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労働審判制度の主な特徴

2011-03-21 | 日記
Q23 労働審判制度の主な特徴はどのようなものですか?

労働審判法は,
① 労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争(個別労働関係民事紛争)に関し,
② 裁判所において,裁判官(労働審判官)及び労働関係に関する専門的な知識経験を有する者(労使双方から1名ずつ選任される労働審判員合計2名)で組織する委員会が,当事者の申立てにより事件を審理し,
③ 調停の成立による解決の見込みがある場合にはこれを試み,
④ その解決に至らない場合には,労働審判(個別労働関係民事紛争について当事者間の権利義務関係を踏まえつつ事案の実情に即した解決をするために必要な審判)を行う手続(労働審判手続)を設けることにより,
⑤ 紛争の実情に即した迅速,適正かつ実効的な解決を図ること
を目的とするものです(労働審判法1条)。

労働審判手続の特徴はどれも重要なものですが,私が特に注目しているのは,
① 迅速な解決が予定されていることと
② 裁判官(労働審判官)が直接関与して権利義務関係を踏まえた調停が試みられ,調停がまとまらない場合には労働審判が行われ,労働審判に対して異議を申し立てた場合には,訴訟に移行すること
の2点です。

まず,①迅速な解決という点ですが,労働者の大部分は,解雇されたことなどを不満に思ったとしても,自分を解雇するような会社に本気で戻りたいとは思わないことが多く,転職活動や転職後の仕事の支障になりかねないことなどを懸念して,余程の事情がなければ,時間のかかる訴訟手続を利用してまで解雇の効力を争うようなことは多くありませんでした。
しかし,労働審判手続は,原則として3回以内の期日で審理を終結させることが予定されており(労働審判法15条2項),申立てから3か月もかからないうちにかなりの割合の事件が調停成立で終了しますので,退職後,次の就職先を見つけるまでのわずかな期間を利用して労働審判を申し立て,それなりの金額の解決金を獲得してから転職することも十分に可能となっています(ただし,調停が成立せず,労働審判に対して異議が出された場合は,自動的に訴訟に移行することに注意。)。
使用者側にも,労使紛争を早期に解決できるというメリットがありますが,従来であれば表面化しなかった紛争が表面化する可能性が高くなるという側面を有していますので,労使紛争の予防を意識した労務管理がますます重要となっています。

次に,②裁判官(労働審判官)が直接関与して権利義務関係を踏まえた調停が試みられ,調停がまとまらない場合には労働審判が行われ,労働審判に対して異議を申し立てた場合には,自動的に訴訟に移行する(労働審判法22条)という点も重要です。
通常の民事調停を利用した場合,裁判官は,調停期日のほとんどの時間は調停の場に同席せず,調停が成立することになったとき等,わずかな時間しか調停の場に現れませんし,必ずしも労働問題の専門的な知識経験を有するとはいえない調停委員が,調停をまとめることばかりに熱心になってしまい,権利義務関係を十分に踏まえずに,歩み寄りに難色を示している当事者の説得にかかることがありますが,労働審判手続では,裁判官(労働審判官)1名が,常時,期日に同席しており,労働関係に関する専門的な知識経験を有する労働審判員2名とともに,権利義務関係を踏まえた調停を行うため,調停内容は合理的なもの(社内で説明がつきやすいもの,労働者が納得しやすいもの)となりやすくなります。
また,民事調停であれば,調停不成立の場合には何らの判断もなされないまま調停手続が終了してしまい,そのまま紛争が立ち消えになる可能性もありますが,労働審判手続で調停がまとまらなければ,たいていは調停案とほぼ同内容の労働審判が出され,労働審判に対して当事者いずれかが異議を申し立てれば自動的に訴訟に移行することになりますので,うやむやなまま紛争が立ち消えになることは期待できません。
さらに,異議を出した後の訴訟で争っても,裁判官(労働審判官)が直接関与し,権利義務関係を踏まえて出された労働審判の内容よりも自分に有利に解決する見込みが大きい事案はそれほど多くはありませんし,訴訟が長引けば労力・金銭等での負担が重くなり,コストパフォーマンスが悪くなってしまいます。
これらの点が相まって,ある程度は譲歩してでも調停をまとめる大きなモチベーションとなり,労働審判制度の紛争解決機能を飛躍的に高めているものといえるでしょう。

弁護士 藤田 進太郎
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