河内国喜志村覚え書き帖

大坂の東南、南河内は富田林市喜志村の歴史と文化の紹介です。
加えて、日々の思いをブログに移入しています。

歴史35 昭和――春やん戦記②

2023年08月11日 | 歴史

「15年前の今日ら(8月14日)あったら、酒飲んで、こんなごっつぉは食べられへんかったがな!」
そう言いながら春やんが、ちびちびと飲んでいたコップの酒をゴクリと飲んで続けた。

富田林は、大阪(市内)から疎開してくるぐらいやから、まだましなほうあった。
ほやけど、酒どころか醤油は無い、砂糖も塩もなかった。
それやのに、ラジオから流れる大本営発表は『勇猛果敢に敵戦力を撃砕せり』ばっかしや。
当時は、こんなこと言われへんかったけど、みんな負けると思てた。
せやのに、なんで戦争を続けるねん!
もうええわ!
もうどうなろうがかまへん。もうええから戦争を止めて、もはや玉砕あるのみ。
あのときの「もうええわ」には、諦めのような、願いのような、覚悟のような複雑な思いが込められてた。
そやさかいに、15日に終戦の詔書を聞いたときには、どない言うてええやら、どないしてええのやわからんかった。

戦地に行って、アメリカ軍の戦車やら大砲やらを見たときに、こんなんに撃たれてたんかいな!
こら、まともにいったらアカンと思た。
せやさかいに、こりゃアカンと思たときは・・・わしは、逃げた!
卑怯に見えようが、生き抜いて抵抗をし続けるというのも戦い方の一つや!
――流れも清き菊水の/千代も絶やせぬ旗かげと/幾万代もかがやかん/ああ忠臣の鑑とぞ――(『楠正成』小学唱歌より)
というやっちゃ!

私には、難しい唄の意味は解らなかったが、
ブラッシーに噛まれて血みどろになっている力道山が、最後に空手チョップでやっつけるようなものだと思った。
阪神の村山に三打席三振の長嶋が、九回裏に逆転のホームランをかっ飛ばすようなものだと思った。
春やんはというと、少し酔ってきたのか、左の目をしくしくとさせながら、大きな声で歌い出した。
 朝日輝く生駒山
 夕陽彩るちぬの海
 千古歴史の影宿し
 豊に流るる大淀の
 河辺に立ちて武を練るは
 我等歩八の健男児
 (歩兵第8聯隊歌 一番)

「二回目の召集令状がきて、八連隊に入ったのは昭和16年五月あった」
※③につづく

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