uparupapapa 日記

今の日本の政治が嫌いです。
だからblogで訴えます。


あの日のホワイトクリスマス  

2023-03-21 12:26:06 | 日記

 さちが8歳の誕生日を迎える数か月前。

 

 

 

 父の仕事が破綻した。

 払いきれない負債に押しつぶされそうな父。

 必死で奔走したがとうとう万策尽き膝から崩れ、地面に手をついた。

「これまでか・・・。」

 父は期日までの返済が不可能だと知り、無責任ではあるが不履行の道しか選択の余地は無かった。

 債権者に申し訳ない。家族に申し訳ない。自分の不甲斐なさに涙した。

 誰にも言い訳できないが、ここは心機一転、再起を目指すしかない。

 

 債権者に置手紙を残し、姿を消した。

 必ず返済するから、それまで待って欲しいとの置手紙を残し。

 

 妻には債務が及ばないよう、離婚届と姿を消す事の詫びを連ねた手紙を送る。

「でもあくまで緊急避難の一時的な措置であり、近いうちに必ず挽回し帰るから、それまで何としても耐え忍んで」との言葉を残して。

 

 残された妻と娘のさち

 妻はすぐに生活のため働きに出る。しかし病弱のため、思うようにはいかなかった。

 すぐれない体調にむち打ちながら働き続けるのだが、とうとう限界がきたみたい。

 ギリギリのところまで踏ん張り続け、その日の仕事は何とか終え帰宅する雨の夜。

 土砂降りの中、弱り切った身体でよろけながら歩く母。

 崖伝いの坂道の途中で力尽き、ガードレールにもたれかかった瞬間、体ごとバランスを崩す。

 ガードレールの境界線を越えた母は、奈落の底へと消えてしまう。

 それっきり、さちの待つ家に帰る事は無かった。

 

 数日後身元不明のご遺体が上がったが、残されたさちに知らされることは無い。

 

 

 それまでも貧しさから、ろくに食べ物にありつけなかったさち

 次第に衰弱し、母が姿を消してからは、もう何も食べるものは無いが、ひたすら帰りを待つしかない。

 ヒモジイ想いをぐっとこらえ、優しい母を待ち続けていた。

 

 

 

 

 そして運命のクリスマスイブの夜を迎えた。

 一つの命の炎が消える。

 

 翌日の昼過ぎ・・・。

 

 

 ささやかな土産を手に持って父がやってきた。

 玄関ドアの鍵を開ける直前、虫の知らせが異変を伝える。

 しかし、全ては遅かった。

 部屋の奥の変わり果てた娘の姿を見て、父は絶句する。

 

さちさちさち・・・・。」

 冷い身体のさちを強く抱きしめ、父は声を出して泣き続けた。

 

 

「・・・そうだ!母はどうした?」待てど暮らせど母は姿を現さない。

 おかしい・・・、娘が命を落として尚、ほったらかしにする母ではない。

 父は捜索願いを出し、ようやく身元不明だった母を見つけ出した。

 

 

 無縁仏の遺灰にすがりつき、妻と娘を自分のせいで死に追いやった深い深い罪を悔やむように、呪うように、いつまでも嘆き続ける、最愛の家族を守れなかった父。

 残りの生涯を、ふたりを弔うためにだけ生き続けよう。取返しのつかない今となっては、もう罪を償う事はできない。せめて自分にできる事は、ふたりの菩提を弔う事だけ。

 随分抜け殻状態が続いたが、父はそう決心した。

 余生を総て旅立った妻と娘に捧げ、自分にできる精一杯の人生を生き、最後まで思い出と共に歩み続ける。

 

 彼にとってクリスマスは特別な日。

 その日は毎年ささやかなろうそくの炎で闇を照らし、永遠に妻と娘の魂と過ごすことにした。

 

 

 

 

 

 

 

      おわり

 

 

 

 

 

 

 短編(ホワイトクリスマス)三部作はこれにて終了。

読んでくださった皆様。もし今年以降、クリスマスを迎える時にこの物語を思い出すことがあったら、その幸せな気持ちの一部をこの世に生きる全ての【幸】たちにも分けてあげてください。想いを馳せるだけで結構です。

その幸せな気持ちが【幸】たちの魂を救ってくれると信じて。