『遊郭の女たち』

三重県伊勢市に古市という江戸時代に日本三代遊郭と呼ばれた地がある。
古市は江戸時代以降に伊勢参りをする参拝客の増加に比例して、伊勢神宮参拝後の人々が精進落としをする歓楽街として発達し、最盛期には妓楼七十軒、遊女千人がいたとされている。
伊勢の不夜城とされた古市だが、新道通に現在の伊勢市駅(旧・参宮鉄道山田駅)が出来るとともに、繁華街の中心はそちらへ移っていったという。
体験者のしげしさんは、昭和五十年頃、小学校三年生の時に祖母の代理として古市にある遊郭を訪れたことがある。しげしさんの祖父が急死し、祖母も体調を崩していた頃だ。
祖母からこう声がかかった。
「しげし、ここに行ってきて欲しいんだ。私が元気な時に受けた頼み事なんだけど、もう行けそうにないから」
祖母によれば、祖母の家系は先祖が口寄せをしていたことからか、何度か霊的な御用聞きのために古市に呼ばれることがあったという。普段厳しい祖母が孫である自分を頼むことは滅多になかったことから、しげしさんは“託された”と感じたそうだ。
「うん、分かった。どうしたらいい?」
「これを持っていくんだ」・・・(続く)

