<5月12日>
例年のごとくあっという間に終わったGWから1週間が過ぎた週末土曜日、
地元の小学校の運動会に行って来た。
昨年は、震災、原発事故で軒並み、
学校や地域の外活動は中止になった。
が、今年は時間を調整しての挙行である。
体育館でのインドア競技が主体であったが、
当日元気いっぱいの子どもたちを応援して、こちらも元気になる。
昼過ぎには車中の人となって、一路山形に向かった。
明日、日曜日は朝一で小国川入の玉川で竿を出す予定である。
国道4道をひたすら北上、福島バイパス、
飯坂米沢間の長いトンネルを抜け
緑の街道を走り抜けやがて小国の町に入った。
峠を越えて降り始めた雨が、だんだん強くなってワイパー最大、
ザンザン降りである。
街のスーパーで今夜の車中泊食材とアルコールを買う。
ビールと名酒菊水のアテにハンバーグお弁当とお惣菜を買う。
おやつに天然酵母パンとスペシャルコーヒーも買う。
雨の中再び車に乗り込む。
赤芝橋を渡り、飯豊小国方面にハンドルをきった。
雨にしっとり濡れ光るもえぎ色のブナの木々と山桜の淡い色が
残雪にこぼれ落ちている。
午後4時過ぎに今夜の宿泊地カイラギ荘(と言っても駐車場)に到着。
GW中のカイラギ荘周辺は盛大なクマ祭りが行われ、
多くの観光客が集まるのであるが、
1週明けのこの時期は人も少なくて、
静かな山あいの里に戻っていた。
500円露天風呂に疲れてこわばった身体を浸す。
誰もいない湯船には、冷たい雨風が吹きこんでいたが、
顔だけ出して温泉から見える眼前の岩山と眼下の川を眺めていると、
身体の奥と心が癒されていくのがわかる。
「ああー、いい気持ちだなあ。」
風呂のランタンが灯る頃、ヌクヌクのまま車に戻る。
外はまだ雨。
一人入山祝いが進んで良い気分になっている。
時折強く車の屋根をたたく音、それもなんだか心地良い。
<5月13日>
車窓が白々明け、目が覚めた。
時計はあさの4時。
呆然として外の気配を聞くが、静かな朝である。
どうやら雨は止んだらしい。
目ざましにまずは朝コーヒーである。
狭い車内に気をつけながらお湯を沸かし、
ドリップコーヒーの香りを楽しむ。
すぐ美味しいの“チキンらーめん”も食べたら
さて、では、そろそろですなあ。
ザックを背負い、ウェディングシューズを履いておもむろに愛車を後にする。
空は薄曇り、わずかに晴れ間が顔を出している。
天気は回復傾向。
除雪車が1台林道ゲート前に、デンと止まっている。
山肌を落ちた雪がデブリになって道を塞ぐ。
雪塊を乗り越え、奥に続く林道を歩きだした。
ここはまだ春浅く、残雪も道脇にしっかり残っている。
山の恵みもまだ顔を見せず、頑なにカラの中に閉じこもっている。
それでも、春の気温に溶けだした雪は、
渓水になって山斜面を流れ落ち、岩を打つ水飛沫が跳ねる。
所々黒くアスファルトを見せながら林道が続く。
小一時間で大堰堤に着いた。
雪の斜面を滑り落ち河原まで一気。
大堰堤から落ちる水が圧倒的な水量で流れ落ちて
ゴーゴーと水しぶきをあげている。
案外近くに見える白い稜線には薄くガスがかかっているのが見てとれた。
清冽な川の水は、青さを増してきた空の色を、
その透明な水を反射して、より青く映し出す。
対岸からせり上がる山肌には、
岩と残雪が点在、
新緑のブナが林立してとてもきれいだ。
しばらく大石に身を預け一人たたずみ景色を眺める。
時間はたっぷり。天気も上々。
だ~れもいない。
至福の時である。
ああ、ビールはどうした!
ザックを降ろし、ゆっくり釣り支度に取りかかる。
まずは、大事な第一投。米沢街道の上州屋で買ったブドウ虫がエサである。
第2投、3,4、、、、投とエサを打つ。打つ。打つ・・・!静かだ。
腰まで浸かる渓水は雪解け水。
何度も振り回す右腕も痺れてきた。
オモリを換え底を流す。
エサも目立つよう2匹をチョン掛けにしたが、
やがて脚も手も痺れてくる。
「まあ、始めはいつもこんなもんさあ。」
まだまだ時間はたっぷりあるさあ。
すっかり濡れネズミになって岸にあがり、日差しを浴びて温まる。
なんだべ?いねえのか?岩魚?
老体にはこの水温は応えるので、堰堤はやめだ。
石が転がる沢沿いから攻める。
流れに沈む岩裏、岸辺の淀み、ブッツケの淵など。
いそうなポイントに竿を伸ばす。
定石通りに淵尻から徐々に打ち、
上流落ち込みからの白い泡に続く流れが
反転するスジにうまくエサが入った時である。
ツツんっ、ツン!ぎゅん!
竿先がキュンと引きこまれる。
「きた!きたーーー!」
うーん。じっくり、引きを楽しみ、
でも少しあせってタモに取りこんだイワナは春渓水に洗われ、
サビを落としたピンシャンの尺物であった。
歓声をあげ、一人ではしゃぐ。
誰もいないのでもう勝手である。
「うれぴー!」
「ヤッター!」
「ヒエーッ!」
「ヤッホーイ!」
「キャー!」
もう勝手気ままである。
だーれもいないんだもの。
やがて落ち着きじっくり眺め写メに撮ってキープ。
手ごろな石で得意の野ジメを素早くこなし、
山包丁で腹を裂く。
脂の乗ったオスであった。
その後もジリジリとポイントを移動し、
数匹を釣り上げる。
いつの間にかもう、お昼をとうに過ぎていた。
天然酵母あんパン、じゃむパン、ぶるべりパン。
そしてペットボトル水道水で人心地つく。
お腹が足りて、満足してしまう。
目の前には体高のある尺上イワナ4本を含む7匹が雪の上に横たわっている。
イッパイ釣ったなあ。もういいかぁ。
時計は午後2時を過ぎている。上々だぁ。いやぁ最高だよォ。
もういいかあ。
もう帰ろう。
残雪に照り返す午後の日差しを浴びながら、
来た道をのんびり歩いて無人の駐車場にたどり着いた。
さあ、急いで帰って冷えたビールだ。
肴はもちろん、さっきい釣った岩魚のプリッぷり刺身さぁ。