からくの一人遊び

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【今こそ聞きたい】中島みゆき/世情/Covered by BEBE

2020-04-18 | 小説
【今こそ聞きたい】中島みゆき/世情/Covered by BEBE



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メレンゲ - ミュージックシーン



ネタがないので・・・・(^^;

再掲

文章の頭が揃ってないですが、そこはご愛敬、としてください。(;´∀`)



 
 八時半の女

 思うに我が家の黒芝コロくんは、基本的に人間嫌いなのだ。
 その根拠は、人間とみればのべつ幕無し吠えるし、ケージに近づいてきた無垢な三歳児を、激しく吠えて泣かしたりするからだ。勿論、飼い主である私には少しは気を許してくれているが、それでも機嫌が悪い時に近づくと吠える。
 これを人間嫌いと言わずして何と言おう。
 そんな気の荒いコロであるが、実はまったく人間を寄せ付けない訳ではない。ごくたまにであるが、ある特定の人間をコロは引き寄せ、受け入れる。
 心に大きな悩みを抱えているものであったり、孤独の淵に立っていたり、ともかくそんな人間たちをコロは引き寄せる。
 彼らはみな心の安寧を求めてコロに近寄り、語るだけ語ると満足してまた自分の帰る場所に戻ってゆく。
 私は彼らのことを”コロのマブダチ”と呼んでいる。
今回はそんな”コロのマブダチ”の一人である日菜子ちゃんのちょっとした物語について語ろうと思う。

 日菜子ちゃんに初めて会ったのはいつ頃であろうか?
 恐らく三年ほど前だったと思う。
 その日私と妻は親戚のお通夜に呼ばれ、疲れて玄関のドアを開けようとしていたときだった。
 コロがなにやら激しく吠えているのが聞こえた。
 ああ、そういえばコロの夕食がまだだったなと思い出し、私は喪服のままコロがいる庭の方に回った。
 コロ、悪いな、今用意するからなといいながらケージに近づくと、しゃがんでコロの方をみている人影があった。
「誰?」
 私がそういうと、人影はこちらを向き、私に笑いかけてきた。
「私が誰だかわかりますか?」
 そう問いかけられて私はあわてた。なにしろ人影はまだ二十歳前後の若い娘だったからだ。
 私の繋がりにそんな若い娘はいない。せいぜい姪か会社の事務の女の子だ。
 私が考えあぐねていると、彼女はまたニコっと笑い、立ちあがった。
「嘘。分かるはずないですよね、だって初めて会ったんだもの」
「・・・初めて」
「そう、初めて。・・・・でも母はあなたをよく知っているわ」
「お母さん?」
「そう、3丁目の皆原」
そう言われて私はハタと思い出した。
 たしか三十年ほど前に、中学生のときの同級生が3丁目にお嫁に来て、住んでいるということを母から聞いたことがある。
 3丁目は隣の地区であるが、出不精である私はなんと三十年もの間、その事実を確かめることはおろか、まったく記憶の外に置いてしまっていた。
「また来ていいですか?」
「えっ」
「私、日菜子っていいます」
「・・・・・」
「ずいぶん前から気になっていたの。学校の行き帰りにこのうちの前を通ると吠えられて、・・・でも一度そのワンちゃんに会ってみたいなって」
「・・・・・」
「また来ます。今日は吠えられちゃったけど、次からは吠えられないようにするわ」
 彼女はそう言い残すと、庭沿いの道に出てじゃあと3丁目の方向へ駆けて行ってしまった。

 それから彼女は定期的にコロのもとに現れるようになった。
 毎週水曜日、夕食後私たち夫婦がテレビを観ながらゆったりしていると、決まって八時半にコロがけたたましく吠える。
 私が庭に下りてゆくと、彼女は「また吠えられちゃった」と舌をだす。
 それを毎週懲りもせず彼女は繰り返すのだ。
 私は彼女のことを八時半の女と呼んだ。そしていつのまにか毎週の彼女の訪問を心待ちにするようになっていた。

