―“家”は本来、安住のための場。でも安住の場で低周波音に苦しめられるのは、津木さんばかりではありません。―
せっかく診断にこぎつけた「低周波音症候群」ですが、私の状態は外因性自律神経失調症性に加え、神経症的なストレス障害が重なります。終わりのない低周波音は、単に体調不良だけではなく精神的に追い詰められ、つらいのです。「死んだほうがまし」という絶望感が襲ってきます。引き出しにはそれなりの薬がためてありますし、家中の刃物を片付けたこともあります。ストレス診断や鬱診断のチャートにはほとんど当てはまります。
このコラムを書きながらも、工場の稼働する平日は毎日全身にジンマシンが出ます。手のひらほど腫れ上がるジンマシンは、工場の休業日にはきれいに消えます。そして月曜の始業とともに全身に発疹し、腫れあがります。二年前にも同じようにジンマシンが出、一年近く発疹を繰り返しました。そんな風になる前に何か方策をとれば、と思われるかも知れません。
しかし低周波音は、これまで述べてきたように遮音が難しく、被害者には防ぐすべがありません。その場を離れる以外に自衛策がないのです。とはいえ、簡単に家屋敷を処分することも、二重生活もできません。ましてや、低周波音被害の発生源である工場の存在が資産価値を損ない、処分を不可能にしています。
そんな逃げ場のない苦しみを強いられる生活に、追い討ちをかけるような仕打ちを、ご近所様から受けることになりました。
近所のテナントビルのエアコン室外機が経年劣化かものすごい音で回り、工場の休業日なのに頭痛がし、仮眠を妨げられ、「駆動音がつらいので整備してもらえないか」とビルオーナーに頼みに行きました。しかしオーナーは最後まで聞くことなく「どこでも付けている物に、なんでお宅だけいちいちうるさいと文句を言うのか。ご近所様ならお互い様だろう。」と逆ギレされました。この室外機は14年前のもので間に家を一軒置いて稼動音が聞こえ、部屋の中でよどむようにウォンウォンと低く響き続けるのです。エライご近所様はその後も平然と、うるさいエアコンをご愛用中です。
このような事例は、低周波音症候群被害者の会では、多々報告されています。都会のマンションに住んでいたAさんは、近所のスーパーの保冷機器から発せられる低周波音に苦しんでいました。
彼女は購入したばかりの自宅の中で、24時間365日ウォンウォンと響き続ける音に、日常の家事をこなすことも休むこともできず、ひどい体調不良に苦しんでいました。もちろんマンションの管理者にも行政にも相談しました。ところが発症までの個人差の大きさゆえか、保冷機の音をうるさく感じている住人はいても、彼女のように苦しみを訴える住人はいません。行政にも放置され、次第に彼女の一人息子も情緒不安定になり、夫も不眠を訴えるようになってしまいました。彼女の憔悴はいや増し、やがて愛しい一人息子をおいて入退院を繰り返すまでに……。今彼女の一家とは連絡が取れません。
『週刊金曜日』暮らしコラム(2007年10月5日№.673号)津木とねこ
編集部03-3221-8521(禁無断転載)
せっかく診断にこぎつけた「低周波音症候群」ですが、私の状態は外因性自律神経失調症性に加え、神経症的なストレス障害が重なります。終わりのない低周波音は、単に体調不良だけではなく精神的に追い詰められ、つらいのです。「死んだほうがまし」という絶望感が襲ってきます。引き出しにはそれなりの薬がためてありますし、家中の刃物を片付けたこともあります。ストレス診断や鬱診断のチャートにはほとんど当てはまります。
このコラムを書きながらも、工場の稼働する平日は毎日全身にジンマシンが出ます。手のひらほど腫れ上がるジンマシンは、工場の休業日にはきれいに消えます。そして月曜の始業とともに全身に発疹し、腫れあがります。二年前にも同じようにジンマシンが出、一年近く発疹を繰り返しました。そんな風になる前に何か方策をとれば、と思われるかも知れません。
しかし低周波音は、これまで述べてきたように遮音が難しく、被害者には防ぐすべがありません。その場を離れる以外に自衛策がないのです。とはいえ、簡単に家屋敷を処分することも、二重生活もできません。ましてや、低周波音被害の発生源である工場の存在が資産価値を損ない、処分を不可能にしています。
そんな逃げ場のない苦しみを強いられる生活に、追い討ちをかけるような仕打ちを、ご近所様から受けることになりました。
近所のテナントビルのエアコン室外機が経年劣化かものすごい音で回り、工場の休業日なのに頭痛がし、仮眠を妨げられ、「駆動音がつらいので整備してもらえないか」とビルオーナーに頼みに行きました。しかしオーナーは最後まで聞くことなく「どこでも付けている物に、なんでお宅だけいちいちうるさいと文句を言うのか。ご近所様ならお互い様だろう。」と逆ギレされました。この室外機は14年前のもので間に家を一軒置いて稼動音が聞こえ、部屋の中でよどむようにウォンウォンと低く響き続けるのです。エライご近所様はその後も平然と、うるさいエアコンをご愛用中です。
このような事例は、低周波音症候群被害者の会では、多々報告されています。都会のマンションに住んでいたAさんは、近所のスーパーの保冷機器から発せられる低周波音に苦しんでいました。
彼女は購入したばかりの自宅の中で、24時間365日ウォンウォンと響き続ける音に、日常の家事をこなすことも休むこともできず、ひどい体調不良に苦しんでいました。もちろんマンションの管理者にも行政にも相談しました。ところが発症までの個人差の大きさゆえか、保冷機の音をうるさく感じている住人はいても、彼女のように苦しみを訴える住人はいません。行政にも放置され、次第に彼女の一人息子も情緒不安定になり、夫も不眠を訴えるようになってしまいました。彼女の憔悴はいや増し、やがて愛しい一人息子をおいて入退院を繰り返すまでに……。今彼女の一家とは連絡が取れません。
『週刊金曜日』暮らしコラム(2007年10月5日№.673号)津木とねこ
編集部03-3221-8521(禁無断転載)