ユダヤ人の哲学者、マルティン・ブーバーは、戦火が収まってまだ間もなく、ユダヤ人のホロコーストの傷がまだ生々しい1951年にドイツのハンブルグ大学の「ゲーテ賞」、1953年にドイツ出版協会の「平和賞」を受賞することになる。ブーバーはこの賞金10万マルクを、ユダヤ人とアラブ人の相互理解運動のために寄贈し、その記念講演がフランクフルト・アン・マインの聖パウロ教会で行われた。その講演の内容の抜粋を以下に記す。
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「その組織化された残酷さは、それまでのいかなる歴史的事件の比ではない・・・」
「アウシュビッツとトレブリンカの〈強制収容所があった〉時代のドイツ国民のことを考えるとき、まず目に浮かぶのは、恐ろしいことが起こっているのを知っていて、反対しなかった多くの人たちである。しかし、私の心は人間の弱さをよく知っているから、殉教者になるよう自らを説得できなかったことで、隣人を責めることはできない。
次に私の前に現れるのは、一般のドイツ人の目から隠されたもの〈ユダヤ人への迫害〉を知らず、また広まっている噂の陰にどんな現実があるかを知ろうとしなかった大多数の人々だ。これらの人々のことを考えると、立ち向かえなさそうな事実を前にした人間の不安、私にもわかるその不安を考えると胸が痛む。
最後に姿を現すのは、信頼できる報告から、顔も体の動きも声も私がよく知っている、まるで友人のような人たちだ。彼らは〈ユダヤ人を迫害せよという〉命令を実行することを拒否し、そのまま殺されるか、自らの命を絶った人たちである。何が起こっているか知っているのにそれを止めることが出来ないという理由で自殺した人たちだ。私は目の前のごく近くにいるこれらの人たちを、わたしたちと死者と彼らだけを結び付けるあの特別な親密さで見つめています。こうしたドイツ人たちへの敬意と愛で、今私の胸はいっぱいです・・・」
出展
「ブーバーに学ぶ 『他者』と本当にわかり合うための30章」 p.268~p.271
斎藤 啓一 著 2003年 日本教文社
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私はこのブーバーの言葉に、人間の真の強さを感じ、心より敬服し感動する。
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