 ある時、恐らく十回目の訪問のときであろうか。いつものように私は彼女の訪問を待っていた。
 でも八時半になってもコロは吠えない。九時近くになっても同じだ。
 私は待ちきれなくなり、庭に下りていった。
 ケージに近寄ると、側でしゃがんでいる日菜子ちゃんがいた。
 私は彼女のもとに行こうとしたが、途中で躊躇して立ち止まった。
 彼女の目に光るものを見たからだ。
 コロは吠えもせず、彼女をただじっとケージの中から彼女を見守っている。
「あ、ジンさん」
 日菜子ちゃんは私に気が付くと涙を隠して下を向いた。
「吠えなかったね」
「うん、やっと私のこと認めてくれたみたい」
「ねえ、顔をコロの方に近づけてごらん」
 彼女はゆっくりと顔をケージの外から近づけるとコロは鼻先を伸ばし、まるで涙の跡を消すように丁寧に彼女の顔を舐めだした。
「くすぐったい」
「でも優しいだろ」
「うん、優しい」
「こいつは気性は荒いけどほんとは優しい奴なんだ」
「うん、わかる」
 日菜子ちゃんは一通り顔を舐めてもらうと、いつもの笑顔を私に向けた。
 そして、気を取り直したのか自分の両手で顔を軽く叩き、立ちあがった。
「さてと、ジンさん。私帰るね」
「ああ、おやすみ。またな」
「おやすみなさい」
 彼女は庭から道に出て、二、三歩歩み始めたところで振り返った。
 振り返って、こう言った。
「母は中学時代ずっとジンさんのことが好きだったんだって」
 突然の代理告白に私は狼狽した。狼狽して咳が出た。
「じゃあ、また来ます」
 日菜子ちゃんは私の様子を面白そうに窺うとまたくるりと回り、三丁目の方向に駆けて行った。

 その日を境に日菜子ちゃんはコロのもとに現れなくなった。
 それでもいつか来るだろうと私は、最初の二か月、水曜日の八時半を期待していたのだが、彼女は決して現れることはなかった。
 私は落胆した。落胆して彼女のことは”ただのきまぐれだったんだろう”と思うことにした。
 そしていつしか彼女のことを忘れかけたころ妻が風の噂を手に入れてきた。
「皆原さんとこ離婚したんだって。コロのところに来ていた日菜子ちゃんっていったっけ、その子と奥さん出て行ったみたい」
 妻の言葉に私は驚いた。
 驚いて、あああの涙の訳はそれだったのかと合点した。
 私は庭に下り、コロのもとに行ってケージを開けた。
 コロは散歩だと勘違いして嬉しそうに私に近づいて来た。
 お前はあの日、なにもかもわかっていたんだな。
 私はコロの喉元を撫で、それから彼の身体を優しく抱きしめた。
 
 
  月に吠える
 
 我が家の柴犬コロくんは狂暴である。
 なにが狂暴だというと、吠えるのである。
 自分のテリトリー内は勿論のこと、動くものを確認すると道行く人にさえ吠える。
 私はそのたびに彼に「ダメ!!」と叱るのであるが、一時的に収まるだけで私がその場を離れるとまた行き交う人たちに吠える。機嫌が悪い時なんかは飼い主である私にさえ吠える時がある。
 まったくどうしようもない奴である。
 多分小さなころ、私たちの彼に対する”教育”が至らなかったことが原因であると思われるが、後の祭りで、今では立派な我がまま犬に育ってしまった。
 悩みの種の一つである。

 そんなコロくんであるが、何故か家族の中で次男にだけは一度も吠えたことがない。
一般的に(?)いくら飼い主であろうと、犬は食事中に近づくと敵意をむき出しにして吠えるものと認識しているが、次男にだけは近づいても吠えたことはない。
 それどころか、食事を放り出して尻尾をふりふり次男の来訪を歓迎するのである。
 私たちはその様子を眺めながら「何故なんだろう?」と首を傾げているのであるが、理由は今だに分からない。
 ただ、一つだけいえることは次男はコロのことを理解しているんだろうなあ、ということだけだ。
 彼はコロのなにをどのように理解しているのか謎ではあるが、きっと感覚的なものであろう。

