http://www.ikedahayato.com/20151007/32595427.html より転載しました
視聴率の女王の正体! 2008年春、戦後の欲望史を象徴する稀代の女ヤクザが、ついにテレビから姿を消した!
細木数子70歳。古希とともに魔女の時代は終焉を迎えた。本書は、細木の絶頂期に「週刊現代」で連載、6億円の損害賠償訴訟を起こされながらテレビ降板へと追い込んだ渾身のルポルタージュである。
細木数子って、いましたよね。なんか「地獄に落ちるわよ」とか罵る芸風のでっかいおばちゃん。あの人、テレビにまったく出なくなりましたが、その理由は、この本を読めばわかります。
著者はヤクザ業界の取材に強い、硬派なジャーナリスト溝口敦氏。説明文に「女ヤクザ」とありますが、本書はそんな著者が、「細木数子」とヤクザとの根深いつながりについて解き明かした意欲作です。細木数子をテレビから消した作品、といっても過言ではありません。
実は「女ヤクザ」だった「細木数子」
あんなにテレビに出てたのに、まじでヤクザ関係なの?という疑問はもっともですが、著者は丁寧に人脈を解き明かしていきます。さすがこの分野に強い溝口敦氏、切り込みまくってます。
堀尾を核として発したヤクザ人脈は現在も続き、細木は今なお広域暴力団の首脳や最高幹部、元最高幹部らと親しく交際している。
細木が袖の下からのぞかせる暴力団臭は実態があり、細木と向き合う者に脅威を与え、その者の腰を引かせる。テレビ番組で共演する芸能人が細木発言に反論せず、おとなしく従う理由の一つに暴力団への恐怖がある。へたに逆らうと、番組終了後、何をされるか分からないという思いが彼らにはある。
それが視聴者の目に、細木をいっそう偉そうに見せる上で有効に働いている。
この本は連載をまとめた一冊なのですが、連載中、細木数子氏は講談社を訴えています。が、それは自身の潔白を証明するためというよりは、体裁的なものだと見られています。
細木数子は二〇〇八年三月に、レギュラー出演していたすべてのテレビ番組から降板した。フジテレビ系『幸せって何だっけ~カズカズの宝話~』とTBS系『ズバリ言うわよ!』の二本であり、二番組そのものが細木の降板で消滅した。
『週刊現代』で二〇〇六年五月二〇日号から始められた連載記事『細木数子 魔女の履歴書』に対して、細木は同年六月、講談社の社長を相手取り六億円余の損害賠償を求める訴訟を起こした。
その経緯は、本書巻末の「付記」に詳述したが、この訴訟そのものがレギュラー番組を継続させるための細木の弁明工作であり、いわば乱訴だった。彼女には筆者が書いた事実を、形だけでも否定する必要があったのである。
掲載中止の圧力をかける
にわかには信じがたい話ですが、細木氏は暴力団幹部を使い、著者に「連載中止」の圧力もかけています。ここら辺、すべて暴露されちゃっているので、見事に墓穴を掘っている感じがします。
最高幹部は近くの喫茶店に私を誘い出し、その席で言い出した。
「細木の記事をやめられないか。あんたがやめたといえば、それで終わりだろう」
私は半ば彼の出方を予想していた。
「いや、編集部の企画ですから、私がやめれば、編集部が別のライターを立てるまでです。やめるわけにいきません」
「そうか、やめることはできないか」
と、最高幹部はしばし考えていた。
そのとき背後に控えていた若い人が「細木さんから電話です」と最高幹部に彼の携帯電話を差し出した。
「ええ、やめられないみたいですよ。ええ、ええ」
と、最高幹部は数分ほど細木とおぼしき人間と受け答えしていた。おそらく細木は最高幹部に連載の中止工作を依頼し、首尾がどうなったか気になって、直接電話してきたのだろう。
筆者は当方の立場を理解した上、「贈賄」を断念した彼に感謝し、敵意や害意はいっさい持っていないと明言する。だからこそ団体名も個人名もここでは伏せたのだが、広域暴力団の現、元幹部に連載のストップを依頼した細木に対しては別の感想を持つ。
仮にも電波メディアで発言する者が自分に不利益と勝手に予想する記事を、暴力団に依頼して打ち止めにさせようというのだ。
圧倒的な収入、まさに女傑
もう一つ、本書で秀逸なのはビジネス面の分析。携帯サイトの稼ぎに驚かされました。月3億!スマホ時代になってだいぶ下がったとは思いますが…いやすごい。
細木の収入源の第一はテレビ出演料で、二〇〇八年春までフジテレビ系『幸せって何だっけ~カズカズの宝話~』、TBS系『ズバリ言うわよ!』のレギュラー番組二本を持っていた。二時間枠の特番も年数回放映され、四億円前後の収入と推定される。
収入源の第二は占い本の印税で、KKベストセラーズだけで二〇〇四年、細木に三億三〇〇〇万円もの印税を払っているというから、全体では同じく年四億円前後の印税収入があるとみられる。
第三が稼ぎ頭の携帯サイト『細木数子 六星占術』で、会員一〇〇万人という。月三〇〇円の利用料で月三億円の売り上げ、その三分の一が細木の収入というから、年間一二億円の収入になる。
第四の柱が講演、勉強会、占い、鑑定などの占い収入、墓石や仏壇販売のキックバックなどの雑収入で、講演会四〇〇〇円、勉強会一万円、個人鑑定一〇万円、命名五〇万円、家の方位占いと会社の命名が各一〇〇万円など、いずれも高額である。これまた年間収入は四億円前後だろう。
(中略)つまり細木に流入するカネは年間しめて二四億円前後。これを細木は前記の薫白莟有限会社を受け皿にして、その中から必要経費や人件費などを差っ引き、約四分の一、六億四〇〇〇万円の会社所得に圧縮するわけだろう。
規模は縮小しつつ、活動は継続中
この本によってテレビから「追放」された細木和子氏。公式サイトを見るに、現在も占いサイトや勉強会で稼いでいるようです。写真を見る感じ、激やせしているのが印象的ですね。書店でも見かけなくなりましたし、売上規模はだいぶ落ちているのでしょう。
戦後史をなぞりながら、闇社会とのつながりを明らかにしていく。単なる暴露本にとどまらない名著です。一流のノンフィクション作家の仕事、ぜひ実際に手にとってお読みください。暴力団から圧力を受けてまで執筆を続けているわけで、本当に頭が下がります…。