僕がホテルに
泊まりたかったのは、
ラグジュアリーな
お高いホテルに
興味があったからではなく。
歴史のなかに
身を置いてみたかったから。
部屋は清潔であればよく。
リッチである必要はない。
北海道を担ったひとたち。
沢山の
名もなきひとたちが
この鍵で、
このマホガニーの
厚いドアをあけて、
この古びたソファに
こうしてひじをかけて、
明日の会合のメンツや、
何を話したらいいかを
静かな淡い灯りのなかで
じっくりと考えただろうか。
歴史のなかに身を置く
ということが、
人の人生にとって
どれほど大切なことかを、
僕は残された数年で、
噛みしめたものさ。
ほんとうに、
ギリギリのところだったね。
もう、若いひとたちは、
札幌でそういう時間を
味わうことができない。
なくなってしまったからね。
ホテルはあるさ。
でももう、
歴史は切り刻まれて、
捨てられてしまったよ。