わが国の社会福祉行政・政策は、平成12年には社会福祉事業法が社会福祉法に改称・改正され、介護保険制度が始まるなど、行政による措置制度から契約制度へと変換していった。しかし、福祉サービスを必要としている人が、判断能力が不十分な認知症高齢者、知的障害者、精神障害者の場合、契約的自立を支援するシステムがなければ、契約制度に転換したとしても実効性がなく、その人に保障されている生存権(日本国憲法第25条)や幸福追求権(日本国憲法第13条)が形骸化してしまう恐れがあった。また、従来の民法では意思能力が継続的に不完全な成年者の財産を保護するための(準)禁治産制度があったが、わかりにくく利用しにくい制度であり、近年急激に増加する後期高齢者に伴って増加する認知症高齢者の財産の保護に対応するためにこの制度を改正することが求められていた。このような背景から民法が改正され判断能力が不十分な人の契約自立を支援するための成年後見制度が平成12年から開始された。この改正の重点は、「自己決定の尊重、残存能力の活用、ノーマライゼーションといった新しい理念の導入とともに、これらの理念と従来の制度でもめざされていた要保護者の保護という理念の調和を図ること」(注1)であった。
現在の民法では、「家庭裁判所によって後見(保佐、補助)開始の審判を受けたものは、成年被後見人(被保佐人、被補助人)(以下、「被成年後見人等」という)とされ、その支援者・保護者として成年後見人(保佐人、補助人)(以下、「成年後見人等」という)が付される。」(民法8条、12条)とされた。そして、成年後見人の目的は被成年後見人の生活の質を維持し、向上させることである。
家庭裁判所は、親族または第三者を成年後見人等に選任し、必要に応じて複数の成年後見人等を選任することも可能である。第三者の成年後見人等としては、主に弁護士や司法書士等の法律実務家と社会福祉士等の福祉の専門家が選任される。そのなかで社会福祉士はソーシャルワーカーとして、弁護士・司法書士とともに権利擁護の役割を果たすことが期待されている。また、対象となる被後見人等は、その障害のためにさまざまな生活上の課題を抱えており、身上監護を行うための専門知識を持つ社会福祉士は、被後見人等に最も近いところで相談援助、連絡調整の役割を果たすことになる。特に一人暮らしの認知症高齢者など、自ら主張すること、支援を求めることや制度を活用することができにくい人々の生活空間にアウトリーチして、それらの人々の福祉ニーズを把握し権利擁護活動のリーダーシップをとっていくことが社会福祉士に求められている。
成年後見制度は家庭裁判所を中心とした多種多様な組織・団体・人びとによって支えられている。社会福祉士は、それらの組織・団体・人びととのネットワークを築いて、より多くの人々がこの制度を活用できるようにしていくことが期待されている。
〔引用文献〕
(注1) わかりやすい成年後見・権利擁護〔第2版〕村田彰・星野茂・池田惠利子編 民事法研究会 2013年 p.81
〔参考文献〕
1. 新・社会福祉士養成講座 7 「相談援助の理論と方法Ⅰ」第3版第4刷 中央法規、2018年
2. 新・社会福祉士養成講座 9 「地域福祉の理論と方法」第3版 中央法規 2015年
3. 新・社会福祉士養成講座 13 「高齢者に対する支援と介護保険制度」第5版第4刷 中央法規、2016年
4. 新・社会福祉士養成講座 14 「障害者に対する支援と障害者自立支援制度」第5版第2刷 中央法規 2016年
5. 新・社会福祉士養成講座 19 「権利擁護と成年後見制度」第4版第5刷 中央法規 2018年
6. わかりやすい成年後見・権利擁護〔第2版〕村田彰・星野茂・池田惠利子編 民事法研究会 2013年
7. 社会福祉の動向2018 第4節「認知症高齢者支援」社会福祉の動向編集委員会編 中央法規 2017年
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