 そういえば、次男がまだ中学生のころこんなことがあった。
 夜中、夜深い時間帯にコロくんなにを思ったのか、突然遠吠えを始めた。
 私はもう寝床に入っていたし、まあ遠吠えなんかすぐ止むだろうとたかをくくっていたのだが、なかなか止まない。
 五分、十分と我慢していたのだがやはり止まないため、近所迷惑になることを恐れてコロの様子を見にいった。
 暗闇の中、廊下を伝い、サッシを開けて、「コロ!」と呼びかけようとしたそのとき、私は一瞬躊躇した。
 コロの傍に次男が立っているのを認めたからだ。
 彼はコロが遠吠えをしている方向、夜空の何かを見ていた。
 何故次男が?なにやってるんだ?
 私がそう思って見ている姿に気付いたのだろう、次男はゆっくり口に人差し指をあて、それから私に庭に下りてくるよう指示した。
 私は彼の指示通り、庭に下り、彼らに近づく。
 私が近寄り、次男に言葉をかけようとすると彼はそれを制し、夜空に浮かぶ月を指さした。
「大丈夫、もうすぐコロも大人しくなるよ」
 彼は低くとおる声で囁いた。
「コロはあれに向かって吠えてるのか?」
「そう、もうすぐ雲に隠れる。そうすれば鳴きやむさ」
「何故、月なんかに・・・」
「分かんない、・・・でも今日は満月だからな」
「満月?」
「満月は故郷を思い出させる。そう思わない?」
 そう言われて私はコロを見た。
 コロは満月に向かって愁いを帯びた顔を上げ、まるで誰かに訴えかけるようにウォーン、ウォーンと鳴いている。
 その姿に”伝えたくても伝えられない思い”を感じた。
「でも、満月なんて今日だけじゃないだろ?なんで今日に限って・・・」
「犬だって時にはセンチになるときがあるさ。特に今日の満月はきれいなまんまるお月さんだしね」
「・・・そうか」
「そうさ」
 それから私たちはしばらくの間、夜空に浮かぶ満月を眺めていた。
 そしてその満月が次第に雲に隠れていき、完全に姿を消すころにはコロの遠吠えも止んでいた。
 コロはこれでもう十分だというばかりにそそくさと寝床に戻り、体を丸めて目を閉じてしまった。
「さてと・・」
 コロのその様子を見届け、私たちも解散することにした。
「もう、コロも気が済んだってさ」
 次男は片目を瞑り、私に笑いかけた。
 
 コロの”遠吠え”はその後続くことなくその時一回のみであった。これで、のべつ幕無し吠えることさえなくなれば良いのだが一向に直る気配はない。
 先日次男が帰省したときにコロと仲良くなる”こつ”を伝授願おうと聞いてみたのだが、「俺にも分からない」とのこと。
 聞いた私がバカだった。

 これを書いている今、例によってコロは道行く人に吠えている。
 そのたびに私はコロのもとに駆け寄り、”ダメ!”を連発している。
 ”ダメ”を出されたコロはしゅんとした面持ちでいったんは大人しくなる。
 しかしもう大丈夫と思って私が離れるとまた吠えだす。
 さきほどからその繰り返しだ。
 いい加減疲れた私はコロの瞳をじっとみつめ、彼の心に訴えかける。
 なあ、コロくん。いい加減大人になりましょ・・
 お前ももう十歳なんだからさあ。




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4 コメント

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Unknown (ケセランパサラン)
2020-04-19 00:16:22
「世情」を聴くと、なぜだか心がつまって、なぜだか涙ぐんでしまう。
 そんな時代を、少し、覚えてるせいかな。
返信する
Re.ケセランパサランさま (からく)
2020-04-19 00:55:58
コメントありがとうございます。

私は歌われた時代の空気、残り香を辛うじて感じることのできる世代で、兄がこの時代の風を真っ向から受けていた世代で・・・・。
だからか、この曲を聴くとありありとその場面が思い浮かびます。

そういえば、カルメンマキ&OZの「空へ」という曲、多分同じころ歌われたと思うのですが、曲のエッセンスがどこか似ているように感じるのですよねぇ。(*´ω`*)
返信する
世情 (宮ちゃん)
2020-04-19 13:58:34
この曲、前から知ってるんですけどーーー
「金八先生」で聴いたのかなあ?
ヒロくんと直江喜一が逮捕されて連れて行かれる
あのシーンで、この曲、流れていたんでしたっけ?
とにかく、今聴くと、ジーンときちゃいますーーーー
返信する
Re.宮ちゃんさま (からく)
2020-04-19 15:24:50
コメントありがとうございます。

そうそう、流れていましたね。
確か、この少し前に校内暴力の中学生が逮捕されるという事件があって・・・。
だからより現実味があってみていました。

この頃の中島みゆきは良かったです。(*´ω`*)
返信する

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