相談援助の展開において、ソーシャルワーカーとクライエントやクライエントの家族とは、信頼関係に基づく援助関係で結ばれていること求められる。特に、インテークのような初期段階においては、ソーシャルワーカーは信頼関係の形成に意識と時間を注ぐべきである。スーパービジョンを定義したアルフレッド・カデューシンが指摘するようにこの信頼関係があることで、「ソーシャルワーカーはクライエントのつらい話にも十分に向き合い、真摯に信頼のおける態度で接することができ、クライエントも心の内を開き、気落ちや考え、自らの取り組みなどを語ることができ」(注1)、その後のアセスメントや計画作成における情報収集や協働作業を効果的に進めることができる。さらに、相談援助のプロセスを進め、クライエントとの信頼関係を深化させていくと、ソーシャルワーカーはクライエントのことをより理解でき、再アセスメントを経てより実りある援助としていくことができる。
哲学者ミルトン・メイヤロフは「信は狭義においても広義においても、“場の中にいる”ということの中に見い出される」(注2)と述べ、信頼関係の根拠である「信」とは自分と他人が「同じ場の中にいる」をこととした。相談援助実践の場においては、先ずワーカーがクライエントに関心を持ち、クライエントと同じ場にいることが最重要になる。バイスティックは、ソーシャルワーカーがクライエントの間に望ましい援助関係を成立させるための原則として「個別性の尊重、非審判的態度、共感的理解、誠実な態度、秘密保持、真実性、自己決定」(注3)を挙げ、ソーシャルワーカーがクライエント個人との関係を形成する基本姿勢としている。そして、相談援助実践の場では、テキストで信頼関係を形成する時期においては「ソーシャルワーカーの説明はできるだけ簡潔にし、クライエントの訴えを傾聴することが優先される」(注4)としているように、一般に傾聴が強調される。また、受容と共感も良好な援助関係の主要な要件として挙げられるが、これらはクライエント中心療法を提唱したカール・ロジャーズがカウンセラーの条件として挙げた自己一致、無条件の積極的関心、共感的理解に通底していると考えられる。
これらの態度は、ソーシャルワーカーがクライエントに臨む臨床の場において、もちろん必須の態度であるが、対人援助を人間関係の一つと捉えるとき、人間存在そのものからのさらなる考察が必要である。現象学の見地から、メルロー・ポンティは知覚を「みる—みられること」として捉え、人間は自他の存在を「相互身体的に」知ることを発見した。また、現象学的方法論に基づき対人関係トレイニングを主宰した早坂泰次郎は、グループトレイニングの臨床から「グループ体験とは基本的信頼の成立を意味している。そしてそれを支えるのはお互いの『見える』(=視線がとどきあう)体験であった」(注5)ことを確認し、視線がとどきあうことの重要性を強調した。対人援助、そして人格間関係の専門家であるべきソーシャルワーカーは、このような知見を活かして本当の信頼関係に基づく援助関係をクライエントやクライエントの家族と築いていくことが求められる。
〔引用文献〕
(注1) 新・社会福祉士養成講座7「相談援助の理論と方法Ⅰ」第3版第4刷 中央法規、2018年 p.81
(注2) 「ケアの本質 生きることの意味」 ミルトン・メイヤロフ 田村真・向野宜之訳 ゆるみ出版、1987年 p.172
(注3) 新・社会福祉士養成講座7「相談援助の理論と方法Ⅰ」第3版第4刷 中央法規、2018年 p.77(注4)同上 p107
(注5) 「〈関係性〉の人間学 良心的エゴイズムの心理」早坂泰次郎編
「Ⅸ章 他者が見えるということ」(早坂泰次郎執筆) 川島書店、1994年 p.178~179.
〔参考文献〕
1. 新・社会福祉士養成講座7「相談援助の理論と方法Ⅰ」第3版第4刷 中央法規、2018年
2. 「ケアの本質 生きることの意味」 ミルトン・メイヤロフ 田村真・向野宜之訳 ゆるみ出版、1987年
3. 「柔らかアカデミズム・〈わかる〉シリーズ よくわかる臨床心理学 改定新版」
下山晴彦編、ミネルヴァ書房 2009年
4. 「眼と精神」メルロー・ポンティ、滝浦静雄・木田元訳 みすず書房、1968年
5. 「知覚の現象学2」メルロー・ポンティ、竹内芳郎・木田元・宮本忠雄訳、みすず書房、1974年
6. 「〈関係性〉の人間学 良心的エゴイズムの心理」早坂泰次郎編 川島書店、1994年
7. 「人間関係学序説」早坂泰次郎著、川島書店、1991年
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