気楽に山歩き

山歩きもHPも気楽に楽しむ日々を綴ります。話題は主に山歩き関連です。

『翼を持ったお巡りさん』 谷口凱夫・編 (山と渓谷社)

2016年10月22日 | 
副題:ヘリ救助にかける富山県警察航空隊の現場から

北アルプスの山岳遭難といえば、必ずと言っていいほど活躍のヘリ救助。
その現場の様子をつぶさに書かれています。

かつて長野県側では民間航空の東邦航空、篠原秋彦さんのヘリ救助が有名でした。
神様と言われ、豪腕で鳴らしたその篠原さんが救助中の事故で亡くなり、そのことがきっかけでこの本が執筆されたのだそうです(2005年7月1日刊)。
※篠原氏の活躍の様子はコチラの本で『空飛ぶ山岳救助隊』 羽根田治著 (山と渓谷社)→ 拙読後ブログはコチラ


「救命率の向上、後遺症無き早期社会復帰にヘリの活動欠かせない」
その思いでのヘリ救助。いまやそのヘリ救助が当たり前に浸透してきていますが、ここまでに至る経緯、苦労、そしてこれからの課題、心配事などが丁寧に書かれています。
山岳だけでなく、あらゆる災害に対応している救助ヘリですが、この本では主に山岳救助がメインです。

つくづくそのお仕事の大変さが分かります。

遭難に関してはミスもあるでしょうし、不可抗力もあるでしょう。
身勝手な遭難者の言動には同じ山歩きする者として恥ずかしいと思いますが、生と死を分けた厳しい中の救出は読んでいてもピリピリした現場の状況が伝わってきました。

遭難はしないよう気をつけていますが、皆さん同様なんですよね。
したくてするわけではないです。

文中に「腹の立つ自業自得と言いたくなるような無謀登山者でも生命の尊さは変わらない。いかなるケースでもベストを尽くすのが現場」と書かれていますが、その救助隊の方も安全を心がけつつ命をかけているのだと、改めて頭の下がる思いです。
実際、救助隊の方が遭難のケースもありますし、救助後、救助隊の人は自力で帰還という場合もありますからまさに命がけのお仕事です。

「導入当初は驚き感激感謝されたヘリ救助も、今ではそれがあたりまえになり遅いと苦情があり、それはおかしいのではないか。」そして「他人を(救助隊含む)思いやる気持ちを」と書かれ、「救助要請した後は警備隊任せ、救助できないと救助隊を責める・・たまったものではない」と結ばれている部分が印象的でした。

遭難した人には遭難した人のいろいろな思いがあると思うのです。動転したり心細かったり、怪我していればその痛みの中で生死の境のぎりぎりの精神状態にもなるでしょう。救助される時の有難さも身に染みるでしょうし、感謝の思いはひとしおだと思うのです。ホッとして虚脱状態になるのも仕方ない部分もあるでしょう。


文中に「冬の剱岳に登って雪が降るのは当たり前だ。危険を承知で勝手に迷惑をかけている者を警備隊員が命をかけ、ヘリを出動させて救助してやることはない。税金の無駄遣いだ。放っておきなさい」という電話もあるといいます。
それに対して「救助を求めて涼しい顔をしている遭難者も、救助してやることはないと苦情を言ってくる人も、自分さえ良ければの気持ちが見え見えで、情けなくなる」と書かれてました。

自然災害のような時は受け入れられる救助が、こと登山のような遊びとなると他者の目から見れば非難交じりの様々な感情に分かれるところでしょうから肩身の狭い思いもあるような気もします。



ヘリ出動に関しては、地元ヘリ空港(富山空港)周辺住民にも騒音被害があるということなど、様々な観点から取り上げられていますので、勉強になります。

ヘリコプターの機能、操縦者の技量、支える技術者やスタッフが揃っての救助活動ですから遭難に関しては多くの方々のお世話になることを肝に銘じたいと思います。
お世話にならないよう心したいと思っていますが、いつどこで被災、罹患、遭難するかもしれず、こればかりはなんとも分かりません。
遭難に限らず、何事でも人は一人では生きられないということですね。
死んでも誰かのお世話になるのですから、人間とは常に支えられているのだとつくづく感じます。

良い本でした。
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