実施しているわけではないが、まだまだ多いことも事実。そしてデーモンジを建てる前に燃やす家もあれば、帰ってから燃やす家もある。

 午前4時半ころから子どもたちが会所の前で太鼓を打って、デーモンジが始まることを集落内に知らせる。合図に合わせたように、集落内からキンチャクを手にして村びとが集まり始める。1戸当り3個ずつキンチャクを色紙を使って作ってくる。キンチャクの中身は籾殻である。午前5時になると実行部員による挨拶でデーモンジ建てが始まる。会所裏にある竿置き場からデーモンジ用の柱を運び出し、会所前の道に横たえられると、飾り付けの始まりである。頂に花を付けるが、花の周囲を藁で囲って、最後にビニール袋を被せる。花は倒した際に各戸に配るため、濡れてしまわないようにという意図でビニールが被せられるのだろう。次いで松御幣、順に神酒樽、袋箱、松、注連縄と続く。神酒樽にはかつてはお酒を入れたのだろうが、今は形だけ少し入れる程度。樽の下に付くキンチャクには、雨で濡れないようにと笠が付く。というより笠は板状になっていて、その傘の下にキンチャクが所狭しと付けられる形。形状からすると傘鉾といっても良いかもしれない。三方に張られる綱はミチキリと言うらしい。いわゆる道切りの意図か。すべての飾りが付けられると、柱建てとなる。サスマタを使って頭を上げていくと、すぐに柱は建て終わる。各家一人は必ず出るようになっているのだろう。建て終わると会所で直会となるが、飾りつをして立て終わるまで1時間はかからない。

 現状では毎年用意されるのはキンチャクと花、御幣、竹くらいだろうか、あとは毎年同じものを利用しているようだ。建てられると20日まで置かれ、早朝に倒される。上戸では、デーモンジが倒された後にどんど焼きが行われるという。正月の飾りもデーモンジが終わるまでそのままにされるようになったとも。今年は実施日について土日にしたらどうかという意見もあったというが、例年通り14日早朝に建て、20日早朝に倒すで決まったという。たまたま今年は両日とも土日にあたる。建てられる場所は会所横にある道祖神脇で、専用の幟竿建てがある。上戸の道祖神は双体像で「平成の道祖神」と刻まれているように平成になって建てられたもの。その横に奇石がいくつか並んでおり、こちらが双体像の建てられるまでの道祖神ということになる。『長野県上伊那誌民俗篇』(昭和55年)の道祖神一覧には、奇石3個と記されている。

太鼓でデーモンジ建てが知らされると、持ち寄ったキンチャクは会所前の台の上に並べられる。

 

頂きの花

 

神酒樽を付ける

 

柱に付けられたキンチャクと灯篭

 

デーモンジ建て

 

上げられたデーモンジ

 

燃やされた籾殻とコショウ、豆殻

 

続く


コメント    この記事についてブログを書く
« 廃村へ分け入る | トップ | 鞍掛のデーモンジ »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

民俗学」カテゴリの最新記事