本件は,被告を定年退職した原告が,被告に対し,再雇用を希望する旨の意思表示をしたところ,被告がこれを拒否したが,同拒否の意思表示は正当な理由を欠き無効であるから,被告との間で平成21年4月1日付けで再雇用契約が締結されていると主張して,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めた事案です。
本判決は,
「以上のとおり検討した法の趣旨,再雇用就業規則制定の経過及びその運用状況等にかんがみれば,同規則3条所定の要件を満たす定年退職者は,被告との間で,同規則所定の取扱い及び条件に応じた再雇用契約を締結することができる雇用契約上の権利を有するものと解するのが相当であり,同規則3条所定の要件を満たす定年退職者が再雇用を希望したにもかかわらず,同定年退職者に対して再雇用拒否の意思表示をするのは,解雇権濫用法理の類推適用によって無効になるというべきであるから,当該定年退職者と被告との間においては,同定年退職者の再雇用契約の申込みに基づき,再雇用契約が成立したものとして取り扱われることになるというべきである。」
とした上で,所定の要件を満たすかどうかについて検討し,
「本件再雇用拒否は,原告が再雇用就業規則3条所定の要件を満たすにもかかわらず,何らの客観的・合理的理由もなくなされたものであって,解雇権濫用法理の趣旨に照らして無効であるというべきである。そうすると,原告は,再雇用就業規則所定の取扱い及び条件に従って,被告との間で,再雇用契約を締結することができる雇用契約上の権利を有するというべきであるから,原告の平成19年7月30日付け再雇用契約の申込みに基づき,原被告間において,平成21年4月1日付けで再雇用契約が成立したものとして取り扱われることになるというべきである。」
と結論づけました。
高年法には私法的効力がないという判断がいくつかの裁判例でなされていたところですが,この判決からは,就業規則の規定によって私法的な拘束力が生じるリスクがあることが分かります。
対策としてまず考えられるのは,就業規則の内容をよく吟味して,作成,改訂することです。
東京大学出版会の再雇用就業規則の「(1) 健康状態が良好で,8条(勤務日,勤務時間)に定める勤務が可能な者,(2) 再雇用者として通常勤務ができる意欲と能力がある者を再雇用する(3条)」という規定の仕方はちょっと…。
今さら,就業規則の改定が難しいようなら,65歳までの現実の雇用を免れない可能性が高いことを前提として,60歳までの賃金額を減らし,それを60歳以降の賃金に振り分ける等の工夫ができないか,検討していくことも検討してもいいのではないでしょうか。
こちらも難しい会社も多いとは思いますが,賃金表などを作成しておらず,昇給幅が経営者の裁量に委ねられている会社などでは,工夫の余地があるように思えます。
安易な就業規則作成は,リスクが大きいですね。
個人的には,10年後,20年後に,年金支給開始年齢がまた引き上げられる可能性があると考えています。
その際,定年が65歳以上でないとダメだとか,70歳までの雇用確保措置を取れだとか,規制が強まるリスクがあります。
現在の法規制のみを前提にものを考えるのではなく,時代を先取りして,対応を検討しておいた方がいいのではないでしょうか。
その意味で,いっそのこと,定年を65歳くらいまで上げてしまって,これまで60歳までで支給していた賃金の一部を,60歳~65歳の賃金に振り分けて対応することを検討してもいいかもしれません。
それにしても,再雇用まで,このような形で強制されるというのでは,新規採用時の選別には,本当に,手間暇をかけないといけませんね。
いったん雇ってしまうと,辞めさせるのが大変です。
弁護士 藤田 進太郎
本判決は,
「以上のとおり検討した法の趣旨,再雇用就業規則制定の経過及びその運用状況等にかんがみれば,同規則3条所定の要件を満たす定年退職者は,被告との間で,同規則所定の取扱い及び条件に応じた再雇用契約を締結することができる雇用契約上の権利を有するものと解するのが相当であり,同規則3条所定の要件を満たす定年退職者が再雇用を希望したにもかかわらず,同定年退職者に対して再雇用拒否の意思表示をするのは,解雇権濫用法理の類推適用によって無効になるというべきであるから,当該定年退職者と被告との間においては,同定年退職者の再雇用契約の申込みに基づき,再雇用契約が成立したものとして取り扱われることになるというべきである。」
とした上で,所定の要件を満たすかどうかについて検討し,
「本件再雇用拒否は,原告が再雇用就業規則3条所定の要件を満たすにもかかわらず,何らの客観的・合理的理由もなくなされたものであって,解雇権濫用法理の趣旨に照らして無効であるというべきである。そうすると,原告は,再雇用就業規則所定の取扱い及び条件に従って,被告との間で,再雇用契約を締結することができる雇用契約上の権利を有するというべきであるから,原告の平成19年7月30日付け再雇用契約の申込みに基づき,原被告間において,平成21年4月1日付けで再雇用契約が成立したものとして取り扱われることになるというべきである。」
と結論づけました。
高年法には私法的効力がないという判断がいくつかの裁判例でなされていたところですが,この判決からは,就業規則の規定によって私法的な拘束力が生じるリスクがあることが分かります。
対策としてまず考えられるのは,就業規則の内容をよく吟味して,作成,改訂することです。
東京大学出版会の再雇用就業規則の「(1) 健康状態が良好で,8条(勤務日,勤務時間)に定める勤務が可能な者,(2) 再雇用者として通常勤務ができる意欲と能力がある者を再雇用する(3条)」という規定の仕方はちょっと…。
今さら,就業規則の改定が難しいようなら,65歳までの現実の雇用を免れない可能性が高いことを前提として,60歳までの賃金額を減らし,それを60歳以降の賃金に振り分ける等の工夫ができないか,検討していくことも検討してもいいのではないでしょうか。
こちらも難しい会社も多いとは思いますが,賃金表などを作成しておらず,昇給幅が経営者の裁量に委ねられている会社などでは,工夫の余地があるように思えます。
安易な就業規則作成は,リスクが大きいですね。
個人的には,10年後,20年後に,年金支給開始年齢がまた引き上げられる可能性があると考えています。
その際,定年が65歳以上でないとダメだとか,70歳までの雇用確保措置を取れだとか,規制が強まるリスクがあります。
現在の法規制のみを前提にものを考えるのではなく,時代を先取りして,対応を検討しておいた方がいいのではないでしょうか。
その意味で,いっそのこと,定年を65歳くらいまで上げてしまって,これまで60歳までで支給していた賃金の一部を,60歳~65歳の賃金に振り分けて対応することを検討してもいいかもしれません。
それにしても,再雇用まで,このような形で強制されるというのでは,新規採用時の選別には,本当に,手間暇をかけないといけませんね。
いったん雇ってしまうと,辞めさせるのが大変です。
弁護士 藤田 進太郎