一月一日の元日の朝、つまり、毎年の元旦になると尊い御方がお出でになる。
ピンポーンとチャイムも押さずに、玄関の鍵がかかっていようがお構いなく、スーと家の中に入ってこられる。
そして、テーブルの上に置いた重箱の中のお節料理と鏡餅を食べて、ニコニコと笑っておられる。
紅白歌合戦を最後まで視た眠い目をこすりながら「明けましておめでとうございます」と挨拶をすると、
「今年も、おまえたちのために、この一年の福徳と幸福を土産に持って来たで、正月(一月)の間はゆっくりさせてもらうとするか」
「ははーっ! 一ヶ月と仰らずに一年でも!」
「いやいや、そうはいかんわい。おまえたちか幸せかどうかを高い所から眺めるために、山に帰らねばならんでな!」
雑煮を一緒に食べながら「あなた様はどのような御方ですか」と訊ねた。
「毎年、来ているのに知らんかったのか! おまえたちの先祖じゃ(祖霊神)! 亡くなってから33年経つと神に昇格して、おまえたちの生く末を見守っているのじゃ。普段は山にいるので山の神、正月はおまえたちの所に来る歳神(としかみ)じゃぞよ!」
「なるほど! それで毎年お出でになる!」
「そうじゃ! だから元旦にわしが来やすいように頼むぞ!」
「ははーっ!」
そういえば忘れていた。元旦に、我が家に幸せをもたらすために高い山から降りてくる年神様をお迎えする準備を。
自分の家が年神様をお迎えするのにふさわしい神聖な場所であることを示すために、結界をつくって我が家が清らかな場所であることを示さねば。
そこで慌てて畑の農小屋の中にある稲藁(いなわら)を取って来てしめ縄作り。
年に一度しかやらないので、作り方を忘れてしまって悪戦苦闘。
なんとか恰好がついて、庭にある南天(難を転じる)と松(年中青々と栄える)、それにペーパークラフトの飾りをそえて完成。
一昨日の二十八日が「二重の末広がり」で善かったのだが、作った二十九日は「二重苦」で験が悪い。31日は「一夜飾り」でこれも験が良くない。
今日の三十日が、しめ縄を飾るぎりぎりの日。
元日にのんびりと神様をお迎えするためには、年末の準備が大切。
来たる年が、今年に増して良きとしでありますよう。