わが国では1950年の身体障害者福祉法の施行以前は傷痍軍人のみが施設援護サービスやリハビリテーションを受けていたが、戦後この軍人優遇制度はGHQによって解体させられた。そして、この身体障害者福祉法により障碍者に対する福祉サービスが初めて制度化された。その背景には日本国憲法の基本的人権(第11条)と生存権(第25条)の保障がある。1970年には心身障害者対策に関する国等の責務を明記し、心身障害者の福祉に関する施策の基本事項を定めた心身障害者対策基本法が制定された。この心身障害者対策基本法は、1993年に障碍者全体を均等に対象とするように改定され、現在の障害者基本法となった。障害者基本法(現行法)は、第3条で「すべての障害者が、障害者でないものと等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有する」と定め、第4条で障碍者に対する差別を厳しく禁じている。
身体障害者福祉法は2005年の障害者自立支援法の公布に伴い改定され、2013年に障害者自立支援法と身体障害者福祉法は統合され障害者総合支援法となった。障害者総合支援法は、障碍者の範囲に身体、知的、精神(発達障害を含む)の障碍者に難病等による障碍者を加えた。障害者基本法と障害者総合支援法は現在のわが国の障害者福祉の支柱である。
2006年12月の国連総会において「障害者の権利に関する条約」が採択され、2008年5月に発効した。この条約は障碍者の人権及び基本的自由の享有を確保し、障碍者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的としている。わが国はこの条約に2007年9月に署名したが、国内法の整備に時間が掛かり2014年1月に批准した。主な国内法の整備としては2011年の障害者基本法の改正と障害者虐待防止法(2011年成立)、障害者差別解消法(2013年成立)が挙げられる。障害者基本法の改正は主に障碍者の社会における共生を目的とし、障害者虐待防止法は、障碍者に対する虐待の防止や対応の窓口となる「市町村障害者虐待防止センター」や「都道府県障害者権利擁護センター」を定めた。また、障害者差別解消法は、行政機関による障碍者に対する差別的取り扱いを禁止し、社会的障壁の除去を実施するための合理的配慮を要求している。
このように、日本の障害者福祉関連法は、国際社会の障碍者の権利擁護の思想を取り入れることで発展してきたが、「人の有する、守られるべき権利を守る」(注1)という権利擁護の視点からわが国の障碍者福祉の現状を見ると、社会の偏見や差別が十分に解消されているとは言い難い。2016年7月の津久井やまゆり園の事件で被害者の実名が公開されなかったことが象徴するように、我々の社会には差別意識や偏見が依然として存在している。このような社会の中で障碍者の人として守られるべき権利を擁護するために、ソーシャルワーカーはあらゆる手段を使ってソーシャルワークを実践することが強く求められている。
引用文献・参考文献一覧
〔引用文献〕
(注1) 新・社会福祉士養成講座6「相談援助の基盤と専門職」 第3版 中央法規、2015年 p.111
〔参考文献〕
1. 新・社会福祉士養成講座14「障害者に対する支援と障害者自立支援制度」 第5番第2刷 中央法規、2016年
2. 新・社会福祉士養成講座6「相談援助の基盤と専門職」 第3版 中央法規、2015年
3.「福祉小六法 2018」 編集 社会福祉法人 大阪ボランティア協会 中央法規、2017年
4.「虐待のない支援――知的障害の理解と関わり合い」 市川和彦編 誠信書房、2007年
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