河内国喜志村覚え書き帖

大坂の東南、南河内は富田林市喜志村の歴史と文化の紹介です。
加えて、日々の思いをブログに移入しています。

茶話169 / 眠り

2025年02月06日 | よもやま話

月に一度、町会館で町内の同年代グループの飲み会がある。
歳が歳だけに、まずは体調不良の話題、次に薬の話で盛り上がる。
「どんな薬を飲んでいるねん?」
「〇〇や!」
「俺と一緒やがな!」
「あの薬もパッケージが白い間は良えけど、ピンクとか赤になるとアカンらしいな」
それを聞いた右隣の少し年配のYさんがじろりと睨む。
気心知れた同士の集まりだから、もめごとになることはない。

町内で飲んでいるという安心感から、ついつい酒が進む。
年甲斐もなく寄ったので途中で退散。
ふらふらになって家に帰ってバタンキュウ。
朝起きて、何も覚えていない。
誰かに何か嫌なことを言ったりはしていなかっただろうか?
毎度毎度の自己嫌悪。
用事があって歩いていると、昨日、睨まれたYさんとばったり。
「昨日は、すんません!」
「なんのこっちゃ?」
「昨日はえらい飲んでしもたわ!」と勘繰りをいれる。
「けつこうしっかり喋ってたで!」
優しさで言ってくれているのかもしれないと、もう一つ勘繰りをいれる。
「嫌なこと言うてなかったかなあ?」
「皆と楽しそうに、やってたがな!」
それで、ようやく一安心して、「飲み過ぎて何にも覚えてないねん」。
「それは酒に酔って覚えてないのやなしに、眠ったから覚えてないねんがな!」

眠りの効用には、心身の疲労だけではなく、記憶の整理もある。
頭の中の記憶の引き出しに、覚えておくべきことと、忘れるべきことを仕分けしてくれるのだ。
嫌なことは引き出しにぴしゃりとしまいこまれ、嬉しいことは引き出しに入りきれずに、朝になっても残っている。
だから、朝に目覚めたとき頭がすっきりとしている。
そうでなければ人間なんぞ、やってられない。
良くも悪くも、眠っている間に整理されて、すっきりとした朝を迎えて、よし、今日も頑張るぞという気持ちになれる。
        ◇
「それで、どに行くねん?」とYさん。
「会館にジャンバーを忘れたんで取りに!」
「そりゃ、飲みすぎやがな! 寒いのによう帰ったなあ!」
「寒さも忘れてたわ!」
「そういうたら、メガネも忘れてたんとちがうか?」
「朝から、探してたんやがな!」
  ◇
会館に行くと、下駄箱の上にジャンバーとメガネが置いてあった。
その横に、マフラーと手袋、ニット帽とタバコにライターなど……。
それに靴が一足。
派手なマフラーはYさんのだと覚えていたので、電話をかける。
呼び出し音ばかりでなかなか出ない。
しかたなくYさんの家へ。
「このマフラーはYさんのやろ?」
「おお、そや! どこにあったんや?」
「会館に……!」
「うっかりしたがな……」
「手袋とニット帽もあったで!」
「あっ、それも、わしのや!」
「靴もあったけど?」
「ええ?」
玄関の上り口に、会館のトイレのスリッパが脱ぎ捨てられている。
「来る前に電話したんやけど?」
「あっ! スマホも忘れてきた!」
  ◇
眠りですべて忘れるのではない。
眠る前に酒で忘れている。
そして、その前に、老いで忘れている。

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畑189 / 上でも下でも

2025年02月05日 | 菜園日誌

立春だというので、夕方近くに、水筒を持って畑へ。
強い風に背を押されて、すたこらすたこらの速歩き。
身体活動の強さを表す「メッツ」という単位がある。
厚生労働省のHPからの受け売りでいうと、
座って安静にしている状態が1メッツ、普通歩行は3メッツになる。
日常生活で体を動かす量の基準は、3メッツ以上の身体活動を1日1時間、1週間の合計で 23メッツ(約8時間)する必要がある。
これに加えて、少し強めの運動(例:速や歩き=約5メッツ)を一日20分以上、1週間の合計で150分以上すると寿命が伸びるのだという。
早い話、こんなの、普通に働いていれば1日で達成できる。
なのにメタボが増えるのは、デスクワーク中心、過度のカロリー摂取、高齢による活動不足、強めの運土不足ということになる。

