本当の人間関係を学び続ける学徒のつぶやき

人間関係学を学び続ける学徒の試行錯誤

合理的社会システム(官僚制)の逆機能

2019-02-10 10:04:24 | コラム

 西欧では16世紀に宗教改革が始まり、プロテスタンティズムの合理的な価値観が中世の人々にもたらされた。その後の啓蒙主義の時代には人間の理性を絶対視する合理主義的な価値観が広がり、17世紀から18世紀にかけての市民革命や産業革命、科学革命とともに、近代化が急激に進んでいった。マックス・ウェーバーは、西欧の中世から近世にかけての変化を「実証的、科学的な知識によって社会の諸領域が秩序つけられていくという意味での合理化ないし脱魔術化」(注1)と捉え、旧来の伝統的支配やカリスマ的史支配を脱するための合法的支配の純粋系として、官僚制を近代組織の編成原理とした。しかし、近代組織は非人格的なシステムに他ならない。

 官僚制的支配の合理性というウェーバーの命題に疑問をもったロバート・マートンは、官僚制について「その法規や規律への同調過剰は、新しい状況や条件に対する、適応不能、内集団派閥の形成、非人格性と冷淡、官僚の尊大や不遜、大衆軽視などの諸問題を引き起こしやすい」(注2)と指摘した。これが官僚制の逆機能である。この一つ目の例としては、2016年春に発覚した三菱自動車の燃費測定をめぐる不正問題が挙げられよう。この問題は、同社の従業員が社内の組織や内規に過度に依存した結果、検査データの公正性に対する曖昧さにつながり、不正データを国土交通省に報告する事態となった。このことは企業内の論理を優先し利用者や社会を軽視した例である。二つ目の例として、201512月に電通の新入社員が過労自殺した問題がある。この問題の背景には「鬼十則」とよばれる電通の内規がクローズアップされた。もちろんこの内規だけが自殺の原因とは思えないが、電通の企業風土とそれを守る官僚機構が非人格的なものとして、個人を死へと追い詰めたことは確かであろう。最後の例として、「障碍」の「碍」を法律に表記できないという問題がある。朝日新聞に「法律で障害を『障碍』と表記できるよう「碍」の1字を常用漢字表に加えるように求めた衆参両院の委員会決議に対し、文化審議会国語分科会は(2018年11月)22日、常用漢字への追加の是非の結論を先送り」(3)という記事が掲載された。中央省庁が前例や規範に固執し、変化を厭い、障害者やその家族が、「害」という字の否定的なイメージに対して抱く不快な感情を放置し続ける例と言えよう。

 このようにさまざまな組織に蔓延する官僚制の逆機能を克服するためには、その組織の特性を見極め、縦割り化した下部組織を横断する横串のネットワークづくりを進め、風通しを良くする必要がある。また、組織内に趣味サークルや勉強会のような自発的結社をつくり、異なる下部組織の成員同士がお互いに人格的な関係をもてるようにすることも有効である。さらに、外部のNPOや公益団体などと連携し、組織内の常識と社会の常識に乖離が起こらないように組織のトップが率先して心がけていくことが求められる。

〔引用文献〕

(1) 新・社会福祉士養成講座3 「社会理論と社会システム」第3版第2刷、中央法規、 2015年  p.34

(2)有斐閣大学双書「社会学概論」本間康平、田野崎昭夫、光吉利之、塩原勉 編、 有斐閣 1976年 p.137 

(3) 朝日新聞 20181123日朝刊

 

〔参考文献〕

1.  新・社会福祉士養成講座3 「社会理論と社会システム」第3版第2刷、中央法規、 2015年  

2. 有斐閣大学双書「社会学概論」本間康平、田野崎昭夫、光吉利之、塩原勉 編、 有斐閣 1976年 

3. 有斐閣双書〈小辞典シリーズ〉 社会学小辞典〔増補版〕第3刷 濱島朗、竹内郁郎、石川晃弘 編 1984年 



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