朝、畑へ行く途中、百姓仲間が里芋を洗っている。
「えらい早いこと掘るねんなあ?」と言うと、
「今日は月見やさかいに、自分とこ用や!」
夏のような暑さ続きで忘れていた。
旧暦の八月十五日、十五夜、仲秋の名月だった。
名月を愛でながら管弦の遊びを楽しんだのは高貴なお方たち。
専業農家だった我が生家では、里芋と薄アゲを炊いたのと、俵型のおにぎりを縁側に供え、我々子どもが河原でとってきたススキを飾るだけという、ひっそりとした祭り事だった。
農家にとっては稲の豊作を願う大切な祭りだったが、子どもにとっては夕食に里芋、次の日の朝食にも里芋という、けっこううんざりな祭りだった。
そんなことを思い出して、ならばと、我が畑の里芋の試し掘り。
四月に親芋の逆さ植えをして、茎を四本伸ばしたうちの二本を収穫。
ほんとうの収穫にはまだ一ヶ月早いので、これならまずまず良しか?!
帰りに堤防のススキを四、五本とって帰宅。
日が暮れてから、相方が作ってくれた里芋と薄アゲの炊いたんを持って外へ。
夜ともなれば、さすがは秋。虫のすざくの涼しい風の中の西空にはみごとな満月!
「大きな芋になってや」と願いつつ、里芋を肴に一杯!
「歳をとるとはこういうことか」と納得しながら二杯、三杯!
「綺麗なおっ月さんやなあ」と感嘆しながら四杯、五杯!
祭りばやしを二人できいて
語りあかしたあの夜が恋し
あの娘(こ)想えば俺も何だか
泣きたくなっちゃった
リンゴ畑のお月さん今晩は
噂をきいたら教えておくれよなあ
(『お月さんこんばんは』歌:藤島恒夫 作詞:松島又一 作曲:遠藤実)
鼻唄歌って涙流して六杯、七杯・・・・