強い風に背を押されてすたこらすたこら速歩き。
こりゃ良い運動だわい。
と思っているうちに畑に着く。
かといって、格段にすることはない。
気温は7度、慌ててビニールハウスの中に入る。
中は25度。
冷たい風に震えているビニールハウスの中で、どかりと指定席に座って、うららな春を感じる。
暦の上であろうが下であろうが、ここには春がある。
豌豆が背丈ほどに伸びて花をつけている。
水筒のお湯を紙コップに注ぐ。
少し焼酎が交じっている。
ポケットに入れて来た柿の種をつまみながら、ちびりちびり。
ずうっと前から、これがしたかった。
キャベツの葉も10枚を超えて、巻きだしている。
もう一杯注いで、ちびりちびり。

福岡の伝統野菜かつお菜(勝男菜)が、我が物顔に葉を広げている。
隣のキャベツは肩身狭そうにしている。
ハウスの中だから、まったく虫に喰われていない。
なんとも見事な葉っぱを眺めながら、最後の半分をちびりちびり。

天気予報を見ると「もうすぐ雪が降ります」。
こりゃいかんわいと、勝男菜を収穫して帰路につく。
強い風をまともに受けて、大きく黒い雪雲に向かって、のたりのたりと歩く。
これもまた、良い強めの運動になる。
家に帰ると、ちらほらと咲きだした梅に、ちらほらと雪が舞っている。
勝男菜をさっと湯がいてお浸しにして、鰹節をかけて、肴にして、ちびりちびり。
冬と春を一緒に味わう、なんとも贅沢な孤独のグルメである。

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茶話168 / 味なもの

2025年02月04日 | よもやま話

京都に住んでいる人は京都観光をしないそうだ。
清水、八坂、知恩院へ行っても、自分が住んでいる所と同じ土地の匂いがする。
だから、京都に限らず、身近にある観光地へは行かない。
「♪知らない街を歩いてみたい どこか遠くへ行きたい」という気持ちになれない。
日常からの離脱、漂泊観! はたまた、甘美な仮想逃避にはならないからだ。
 愛する人とめぐり逢いたい
 どこか遠くへ行きたい
 愛し合い信じ合い
 いつの日か幸せを
(『遠くへ行きたい』 詞:永六輔・曲:中村八大)

ウォーキングを兼ねて、家から2㎞ほどの太子町(南河内郡)へ梅を見に行ってきた。
梅といっても花ではない。
墓である。
太子町には、日本の礎を築いた古代の偉人達が眠っている。
敏達、用明、推古、孝徳(孝極)天皇、そして、聖徳太子の墓がある。
地図で見ると「梅鉢」の家紋に似ていることから「梅鉢御陵」とよばれている。

聖徳太子廟がある叡福寺にバイクを停めさせてもらう。
そこから500mほど歩いて用明天皇陵へ。
また、500mほど歩いて推古天皇陵へ。
堺・羽曳野の仁徳・応神天皇陵のように、平地に土を盛って造られたのではなく、
山裾の小山を利用して造られた御陵なので坂道が続く。
さすがに疲れて、温かい缶コーヒー買って、近くの小さな公園で一休み。
大昔にも誰かが、ここで一休みしたのだろうか?
日曜日とあって、リュック背負ったウォーカーが前を通りすぎて「こんにちは!」と挨拶してくれる。
「こんにちわ!」

なんとなく元気が出て、800mほど歩いて、前回書いた竹ノ内街道沿いにある孝徳天皇陵へ。
ここで、ほっと一息。
ここからは下り坂。
のんびり歩いていると、坂下から自転車に乗った小学生が上がって来て、「こんちは!」と元気よく挨拶してくれる。
「こんちわ!」

♪愛する人とめぐり逢いたい♪
「愛する人」とは、恋愛の対象となる人とは限らない。
「自分を受け入れてくれる人」なんだ。
竹之内街道という交通の要所であったが故に、旅人をもてなす、受け入れる人情が残っているのだろう。
自分の住んでいる所と風土は似ていても、人情が違うのだ。
どこか遠くへ行かなくとも、近くに愛する人がいて、どこかでつながっている。
縁は異なもの、味なものである。

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