手塚治虫の「火の鳥」も、ついに10巻・11巻まできました。「火の鳥」シリーズ最長編の「太陽編(上・下巻)」がこの2冊に収録されています。
この「太陽編」は、7世紀の日本と、21世紀の未来とを対比して描きながら、さらにそこに産土神(うぶすながみ:神道においてその者が生まれた土地の守護神)と仏教の神の戦いを重ねあわせるという、三重構造の物語で、「火の鳥」シリーズ最長の長編となっています。スケールの壮大さはシリーズの中でもピカイチですね。まずは7世紀の物語の概要です。
西暦663年、白村江(はくすきのえ、現・韓国中世部の川)の戦いで唐・新羅連合軍に惨敗した倭・百済軍は敗走を重ねていた。百済王一族の兵士・ハリマは、唐軍に捕らえられ、生きながらに顔の皮をはがれ、狼の皮を被せられてしまった。狼の顔を持ったハリマは、不思議な老婆に助けられ、老婆の予言を信じて倭国へと渡った。倭というのは7世紀以前の日本のこと。その倭国でハリマは、狗族(くぞく)という先住者たちと出会う。
この狼の顔を持つハリマは、狗族の長の娘マリモが瀕死の重傷を負っているのを助けて恋に落ち、狗族と友誼を深めることになります。そして壬申の乱(じんしんのらん)に巻き込まれるとともに、仏教の神々と産土神との戦いに巻き込まれていくのです。
はい。火の鳥もこんな感じで登場します。
さらにこのハリマの意識が、21世紀の板東スグルの意識と交錯するというのが、この「太陽編」の魅力です。
ハリマは、狼の皮を被せられて以来、悪夢に悩まされていた。そして次第に、自分以外のもうひとりの自分の存在を確信していく。ハリマの精神は、21世紀に生きるシャドーのエージェント・板東スグルの精神でもあったのだ。21世紀の日本では、火の鳥を神と崇拝する宗教団体「光」が地上を支配し、地上から追われたシャドーたちとの抗争がつづいていた。そしてそれは、まるで仏教と産土神たちとの争いのようでもあった。
スグルは「光」に捕らえられ、洗脳施設で上のような狼型のマスクを装着されます。過去のハリマと未来のスグルが、ここでつながるわけです。ハリマとスグルという、同一でありながら別の存在である主人公が、何度も未来と過去の戦いを行き来する様は、まさに、遠い過去と遥か未来を描くという「火の鳥」全体のコンセプトを端的に表した作品です。
未来の「太陽編」でも、火の鳥は「光教団」総本山のシンボルとして登場し、猿田彦もシャドーのリーダー「おやじ」としてスグルに関わります。いやぁ~過去から未来へ、未来から過去へと、「火の鳥」のストーリーは壮大なスケールで繫がりますね。
残念ながら「火の鳥」は、この「太陽編」で作者の手塚治虫が亡くなったため、続きが描かれることはありませんでした。しかし、手塚治虫は「大地編」という構想をもっていたそうです。また、この「火の鳥」には、関連した小作品も何編かあるようですので、そこらあたりももう少し探っていきたいと思っています。ではまた、数日後にこの話題で
手塚作品を熟知した人工知能(AIやチャットGPT)が、続編を描いたりして??
これからもよろしくお願いします。